約580世帯のうち、帰還したのは6分の1の約100世帯。福島県川俣町山木屋地区、避難指定解除からの半年

今年3月31日、国、福島県、川俣町の協議を経て、居住制限区域と避難指示解除準備区域という二つの避難指示区域が同時に解除され、帰還が決まった福島県川俣町山木屋地区。約580世帯1260人の住民のうち、帰還したのは6分の1の約100世帯240人。震災前の地域社会が戻ってきたとはとても言えない。

応急仮設住宅に残る40人
ほとんどは独居高齢者で19年3月が退去期限

しかし、7月には商業施設「とんやの郷」がオープン。そこで、小さなスーパーが食料品や生活用品を販売し始め、9月には「つながっぺ山木屋フェスティバル2017」という大きなイベントが開催されるなどの変化が起きている。

10月上旬に、山木屋地区を訪ね、地元の人に話を聞いてみた。
まずは、山木屋地区の農村広場に建てられた応急仮設住宅を訪ねた。住民は2019年3月末までここで暮らせるが、同時にそれが退去期限でもある。避難指示が出た直後、仮設住宅は満員で、駐車場も満車だった。今は若い家族が福島市などの近隣の都市部に転居し、その親たちも退去したため、残るのは40人程度だ。その多くが高齢、独居で、子どもの姿はまったくない。19年3月には行き場のない高齢者が残ることが予想される。

「残っている人の中には、仮設暮らしの中で家族を亡くし、山木屋にある自宅に戻ることへの不安がある人がいる」。山木屋地区自治会長の広野太さんはそう話す。仮設住宅と町中心部のスーパーや病院に寄るバスが定時に、高齢者の移動の足として巡回運転するが、乗る人は2、3人。これから冬を迎えて、閉じこもりがちになる人も多くなるだろう。

住民の男性は「20年、30年先のことを考えたら、故郷とはいえ喜んで戻る人はいないんじゃないか。戻って農業で食べていくことができるのかどうかもわからない。将来、この地区は消滅してしまうかも」と言う。避難後の6年で、亡くなった人は100人を超えた。

「仮設から出ると、自宅を補修したり、復興住宅やアパートを借りたりという経済的な問題、買い物や病院への移動の問題も出てくる。ここには仲間もいるし、安心感があるのでしょう」。広野さんは最後の一人までサポートしていく覚悟だ。

汚染地域の中に道路開通
農業再開できるかどうか?

川俣町には、原発立地地区の「浜通り」と、都市部が多い「中通り」を結ぶ国道114号が走っているが、この沿線の山裾に放射能雲がぶつかって線量が高くなった。震災後から通行止めが続いていたが、今年9月20日に解除され、浪江町津島などの帰還困難区域を横切って浜通りと中通りが結ばれた。しかし自動二輪や自転車、歩行者の通行は不可で、帰還困難区域の沿線にはバリケードが張られている。山林の除染も行われず、汚染地域のままで、生活道路にはなっていない。除染後の廃棄物仮置き場も民家のすぐそばにあり、依然として異様な風景だ。

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除染廃棄物の仮置き場が民家近くに広がる地域

その週末、山木屋公民館で敬老会が開かれた。参加したのは、元住民75歳以上の対象者120人のうち約80人。その多くが地域外に避難しているため、マイクロバスに相乗りしてやって来た。参加者たちの表情は和やかで、積もる話に花が咲いているように見えた。

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伝統的な山木屋太鼓や盆踊りで参加者が交流した敬老会

敬老会では地域が誇る伝統的な山木屋太鼓を若者たちが披露し、続いて、盆踊りが始まった。手拍子とともに立ち上がって一緒に踊り出す人も。その中の一人、夫と参加した菅野きくえさんは、この9月に山木屋地区に戻った。息子夫婦もその隣に自宅を新築しての“三世代同居”だ。「前は葉タバコや野菜を作っていたけど、原発事故の後に家の裏山の線量が高くなった。これからどうしようか」。農業を再開するかどうかを考えている。ただこの日は、友人たちと盆踊りに加わり、「こうやって集まるのは久しぶり」と笑顔を見せた。

山木屋地区への帰還者は急激に増える見通しはない、と地元の人々は口々に言う。やはり放射線の健康影響を避けたい住民が戻らないことと、避難先での定住が始まったことが主な理由だ。避難区域解除の後も、応急仮設住宅に継続して住む人や、地域外で避難生活を継続している人々への支援が欠かせないのは明らかだが、「政策」と称する「支援打ち切り」が続いている。

(あいはら ひろこ)

あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。
ブログhttp://ameblo.jp/mydearsupermoon/

*2017年11月15日発売の323号より「被災地から」を転載しました。

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