「ソーシャルビジネス」を学ぶ大学生に雑誌『ビッグイシュー』のビジネスはどう映るか/摂南大学に出張講義

ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や団体などで講義をさせていただくことがあります。

今回の訪問先は摂南大学経済学部で経営学を学ぶ岸田未来先生のゼミ。ゼミで寝屋川市の「ビジネスベンチャーコンテスト」に参加したことをきっかけに、「ソーシャルビジネス」の存在を知り、ゼミで興味が高まったことから「ビッグイシュー」に声をかけていただき、ビッグイシュー日本のスタッフ、そして枚方の販売者Sさんがお邪魔しました。

慈善事業ではない「ビッグイシュー」

まず「ホームレスと呼ばれる人を実際に見たことがいますか?」というスタッフの問いに対し、学生のうち2人だけが手をあげました。かつては全国に3万人以上いた路上生活者は、最新の調査では5,000人以下となっており、都市部の近郊ではホームレス状態の人は目に入る機会すら少ないことが伺われます。

そこで、現在ホームレス状態にある人の数が減っているとしても、仕事や家を失うリスクの高い予備軍や貧困状態にある世帯・ホームレス状態になるリスクのある人の数は依然多いという事実を伝え、ソーシャルビジネスとしてのビッグイシューが英国ロンドンから始まったこと、などをスタッフが解説していきました。

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講義に熱心に耳を傾ける学生

『ビッグイシュー』創設者であるジョン・バードは、ホームレス問題解決の手法として、福祉やチャリティではなく、あくまでも社会に役立つビジネスとして、『ビッグイシュー』を始めたこと、『ビッグイシュー日本版』は各国のストリートペーパーと提携して雑誌を制作していること、またこれまでに日本では約200人がビッグイシューを経て路上生活から脱出したこと、認定NPO法人と有限会社の違いやメリットなどを説明。

販売者のSさんからは、福岡県出身で様々な仕事に就いた後、30代から派遣としての仕事に従事したものの2008年のリーマンショックによって失業したエピソード、そして今の仕事の詳細ややりがい、仕事での工夫などを説明。「自分は安定した生活をしていない。“これで満足といえること”が安定だと思っています。企業がビジネスを通して社会的課題と向き合ってくれたら、働く人たちにとっても心からやりたいと思う仕事が増えて、社会全体が生きやすくなるのではないでしょうか」と語りました。

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参考リンク:Sさんの生い立ちエピソード・・・水商売の事業での失敗を経てホームレスに。販売者が語る「ビッグイシューは‘セーフティロック’」の意味とは

一通りの説明が終わると、経営学やソーシャルビジネスについて学んでいる学生ならではの、鋭い質問が寄せられました。

Q:赤字とのことでしたが、何か新しい施策は?

“路上生活者が減ったことで販売者が減少し、売上が低下しています。そこでいまでは販売者のいないエリアでの定期購読制度を展開しています。参考:ビッグイシュー日本版の定期購読制度

また、この授業のようにビッグイシューや貧困問題、それに販売者が語る人生の話を学生さんに聞いてもらうことはとても価値あることだと考えていて、講演活動を広げていきたいと考えています。”

参考:ビッグイシュー日本の講演・講義

Q:デジタル化にどう対応していくのか?

“紙のメディアがかつてよりも力を失ってきていることから、「ビッグイシュー・オンライン」で認知度を上げることだけでなく何か事業となることができないかを検討しています。

また時々「電子マネー化をしては?」と言われることもあるのですが、これはすでに取り入れている海外のストリートペーパーがいくつかあります。しかし、その事例を見ると、路上では雑誌を買う方が手軽であることや、導入・運営コストとつり合いが取れず失敗したと語るケースもあり、慎重に見極めていかなければなりません。”

Q: ソーシャルビジネスに関わることの醍醐味は?

“私の場合ですが、大学卒業後にインドへ行き、「マザーテレサ」の施設でボランティアをしました。そこで知ったことは、ヨーロッパの人たちはボランティア休暇が確立されていて自分の休みもある。しかし、日本からボランティアで来た人はほとんどが有休を使ってボランティアに来ていました。そこで「社会貢献を仕事にしながら、休暇もちゃんと取れる仕事をしたい」と気持ちが芽生え、日本に帰ってきたときに出合ったのが「社会的企業」と呼ばれるビッグイシューでした。

仕事によっては、「この仕事をやっていて何の意味があるのだろう」と考えてしまう人もいるかもしれないが、「ビッグイシュー」には目的がはっきりしているのでそこで迷うことがない、ということが醍醐味です。”

Q:どうやって販売者の人たちと信頼関係を作るのか?

“ビッグイシューのスタッフは、販売者さんを「”ホームレス“の〇〇さん」として接していません。今日来てくれているSさんには「Sさん」として、浜田さんなら「浜田さん」として「対等」に接しています。当たり前のことですが、これが自然にできていることが大事だと思っています。

またそれに加え、「販売者さんがどうしたいか」を大事にする「セルフヘルプ」を念頭に置いてサポートしています。例えば、販売者さんの売り場を決めるとき、空いている販売場所を示して、自分で選んでもらいます。自分で選べるから頑張れるんです。この「自分で選ぶ」ことを重んじる「セルフヘルプ」のサポートが、結果的に信頼関係につながっていると思います”

Sさんも、「自分もお茶を飲みに行く感覚で事務所を訪れている。こういう生活していると人とあまり話すことがないので、仲間やスタッフの人と話に行くという感覚で事務所を訪れています。」と補足しました。

講義を終えて、学生に湧いた想い

講義後のアンケートを見ると、「ホームレスという言葉に対して印象が変わった」「ホームレスはあくまで「状態」を表す言葉と知った」という肯定的なものがほとんどでした。

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「ホームレスには働く気力が全くない人たちだという先入観があったが、様々な問題に直面し、仕方なくなってしまった人たちであり、「家がない状態」を表すものだと変わった」

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「ホームレスから抜け出せない階段があることを知りました」

また、経営学を学ぶ学生らしい感想もありました。

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「ビジネスを始めるきっかけは人のお困りやお悩みであると聴いた事があります。ホームレスに目を付けたのはそのきっかけに合っていると思った」

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「販売方法が他の企業のやっていなさそうな方法で、独自に利益を上げていることに感心しました」

ゼミ長の学生は、スタッフに熱心に自分の関心のあるソーシャルビジネスについて、感想や質問などを続けていました。

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授業後、話し込むゼミ長の学生とスタッフ

今回、ビッグイシューに声をかけてくださった岸田未来先生はスウェーデンの企業経営や労使関係などを研究されており、ソーシャルビジネスに関心があるとのこと。

“私のゼミ(2年生、15名)では、経営学を主な専門としていますが、本年はこれまでソーシャルビジネスと地域経済に焦点を当てて、大学の地元である寝屋川市でのベンチャービジネス・コンテストへの応募や、いくつかのソーシャルビジネスの経営者の方々にヒアリングを行ってきました。

年度末には大学でのプレゼンテーション大会にて、現在の日本では、ソーシャルビジネスは一般的なビジネスと比べてどのような独自の役割を担っているのか、またその運営上の困難とそれを克服する条件、などについてまとめたいと考えています。そこで、ソーシャルビジネスとして歴史と実績のあるビッグイシューの仕組みと、その立ち上げから現在に至る歴史などについて詳しくお話を聞かせていただきたいと思い、問い合わせをしました。

今回の授業で、ビッグイシューが様々な人たちのネットワークに支えられながら、貧困やホームレス問題という大きな社会問題に取り組んでいる実態がよくわかりました。学生も、普段の授業では聞くことのない販売者さんのリアルな生活体験のお話をうかがって、視野が広がったようです。ソーシャルビジネス独自の役割は何か、というテーマについては現在(12月)も学生と考えている真っ最中ですが、私が思うに、ボランティアなどではなく「ビジネス」として運営することで、そこで働く方の雇用保障や職業人としての評価を高め、社会貢献を仕事にしたいと思う多くの人々(吉田さんがまさにそうですが)に、幅広い選択肢を提供できることが一つ大きな役割ではないかと感じています。”

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岸田未来先生(左)と学生をつれて聴講にいらした原田裕司先生。

外を出るともう真っ暗。Sさんはこれから職場から家路につく人たちを狙って販売する、ということで、すっかり冷え込んだ夜の町に向かっていきました。

写真・取材協力:中尾まり

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人権・道徳・格差・貧困、自己肯定感、社会的企業について出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

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