「路上生活は違法」として路上生活者から罰金を徴収するデンマーク。移民排除政策で苦しむのは自国民!?

2018年3月に議会を通過した「反ホームレス法」によって、デンマーク警察には路上生活者に罰金を科し、「特定区域禁止令(zone ban)」を命じる権限が与えられた。この地域のストリート誌『Hus Forbi』の販売者2名も罰金を科せられ、コペンハーゲン市内から追い出される羽目に。これを受け、『Hus Forbi』では募金活動を実施している。


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コペンハーゲン市内で実施されたデモ活動。路上生活者への支援を示す約1,000名の人々がトーチを手に街を歩いた。/写真:Mette Kramer Kristensen

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この度『Hus Forbi』が始めた募金活動は、クリスマス募金などではない。路上生活をしていたことで罰金を科せられ犯罪扱いされてしまった販売者2人を支援するためのものだ。

2人は、10月30日の夜、首都コペンハーゲン中心部の歩道で眠りについた。少し離れた場所でも、他の路上生活者たちがすでに眠っていた。しかしその夜、2人は警察に叩き起こされ、1,000デンマーククローネ(約16,500円)の罰金を科されたのだ。 その理由は、警察が規定するところの「危険を招く野宿」をおこなっていたため。

この「危険を招く野宿」が何を意味するのか、それを明確に規定した法律はデンマークには存在しない。しかし、警察は些細な事態であっても、これに抵触するとして取り締まるようになっている。

つい最近も、コペンハーゲン市内でルーマニア出身の人が一人で野宿していたことで、750デンマーククローネ(約12,400円)の罰金を科されることが地方裁判所で確定した。

コペンハーゲン市内で適用されている「特定区域禁止令」とは

ここでいう「危険を招く野宿」とは、路上生活者が殴られる、物を盗まれる、レイプされる、小便をかけられる…といった、路上生活者のためのリスク管理…ではない。路上生活者が寝ていることで、周囲の人が感じる「危険」を指している。

警察の取り締まりを受けると、罰金に加え、3ヶ月間、コペンハーゲン市全域を対象にした「特定区域禁止令(*)」に従わなくてはならない。

*コペンハーゲン市内での移動や長時間滞在を禁じる規則。

「市内のホステルやシェルターに滞在することは問題ありません。 買い物、通院、就労、薬物やアルコール依存症の治療を受けることも可能です。 ただし、こうした目的なく路上に居続けること、歩き回ることは認められないのです」と説明するのは、路上生活者を法律面で支援している組織「路上弁護士(Gadejuristen)」の法学者マヤ・ルービヤ・ハンセン。

ましてや、市内の路上で眠ることなどできない。 これまでのところ、このような禁止令を適用しているのは国内ではコペンハーゲン市のみだ。

精神疾患のある販売者アンドレの場合

『Hus Forbi』の販売者アンドレも、こうした「反ホームレス政策」に翻弄されている。

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『Hus Forbi』の販売者アンドレ/写真:Mette Kramer Kristensen

「私は複数の精神疾患があり、室内にいると息苦しくなるんです。 四方を壁で囲まれた空間に一人でいることが難しいので、アパート暮らしが難しい。 人の足音や掃除機の音ですら辛いんです。」

彼はもう何年も路上生活をしており、鉄道の中央駅「ノアポート駅」の名物男でもある。駅周辺の店員や、近隣をパトロールする警察官ともすっかり顔なじみだ。

「もう何年も、駅の隣にあるクロトワ広場で雑誌販売をしてきました。 常連さんもいますし、駅周辺のホームレス仲間、声をかけてくれる人たちなど、何年もかけて人とのつながりができあがってます。私は何年も過ごしてきたこの街の路上しか知らないのです」

「私の場合、たとえ宿泊できるところを与えてもらっても、私はそこで過ごすことができないのです。私にとってはこの駅の周りが生活の場。私のことをよく理解してくれている病院もこの近くですし」

特定区域禁止令の対象は移民…?!

この「特定区域禁止令」に関する法律は、デンマーク議会で圧倒的多数の支持を得て可決された。議員たちは、この禁止令は外国から流れ込んできたホームレスの人々を対象にしていると主張しており、ラース・ロッケ・ラスムセン首相も議会でこう述べた。

「2017年の夏、単身者の物乞いや野宿を禁止する規則を制定したのは、移民が大挙して押し寄せたことで街の雰囲気が変わり、人々の間に不安が広がっていたためです」

しかし、デンマーク人の路上生活者だけを法律の適用外にすることはできていないのが現状だ。この禁止令によって、あらゆるホームレスの人々が大きな痛手を受けている、とハンセンは言う。

「市内にいられなくなって困るのは、むしろ地元デンマークの路上生活者です」

長年この街で生活してきた国内の路上生活者は、ここでしか得られないつながりもあれば、ここにいたからこそ医療費給付や社会保障などの支援を受けることができていたのだ。

販売者のアンドレもこれに同意する。 「大変なことになりました。 息子と路上でゆっくり話しもできなくなります…うちの場合、息子が私を訪ねてくるというのは、ノアポート駅周辺で落ち合うということなんです。」

「用事がある度に、わざわざ市外から歩いて来なければならないんです。この通り、 オーディン(愛犬)も疲れ切ってますよ」と言った。

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写真:Mette Kramer Kristensen

ストリートペーパーとしてサポートできること

特定区域禁止令に関する法案がデンマーク議会を通過したのは2018年3月のこと。 『Hus Forbi』では同年12月号で、こんな法令は全くもって必要ないものと論じる記事を掲載した。そんな法令がなくとも、警察には「危険を招く野宿」をやめさせる力があるのだからと。

実際、コペンハーゲンのフランク・イェンセン市長(元法務大臣)は、2016年11月時点で「コペンハーゲン警察は、今年度だけですでに48件の野宿を撤去させた」と公式声明を発表しているのだ。

今回の募金活動で集まったお金は、法的支援および罰金支払いに充てられる。ホームレス支援をしているNGO団体との協力で運営していく予定。

『Hus Forbi』の代表を務めるヘンリック・ソンダガード・ペダルセンは言う。

「理解に苦しみます。 政権交代を挟みつつも、デンマーク議会の大多数が、増え続けるホームレス人口に有効な対策を打ち出せていません。ホームレス人口はこの10年で30%近く増えています。 そして今、妥当な社会政策を打ち出すのではなく、路上生活者の存在自体を違法化する法案に同意しているのですから」

「このあおりを受けるのは、他でもないデンマーク人です。 違法だからといってこの地球上から消え去るわけにはいきません。ですから私たちは、せめても罰金の支払いをサポートし、違法であっても彼らが市内に留まり続けられるようにしたいと思っています。まずは、できる限りの抗議の意を示すことが重要です」

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ストリート誌『Hus Forbi』もデモの実行をサポート。オーフス市でも同様のデモが行われ、500名が参加したとされている。/写真:Mette Kramer Kristensen

By Poul Struve Nielsen
Editing by Tony Inglis
Courtesy of Hus Forbi / INSP.ngo








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