「福島県は避難者への2倍家賃請求をやめろ」「避難者を訴えるな」――。「福島原発避難者の住まいと人権を守ろう」と題した集会(呼びかけ人:熊本美彌子さん、村田弘さんら)が10月26日、都内で開かれた。参加した約120人が、行政の施策で避難先の生活拠点となる住宅を失おうとしている避難者の支援と、施策の変更を求める活動に向けて、連帯の声をあげた。
避難者の追い出しに反対し、約120人が参加した10月26日の集会
病気や失業の被災者はいずこへ
転居困難者に2倍家賃、訴訟
「福島県は避難者への2倍家賃請求をやめろ」「避難者を訴えるな」――。「福島原発避難者の住まいと人権を守ろう」と題した集会(呼びかけ人:熊本美彌子さん、村田弘さんら)が10月26日、都内で開かれた。参加した約120人が、行政の施策で避難先の生活拠点となる住宅を失おうとしている避難者の支援と、施策の変更を求める活動に向けて、連帯の声をあげた。
発端は2015年6月。福島県は国と協議し、避難区域外からの避難者(=区域外避難者、自主避難者)の住宅無償支援について、「緊急性がなくなった」などとして17年3月で打ち切ることを決定。「一人ひとりに寄り添」い、「20年までには避難者をゼロにする」と説明し、激変緩和措置として、国家公務員住宅に避難する人へ19年3月までの2年間、国家公務員と同額で入居できる「セーフティネット契約」を提案した。
その契約書には「2年後に退去しない場合は、県は2倍額の損害金を請求する」などの条項が盛り込まれていた。そして県は今、病気や失業、母子避難といった事情から転居できない避難者に、毎月「2倍家賃」の請求書を送り続けている。
さらに県は9月、セーフティネット契約を結ばないまま退去していない避難者5世帯を相手取り、明け渡しなどを求める訴訟提起の議案を県議会に提出。賛成多数で可決されたため、今後、県が避難者を訴える可能性がある。支援団体や避難当事者団体などは抗議声明を出し、「避難の協同センター」など3団体は国連人権理事会に意見書を送付。2倍家賃請求を止めるよう求める署名活動も続いている。
原発事故から8年。避難者は家や仕事を失い、友人やコミュニティとも離れた人が多い。家の周囲が除染されず、被曝を避けるために帰れない人もいる。代替の支援策がおざなりなまま、住宅無償支援の打ち切りと、それに続く「2倍家賃」請求、明け渡し訴訟。国や県は避難者を守るどころか、生活基盤を失わせる危機へと追い込んでいる。
避難の必要がなくなるまで県に“住居の保証の責任”ある
この日の集会では、訴訟の対象となる男性が実情を訴えた。震災時、会社で仕事ができなくなり、同僚らから避難を促されて避難した。その後、東京都の紹介で東雲の国家公務員住宅に入ったが、体調がすぐれず、病院で甲状腺のバセドウ病、精神的ストレスと診断され、のちに障害者手帳を取得した。「紹介されたアパートは、貯金を切り崩して生活している私には払えない額。都営住宅の抽選にも8回落ちた。裁判ではなく、あくまでも話し合いで解決したい」と語った。契約だからと紋切り型で訴えるなら、病気の男性を追い詰めるだけだ。
井戸謙一弁護士は問題点を指摘した。「県は最初に避難者の居住継続の意向調査をし、最長2年賃貸するという貸付の方向性を提示したが、2倍条項は書かれていなかった。継続して住む意向を答えた避難者は『とりあえず住宅を確保できた』とホッとした。2倍条項が書かれていたのはその後、年度末に県から送られてきた契約書で、読んだ人も読んでいない人もいた。『契約する、しないの選択ができない段階で印鑑を押すしかなかった条項に拘束力は認められず無効だ』という主張は十分できる。県には避難の必要がなくなるまで、住居を保証する責任がある。今回の措置は権力の乱用だ」
呼びかけ人の村田さんは言う。「国や県が避難者の声に耳を傾けず、どれだけ追い詰めているのかという実態を多くの人にわかってもらいたい。避難者の方々がいかなる対応を選択されても、私たちは支えていきます」。さらに「避難の協同センター」の瀬戸大作さんは「避難者は経済的に困窮した人が多い。福島県は困窮の実態を調べているのにその実態を公表せず、支援を打ち切る。その理不尽さに最後まで抵抗していくつもりだ」と語った。
(写真と文 藍原寛子)
あいはら・ひろこ 福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。 |
*2019年11月15日発売の『ビッグイシュー日本版』371号より「被災地から」を転載しました。
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