温室効果ガス“46%減”との公約 次期首相は継承か? 経済産業省の消極姿勢に不安

 前回(414号)は経産省の「エネルギー基本計画」を取り上げたが、今回はそれと密接に関連する環境省の「地球温暖化対策計画」を取り上げたい。政府はこの対策計画を9月3日に了承した。

2050年にカーボンニュートラル
46%減は2030年時点の中間目標

 5年ぶりの改訂である。この計画は首相官邸に設置された地球温暖化対策推進本部がまとめたもので、2030年に2013年と比べて温室効果ガスを46%削減するというもの。それに向けて産業部門や運輸部門、家庭部門がそれぞれ目標とすることを記している。

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 この削減割合は、バイデン大統領が呼びかけてオンラインで行われた気候サミット(21年4月)で、菅首相が公約したものだ。さらにスピーチでは「50%の高みに向け挑戦を続けていきます」と宣言した。46%という数値は、2050年にカーボンニュートラル(二酸化炭素排出量を実質ゼロにすること)を達成するために、中間点での最低限の目標として出てきたもの。「2019年度の排出量は13年比14%減であり、現行計画が26%削減だから達成は困難」などいろいろな意見があるなか、それを押し切っての公約だった。現行の対策は各部門の無理のない対策を積み上げた結果だが、そもそもこれがゆるすぎで、カーボンニュートラルは達成できないとの強い批判がある。

 温暖化対策では大胆な政策を掲げた菅首相だが、次期総裁選には出馬しないとの突然の表明に、自民党内は混乱しているようだ(9月上旬現在)。それはともかく、次期首相はこの路線を継承できるのか。経済産業省の消極姿勢などを考えると不安がよぎる。

 しかし、温暖化対策は待ったなしだ。報道によれば、温暖化による台風・暴風雨や高気温などによる2020年の世界の被害総額は10兆円に達し、洪水の被害は5兆円。さらに農業・畜産業の経済損失は新興国だけでも年平均1兆円を超えているとの報道もある。いずれも国連の統計を根拠とした報道だ。

 日本でも豪雨が多発し、台風は大型化している。「理科年表2021」でこの10年を振り返れば、特に甚大な被害をもたらしたのは、2011年新潟・福島豪雨、12年九州北部豪雨、15年関東・東北豪雨、17年九州北部豪雨、18年西日本豪雨があり、また台風では19年の15号と19号が記憶に新しい。

 行方不明や亡くなられた方々は10年で1158人にのぼる。こうした災害の繰り返しを考えれば、「野心的な」温暖化対策こそ望まれ、従来のゆるい対策に逆戻りしてはならない。

 了承された「地球温暖化対策計画」は、国民各界各層が温暖化対策の重要性を意識していっそう積極的な排出量の削減を呼びかけている。19年の排出量からさらに7億7400万tを減らすことが求められている。「徹底した省エネルギー、再生可能エネルギーの最大限の導入、公共部門や地域の脱炭素化など、あらゆる分野で、できうる限りの取り組みを進める」と謳っている。また、「みどりの食料システム戦略」(※)や循環経済(サーキュラーエコノミー)への戦略的な移行にも言及している点は評価したい。
※ 新技術体系の確立によって、食料・農林水産業の生産力 向上と持続性の両立を目指す戦略

 しかし、既存原発の活用に頼っている点は問題だ。原発依存を続ければ、旧電気事業者はこれを優先するため、結果として再エネの導入は「最大限」にはならない。また、対策計画の具体化が乏しい点も心もとない。産業部門では、これまで同様に「自主的な取り組みと推進」にとどまっている。「エネルギー効率の高い設備・機器の導入を促進する」と記しているが、促進するための具体策が見えない。

(伴 英幸)

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(2021年10月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 416号より)

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/