ブロックチェーン技術と社会課題-異色の組み合わせのように見えるものでも、アイデア次第でおもしろく、また大きな効果を生む取り組みになりえる。
2022年4月27日にオンライン開催されたBIG ISSUE LIVE のテーマは「社会課題を解決するNFT」。日本初のNFTコレクション「CryptoNinjaNFT」を立ち上げたビッグイシュー・オンライン共同編集長のイケダハヤトとともに、日本のNGO初のNFTチャリティオークションプロジェクトを主催したPLAS代表の門田瑠衣子さんに話を伺った。
聞き手:佐野未来(ビッグイシュー日本 東京事務所長)
NGO・PLASについて
「取り残された子どもたちが前向きに生きられる社会」を目指して、2005年からアフリカのエイズ孤児やひとり親家庭の支援を支援しているNGO・PLAS。
門田さんたちはアフリカでエイズ孤児の支援から始め、今ではシングルペアレンツの家庭を中心に、貧困家庭が小規模ビジネスに挑戦するための研修や伴走支援、カウンセリングなどの活動も展開している。それらにかかる資金の多くは、支援者からの寄付。そのため様々なファンドレイジングに門田さんはチャレンジしてきた。
そんな中、イケダのTwitterでの発信などをきっかけに2021年10月18日に日本のNGO初のNFTチャリティオークションプロジェクトを主催。
CryptoNinja 020という作品が、EXILEの関口メンディーさんによって14ETH(約660万円)で落札され、大成功を収めた。
参考:NFTチャリティーオークション、CryptoNinja 020はEXILE関口メンディーさんが14ETH(約660万円)で落札!
さらに門田さんは自身のNFTコレクション「Crypto Beautiful」を立ち上げ、そこで得た資金をアフリカの若者がブロックチェーンゲームで稼ぐRuiko Africa Guildに投資するなど、次々と新しい活動を展開している。
匿名のクリエイターさんに描いていただいており、現在は70作品ほど。
女性をエンパワメントする作品を集めているのだそう。
「Crypto Beautiful」と「Ruiko Africa Guild」の関係
チャリティとNFTの親和性の高さ
NFTチャリティについて「グローバルと直接つながっているので市場規模が大きい。これまでのチャリティとは規模が違います」と門田さん。
クラウドファンディングで600万円を集めるのは時間や手間がかかり本当に大変だが、海外のいいNFTコレクションと連携するなどで、注目や資金を集める力を秘めている。
「海外はかなりチャリティの事例が活発になってきており、大きく3つに分けられます」と門田さんは説明する。
① クリエイターとともにNFTのコレクションでチャリティをおこなう
② セレブなどの著名人に絵を特別に描いてもらいチャリティオークションにかける
③ 団体のアセットを使いオークションをおこなう
例:受益者である子どもたちの描いた絵でNFTをつくるなど
しかし、団体として寄付を暗号資産の形で受け取るのは難しくないのだろうか。
「今回暗号資産の寄付を直接受け取ったのは初めてだったんですが、取引所のアカウント開設からしてハードルはありました。」と苦笑する門田さん。
団体内でどのように暗号資産を扱っていくかという規定もなかったのでイチからつくる必要もあったという。
「暗号資産は(アドレスの文字を一字間違うなどでも)かんたんに失ってしまうおそれがあるので、団体がリテラシーを高めていかないと、せっかくの寄付を失ってしまいかねません」といった注意喚起も。
理想的には団体側がリテラシーを高め、理事など団体内の複数人と外部の協力者など、複数の署名があって初めて利用できる「マルチシグウォレット」を使い、着金や使用をみんなの確認・承認で進めていく堅牢なオペレーションを取ることが望ましいのかもしれない。
日本のNPOはまだまだNFTへの取り組みは進んでないものの、海外での裕福なコレクターを対象にした成功例などを見ると、今後のファンドレイジングではNFTも非常に重要になると考えられる。
社会的課題を解決するブロックチェーンゲーム!?
ブロックチェーンを使ったゲームの報酬は、トークンと呼ばれる暗号通貨。
報酬をそれぞれの国の法定通貨に換えることができるため、世界中のプレイヤーとゲームをプレイすることでトークン(=お金)を稼ぐことができる。
しかしゲームのキャラクターはNFTなので、アフリカの低所得な人たちはプレイしようにもNFTを買う余裕はない。そこで、門田さんが購入したNFTキャラクターを現地のプレイヤーの人々(スカラー)に貸し出し、勝った時の報酬を門田さんとスカラーたちで分け合っている。
現地のリアルな仕事と比較して、こういったゲームは儲かるのだろうか?
門田さんいわく「トークンの価格がかなり上下することもあり一概にはNFTゲームのほうが儲かるとは言えません。安定性はまだまだこれからの課題です。でも生計を立てるというよりは、学生さんたちが休み時間などに楽しみながら取り組んで、学費の一部に充てていることも多くあるようです」とのこと。
最近のさらなる変化としては、得た報酬をすぐに現金化するのではなく、トークンを預入(ステーキング)し、利子をもらうような形で資産を増やす人や、自分でNFTのキャラクターを買い、自分のNFTキャラクターでプレイする人もおり、そういった人たちは自分を「マネージャーになった」と表現しているのだそう。
このようなブロックチェーンを使ったゲームには、経済格差を緩和したり、新興国の大きな人口を活かす形で別の経済圏が広がっていったりする可能性もあるだろう。
現地のゲームプレイヤー(=スカラー)はどのように見つける?
初期のころは、各ゲームのDiscord(コミュニティのようなもの)で門田さんがアフリカの人たちを検索し、DMを送ってスカウトしていたが、現在では、既存のスカラーのクチコミでスカラーになる人も多いのだそう。
Ruiko Africa GuildのDiscordには誰でも入れるので、スカラーになりたい人たちは自分がいかに優秀なゲームプレイヤーであるかや、“報酬をこんなことに使う”とプレゼンするなどして「この人を仲間として入れたい」と思ってもらうようアピールし、既存のスカラーたちが選挙で決めているとのこと。
「その際、より他の人を助けている人が選ばれやすいと思います」と門田さんはいう。
たとえば「応募はどうやってしたらいいの?」という質問がDiscord上でされると、まだスカラーでないメンバーでも親切に回答をすることで、「あの人はよくコミュニティに貢献してるから仲間になってくれたらいいことがありそう」と判断されるなど、親切の好循環が生まれるようになっている。その環境の中で、互いに教え合い、切磋琢磨し、参加者全体が成長していくようだ。
デジタルの中で生まれる経済
国境がなくなって、世界中どこにいてもゲームが仕事になっていく、未来の経済の姿…。
日本ではまだピンと来る人は少ないかもしれないが、ブロックチェーンゲームのギルドはかなり大きなビジネスになっており、世界では10万以上のギルドがつくられているという。
アフリカの人々は近くに銀行がないなど、誰もが銀行口座を作れるわけではないため、電子マネーや暗号通貨が使われているという側面もある。その分、もしかしたら日本よりブロックチェーンが身近かもしれない。
またフィリピンやブラジルなどはすでに爆発的に流行っており、ゲームのトークンを法定通貨に現金化する必要もなくそのまま使える店も出現。人々の生活が変わり始めている。
(トークンはいったん法定通貨に現金化することで、そのトークンの価格が下がってしまうことがあるため)トークンのまま使える店が増えることで価値が下がることもなく、ますますトークン経済が広がる可能性もある。
フィリピンでは、ブロックチェーンゲームは副業にしろ本業にしろ「イケてる/かっこいい職業」と認識されて口コミで広がっているそうだ。
社会課題解決におけるDAO-自律分散型組織の可能性
ビットコインやイーサリアムといった暗号通貨を共同の財布で管理し、同じ目的のために集うオンライン上の自立的で分散的な組織形態をDAOという。暗号通貨と同じく、中央で統括する存在がない。
これまでは「社会課題を解決するのにNPO法人といった組織を作ろう」だったのが、もしかしたらこれからはDAOという形もありえる。
社会課題に対し、解決したい人たちが年齢・性別・国籍など関係なくリソースを持ち寄りNFTをつくる。
NFTの売り上げは(ブロックチェーン上の)法人・個人が所有していない「みんなのお財布」(トレジャリー)に入れるので、法人格は不要。
そして閉じられた会議で限られた人が使い道を決めるのではなく、DAOで透明性高く、みんながいいと思うものを議決して使い道を決めていくことができる。
使い道はプログラムで制御されるので、悪いことを考える人がいたとしても不正はありえない――。
「DAOは、民主主義も似て参加する人たちが良い判断をするのではと信じている仕組みだと思う」と門田さん。その哲学が気持ちいいと話す。
特定のイシューを解決するためのDAO、人類協働の財布をつくるという取り組みも今後生まれる可能性があり、非営利組織に大きな変化が来る日も近いのかもしれない。
BIG ISSUE LIVE #14「社会課題を解決するNFT」