Web3の技術で非中央集権的な社会はもたらされるか――米国のサイバーセキュリティ研究者の見解

ブロックチェーン、NFT(非代替性トークン、いわば偽造不可な所有証明書付きのデジタルデータ)、暗号資産(ビットコインなど)といった言葉を目にする機会が増えている。従来の銀行に代わるしくみを提供できる、アート作品の新しい購入方法になる、大きな投資チャンスだ、メタバースに不可欠などと言われている。しかし多くの人にとって、そのしくみは理解しがたく、リスクも大きく感じられる。こうした新しい技術をいち早く受け入れ、信念を持って支持している人と、大多数の人との違いは何か。そこにあるのは社会変革のイデオロギーだと主張するミシガン州立大学准教授でサイバーセキュリティ研究者リック・ウォッシュの見解を紹介しよう。

Web3の真の支持者は「信頼と腐敗」を語る

筆者たちは、米国発の人気オンラインコミュニティ「Reddit」上で、ビットコイン利用者たちがどんな議論を繰り広げているかを約3か月間にわたり調査し、論文にまとめた*1。最も熱心な主張をしていたのは、自らを「真のビットコイナー(True Bitcoiners)」と呼ぶ暗号資産の熱烈な支持者たちだ。Web3の技術や使用経験について語るテクノロジー愛好家ならびに暗号サービスのマーケティング担当者とは一線を画し、彼らが語っているのは「信頼と腐敗」である。

*1 “The Most Trustworthy Coin”: How Ideological Tensions Drive Trust in Bitcoin

政府や企業の腐敗に取って代われるのか

Web3の「真の支持者」たちは、政府や企業の腐敗ぶりを挙げつつ、社会のあり方がいかに政府や企業が押し付けるルールによって決められているか、そうした組織がどれほど腐敗しているかへの不満を語っている。人間が操るかぎり腐敗は避けられず、他者の支配や不当な扱いにつながりやすい。しかしビットコインやブロックチェーンなどの新技術を使えば、銀行を介さず、政府が発行する現金を介さない売買や、腐敗に取って代わる仕組みの提供が可能で、従来型の企業や政府に依存する必要もなくなると。

「政府は腐敗している」「技術によって、その腐敗を回避できる」という2つの信念に加えて、誰かが権力を握る社会のしくみを変革させたいとも考えている。物を売買する新しいしくみの提供にとどまらず、政府や企業への依存度が低い社会を実現でき、それはWeb3社会への参加者が多ければ多いほど叶いやすくなるのだと。

ひとつのイデオロギーとして

「中央集権であるべきではない」という信念がひとつのイデオロギーを形成しているようだ。人々が最新技術(Web3)を使わないことには、その社会変革は起こらない。つまり、技術とイデオロギーは切り離せない。

彼らが暗号資産の利用を勧めるのも、単に技術を広めたいからではない。暗号資産の使用は、政府よりもテクノロジーを信頼する社会への変革運動―政治的・社会的アクティビズムなのだ。この思想は、政府をテクノロジーで置き換えようとする「技術至上主義(テクノ・リバタリアニズム)」の極致といえる。つまり、技術による社会の統制に期待しているのだ。しかしそれでは、金融や経済の制御を重視するあまり、市民の自由が軽視されそうだが。

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暗号通貨を推奨する動きが、ひとつの政治アクティビズムとなっている。Vasil Dimitrov/E+ via Getty Images

暗号資産の推進がもたらす危険性

どんなイデオロギーにも共通して言えることだが、あるリスクを強調する一方で、それ以外のリスクを軽視する傾向がある。真の支持者たちが支持するイデオロギーも、「政府の腐敗」という問題を強調する一方で、暗号通貨の金融的なリスクを軽視してはいないだろうか。

実際、暗号資産で大きな負債を抱えた人もいる。暗号資産は理解するのも使うのも難しく、不正取引をくつがえすのも簡単ではない。銀行口座であれば金融機関が破綻したときにもある程度保護され、盗難があっても政府や企業が取り戻すのを手伝ってくれるが、Web3の世界にはそういった役割はない。

「Web3で社会変革を起こせる」と期待しすぎではないだろうか。Web3の世界では、企業や政府の支配から解放されると言われているが、私企業が提供するブロックチェーンもあれば、国によっては政府の規制もある。
今回の新しいテクノロジーだけでは、非中央集権的社会の到来は難しいのではないか、というのが筆者の考えだ。

著者
Rick Wash

Associate Professor of Information Science and Cybersecurity, Michigan State University

THE CONVERSATION

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2022年3月31日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

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