EU諸国の中で唯一、ホームレス状態にある人の数を減少させている国フィンランド。長期的ホームレスを解消する国家プログラムを率い(2008-2012年)、フィンランド最大の住宅支援NGO「Y財団」のCEOを9年間務め(2013 〜2022年)、ホームレス状態にある人への住宅提供を最優先で実施する施策「ハウジングファースト」の提唱者として国際的に名高いユハ・カーキネンに、フィンランドのストリート誌『イソ・ヌメロ』が話を聞いた。
Juha Kaakinen, photographer: Laura Oja
ーー サンナ・マリン政権(2019〜2023年6月)は、2027年までにホームレス問題解消を掲げていました。これは現実的な目標だと思いますか?
ユハ・カーキネン:はい、実現方法はわかっているのですから。フィンランドでホームレス状態にある人の数が減った大きな理由は、ホームレス問題が重要な人権問題であるとの政治的コンセンサスがあったからです。
ーー2023年の初め、ホームレス問題解消の実現方法に関する環境省向け報告書をまとめられたのですよね?
ホームレス人口が減少した今、それでもなおホームレス状態にある人の大半は、より難しい問題を抱えている人たちです。なので、さらに集中的な支援を長期的に実施する必要があります。そのための支援を組織し、リソースがきちんと割り当てられるよう徹底させなければなりません。
ーー2008年以降、ホームレス状態にある単身者の数が54%、長期的にホームレス状態にある人の数が68%減少しました。その背景には何があるのですか?
ホームレス問題解消を優先課題として共有し、国、役人、自治体、各種団体が粘り強く協力してきたことに尽きるでしょう。具体的には、支援住宅の建設や、既存アパートの斡旋などで、相当な数の住まいが人々に割り当てられました。ヘルシンキ市内の単身ホームレスおよび長期的ホームレス状態にある人の数が70%以上減少したことが、国全体の前進をもたらしました。しかし、防止策の観点では、まだまだやるべきことがあります。そもそもホームレス状態に陥らないようにすることがベストな策なのですから。
ーーここ数十年でホームレス問題をとりまく状況に変化はありましたか?
急速に変化しています。2008年時点での主な支援対象者は、アルコール依存症に陥り、簡易宿泊所や路上で生活している人々でしたが、昨今、中核となっているのは、いくつもの問題に加えて薬物依存症などを抱え、社会的に疎外された人々です。「ホームレス」とはその人の属性ではなく、そうなってしまった状態を意味しますが、その状態に至るまでに、さまざまな事情が絡み合っているのが昨今の特徴です。
ヘルシンキの町並み Jerry Uomala/iStockphoto
ホームレスの総数が減った一方で、より手厚い支援を必要とする人が増えています。ホームレス問題全般を撲滅するには、その人がどんな背景や問題を抱えているかにかかわらず、あらゆる問題の種を取り払わなければなりません。実際に効果のある解決策を見つける必要があります。ただし、その問題がどんなものであっても、住まいのない状態では問題を解決することなどできません。
ーー2023年までにホームレス状態にある人の数を半減させるという目標が達成されなかった理由は?
住宅支援策が展開されているとはいえ、新たにホームレス状態になる人たちは依然発生しています。「早期介入」にフォーカスし、住まいをアレンジする間に、より集中的な支援を実施していく、住宅移行期の支援をさらに進める必要があります。適切なサービスを受けるための枠組みはすでにありますし、医療・福祉サービスも、交換(診療・相談情報を組織間で共有すること)やポータビリティ(引っ越し等の際もスムーズな移行ができるようにすること)を重視する方針のもと、大幅な改革が進められています。
ーー昨今の経済状況や改革の必要性を踏まえると、まだまだ課題はあるということですか?
課題は医療・福祉サービスの領域にあります。たとえば、薬物依存は大きな社会問題ですが、それはホームレス問題のごく一部でしかなく、薬物依存とホームレス問題を同一視すべきではありません。ホームレス問題は、規模としては小さくなってきているので、あきらめず取り組めば解決できると思っています。
長期的ホームレス問題の解消に取り組むプロジェクトが発足した2008年も、よく似た状況で、経済はかなり悪化し、決してベストなタイミングではありませんでした。しかしホームレス問題対策は費用対効果が高いので、どんな経済状況であっても取り組むべきものなのです。
ーー「ホームレス問題の根絶は可能」との見方を支えるものは何ですか?
現場には献身的に働いている人がたくさんいますし、こうした前向きな進歩は可能だという実例はいくつもあります。政策決定者がこれまでと変わらず、この問題を理解してくれると確信しています。私がこの問題に取り組み始めた80年代は、今とはまったく状況が異なっていました。ホームレスを取り巻く状況が大きく変化するのを目の当たりにしてきました。だからこそ、ホームレス問題解消に向けた政治的決断が下されれば、実現できると考えます。べらぼうなリソースが必要となるわけではないのですから。
Y財団公式サイト(英語)
https://ysaatio.fi/en/
ユハ・カーキネン氏のTEDトーク「Give Me a Home, Not a Shelter」(英語)
Text: Veera Vehkasalo
Translated from Finnish via Translators Without Borders
Courtesy of Iso Numero / International Network of Street Papers
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