(2008年9月11日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第92号より)


経済的リターンの銀行、社会的リターンのNPOバンク—市民「出資」という金融NPOの可能性




日本には中世のころより、庶民が資金を互いに持ち寄り、
無利子・無担保で融通しあった「頼母子講(たのもしこう)」があった。
その現代版ともいえるNPOバンクが今、
新しいお金の回路をつくろうとしている。
金融NPOの今と可能性を、藤井良広さんに聞いた。


普通の銀行は営利を考えNPOバンクは市民事業を育てる



汗水たらして、お金を稼いだら、いったい何に使おう?

ショッピング、映画、遊園地……。いやいや、今晩のおかずのためにはスーパーへも行かないとね。あるいはコツコツとお金を貯金したい人だってたくさんいるかもしれない。当たり前な話だけど、自分で稼いだお金は自分の好きなように使っていいし、それは私たちに任された自由な選択の領域だ。

けれど、お金にはもっとたくさんいろんな使い方ができるんだよ、というのが今回のお話。あなたがその手に持っているお金が、きっとこの社会をもっともっと豊かにしてくれる。それも今までのように「寄付」とか「募金」とかそういうのとはまたちょっと違うかたちで……というのが話の一つのポイントだ。


上智0019

上智大学教授の藤井良広さんは「もしあなたの家の近くにとても気持ちのいい森があったとして」と話し始める。

「その森をどう維持していこうかという時、もし営利の金融機関(普通の銀行など)だけに任せていたら、地主はすぐに森を売って、マンションを建ててしまいます。じゃあ森を維持するためにはどうしたらいいかというと、やっぱり森を残したいという地域の意志を活かして活動をする人のために道具立てが要るんですね」

ここで言う「道具立て」というのが、いわゆるNPOバンクのことだ。

ではNPOバンクの役割はいったいどういうもので、普通の銀行とはどんな違いがあるのだろうか? せっかく森の話が出たので、それを例にして考えてみよう。

藤井さんの言う「営利の金融機関だけに任せていたら」というのは、つまり営利の側面「お金をもうける」ことだけを考える組織にとっては、森は維持するよりも売っ払ってしまい、マンションにでもしてしまったほうがずっともうけになるということだ。民間の金融機関はまずこうした選択を好むだろうし、そのためには地主に多額の融資(お金の貸し出し)だってするはずだろう。

一方、森を残したいという地域の意志を受けて、市民事業を立ち上げるグループが出てきたとする。彼らは維持される森を利用して、ささやかながらも利益をもたらすような事業を行っていくことに決めた。映画やドラマのロケ地として森を貸し出す、エコツアーを開催する……等々。

そんな時、今の銀行はまず市民事業立ち上げのためにはお金を貸してくれない。なぜなら、「それは必ずしも銀行が悪いんじゃなくて、仕組み上、事業の実績も担保もないところに融資をすると、融資した段階で不良債権扱いをされて、要管理債権ぐらいになってしまうからなんです」

そこで登場してくるのがNPOバンクというわけだ。

「NPOバンクであればその人たちが一所懸命やろうとしていることがわかって、しかも事業計画が一応あれば、単にお金を貸すだけじゃなくて、事業の運営もちゃんとサポートしてくれます。そうして活動の事業性が高まっていけば今度は信用金庫、銀行からもお金を借りられるようになってくるわけですよ。NPOバンクにはそうやって市民事業を育てていく機能があるんですね。今の営利の金融機関にはなかなかできないことです」


出資先は、太陽光パネル設置、フェアトレード、高齢者福祉、リサイクル、社会起業家支援など



おわかりいただけただろうか?

ここでのキーワードはたぶん「社会的リターン」だ。ある事業に対して銀行が融資を決める際、判断の基準とするのは基本的に「経済的リターン」(利鞘が見込めるかどうか)なのだが、地域のためや社会のため、みんなのためになる事業であるならば、あまりもうけにはならなくても、そういう「社会的リターン」を考慮してお金を貸しましょうというのがNPOバンクなのだ。NPOバンクの判断基準は「社会的リターン」の優先であり、「経済的リターン」の追求にはない。

後編に続く