ここ数年で急成長した業界の一つが、ネットやスマホアプリを通じた料理宅配サービスだ。しかし、配達数に応じて収入を得る配達員は「ギグワーカー」と呼ばれ、労働法の適用外といったさまざまな問題が指摘されてきた。同サービスが各国で広がる中、ドイツの最大手「リーフェランド」は基本時給を定め、抗議活動にも応じている。
配達なくても時給は下がらないが装備品、休暇取得などに問題
2020年の終わり、ドイツ・ハンブルクで初めて夜間外出禁止令が出た時、それまでほとんど需要のなかったある衣服がネット・オークションに出品された。それはオレンジ色のジャケットで、フードデリバリーサービス「リーフェランド(Lieferando)」の配達員が身につけるもの。この服を着ていれば夜遅い時間でも外出できると考えた人たちが、こぞって高値をつけて購入したのだ。
コロナ禍の都市封鎖で人々が自宅待機を強いられる中、配達員たちは大都市の道路を駆け巡った。ドイツ最大手のリーフェランドが今年1~3月に受けた注文数は、前年比77%増。他にもネットスーパーの商品を短時間で配達する「Gorillas」や「Flink」、今年春にサービスを開始した「ウーバーイーツ」など、同国にはスマホのアプリやネットを通じたデリバリー企業が続々と参入している。
しかし、リーフェランドの配達員として数年働き、労使協議会の運営も行うヨナス・ミュラー(41歳)はさまざまな内部事情を指摘する。たとえば、装備品。「会社が用意する雨具は防水ではなく、冬用ジャケットには十分な防寒機能がありません。もともとサイクリングに情熱を持っていた配達員にとっては、たいした問題ではないかもしれません。自前で、すでにいい装備をそろえていますからね。でも、配達員みんながそうではありません」

同社公表の情報によると、配達員は会社と契約を結び、希望勤務時間を申告できる仕組み。注文がない時の待機時間も含めた基本時給は10~11ユーロ(約1300~1400円)で、これは最低賃金をわずかに上回る額だ。さらに、自転車の修繕費も一定額が支給される。配達数が多い人にはボーナスも出るため、1時間あたり16・5ユーロ(約2100円)受け取っている人もいるという。ミュラーの場合は時給15ユーロ(約1900円)とチップが収入になっている。「今のところ配達数が少なくても不利になることはありませんが、今後条件が変わらないか心配しています」
本社と配達員のコミュニケーションは原則メールだが、「何週間も返信されないこともあります。配達員が休暇を取りたくても返事がなかったり、雇用契約期限の2、3週間前になっても、契約が延長されるのかどうかわからない配達員もいる。このようなことが日々起きています」。
配達員の半数は就労困難な移民
月160時間、走行距離千㎞超え
ミュラーによれば、配達員の約半数は移民や難民で、他の仕事を得るのが難しい人たちだという。この収入で家族を養っている人も多く、一日中働く配達員はスポーツ選手並みに身体を酷使している。「そういった人たちは、1時間平均7~8㎞も自転車で走っています。1日8時間、月160時間のフルタイム勤務をしたら、走行距離は月1000㎞をゆうに超えます」。中には身体に支障をきたす配達員もいるほどだ。
同社で働く難民の一人、30歳のハキーム(仮名)は14年にシリアからドイツに移住。同年3月に配達員を始め、現在は自家用車を使っている。「車だと(駐車や道路通行に時間がかかり)たくさんの注文はさばけませんが、それでも手取り1650ユーロ(約21万円)を得られているので前の仕事よりはましです」とハキームは話す。
デリバリーサービス業界はすでに配達員の確保に苦労している。そんな中でリーフェランド労使協議会のミュラーが望むのは、今後業界内で競争が進み、配達員の労働環境や賃金が改善されていくことだ。一方、利用するアプリで配達員が常時追跡されていないか、個人情報の流出という懸念もある。
また、飲食店側の負担が重いとの声も聞かれる。同社のポータルサイトを通じて注文があった場合、飲食店側が自ら配達をすると1件あたり13%の手数料、リーフェランドの配達員が配達すれば手数料は30%になり、店側の収益がほぼゼロということも少なくない。
さまざまな問題が指摘される一方で、光も見えつつある。この業界では顔を合わせることの少ない配達員たちがネットワークや労働組合を築くのが難しいといわれるが、8月中旬にはドイツ国内9都市で配達員や利用者約400人によるデモが起こった。

呼びかけたのは、あらゆる業種の労働環境改善を求めてきた独立団体「arbeitsinrecht」。この抗議を受けて、リーフェランドの親会社であるオランダ企業「Just Eat Takeaway」は、ドイツの配達員全1万人と今後の雇用者に対し、無期限の雇用契約を結ぶと発表した。同国最大手の決定は、業界の新しいスタンダードになると期待されている。
(Lukas Gilbert, Hinz&Kunzt/ INSP/編集部)
参照:arbeitsinrecht in deutschlandほか
メイン写真: Michael Ka
※上記は『ビッグイシュー日本版』416号(2021-10-01 発売)からの転載です。
ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?
ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。
