5人に1人。光・音・におい、刺激に敏感な「ハイリー・センシティブ・パーソン」とは?

 ドイツ北部のシュレースヴィヒ市には暗い灰色の雲がかかり、太陽がだんだんと沈んでいく。キッチンで撮影していたフォトグラファーが、大きな天井照明をつけようとしたのも頷ける。だが、それまで冗談を交えながらインタビューに応じ、楽しそうに撮影にのぞんでいたニナ・ペーターゼン(42歳)が突如としてカメラに向かってほほ笑むのをやめ、「やだ」と顔をそむけて言った。「私、この照明は一度もつけたことがないんです!」

 「やだ」? フォトグラファーは申し訳なさそうに肩をすくめたが、まさかそんな反応が返ってくるとは思ってもみなかった。ペーターゼンは照明を指差して「私にはあのチカチカ点滅する光が耐えがたいのです」と言った。取材チームはまったく気づいていなかった。「高度敏感性(※)をもつ人間は、まぶしい光に強いストレスを感じるのです」と彼女は語る。

※ 「敏感性の高い」などと呼ばれることもある。

シュレースヴィヒ市近郊のブレークリング村に住むニナ・ペーターゼン Photos: Peter Werner

病気ではなく人間の基本的特性
90年代半ばから研究さかんに

「高度敏感性」とは、周囲からの刺激や感情を強く感じてしまう気質のことだ。科学的には「高度な感覚処理感受性(SPS /Sensory Processing Sensitivity)をもつ」とも言われ、チカチカする光などの「刺激」をやり過ごせない。というのも「そのためのフィルターを持ち合わせていないからです」とペーターゼンは説明する。彼女はこの感覚処理感受性が高く、同じような気質をもつ人たちの相談にものっている。

 いくつかの調査によると、およそ5人に1人が高度敏感性の気質をもっているという。1990年代半ばには、米国の心理学者エレイン・アーロンとアーサー・アーロン夫妻が「ハイリー・センシティブ・パーソン」という言葉を考案し、研究がさかんになった。多くの科学者はこれを病気ではなく、人間の基本的特性の一つと考えている。

耐え難く働けなかった時期も。
気質を知るほどに対処できた

 ペーターゼンはこうした気質に「子どもの時から気づいていました」と言う。小学生の頃、同級生のひそひそ話に心をかき乱されたり、教室の反対側で誰かがかばんの中の探し物をしているカサコソする音すらも嫌だった。「本当にストレスだったのは、休み時間に開けるサンドイッチのにおいでした」と振り返る。

 当時は敏感すぎることでからかわれた。両親や先生、友達に、音やにおいがどれほど嫌なのかを打ち明けても「あなたがおかしい」「そんな振る舞いはよせ」「気のせいだ」と言われるのが関の山。感覚的な刺激だけではなかった。「不当な扱いというものが耐えられませんでした。これといった理由もなく先生が生徒を叱りつけたりすると、何日もそれが頭を離れませんでした」

 ペーターゼンは大きな声でよく笑うし、一見、人が思うような“センシティブ”な人には見えない。これについて尋ねると、さらに大きな声で笑い「どうして? この気質がある人すべてが内向的なわけではないんです!」と言った。

 それから少し声のトーンを落とし、この気質のせいで長年どれほど苦痛を味わってきたかを語った。保育所で先生として働いている彼女だが、まわりの世界に耐え難さを感じて何週間も働けない時期があったという。「周囲の喧騒に自分が壊れてしまうように思えた時期もありました」と明かす。

それが2年前、高度敏感性の当事者が書いた本と出合って状況が一変した。「自分にあてはまる箇所がたくさんあって、まさに私の人生を書いた本に思えました」。その後、このテーマについて精力的にリサーチするようになった彼女は、たくさんの文献にあたった。「高度敏感性について知れば知るほど、自分の特異な気質に対処できるようになったのです」

ヨガ、耳栓、保湿液……
少しの工夫で何だって楽しめる

 この気質の人がどんな特徴をもっているのかを他の人にも伝えていきたい。そんな思いで1年前に始めた「相談所」には、子どもを含めた10人が定期的に彼女のもとを訪れている。ペーターゼンは国内のホリスティック医学協会で「高度敏感性向けアドバイザー講習」を修了し、この気質をもつ人を見分けてサポートする方法を学んだ。

自宅の一室を「相談所」にしている。“廃墟”を自分で改修した家だという Photos: Peter Werner

 相談にのる目的は決してこの気質を取り去ることではないし、病気ではないので治療するものでもない。だが、よりうまくつき合っていく方法はある。ヨガが助けになる人も多いし、アーチェリーがよく効くという人もいる。「重要なことは、目の前の物事に集中し、それ以外のことはすべてシャットアウトできるようになることです」と言う。

 ちょっとしたコツが役立つこともよくある。クラブや映画館での大音量がつらいなら、耳栓をつければ大丈夫。クリスマスマーケットでよく見られるホットワインの香りがきつすぎるなら、鼻の下にいい香りの保湿液を塗っておく、など。「高度敏感性だからといってあきらめる必要はない、何だって楽しめるんだってことをお伝えしたいのです」

 この気質には“負の側面”だけでなく“肯定的な面”もあるのではないか? そう聞くと、「もちろんです!」とペーターゼン。「同僚や友人にこのタイプの人がいると役に立ちます。慎重に考え、他者の視点に立って物事を考えられる人たちですから」
 大切なことは「高度敏感性の人たちが、どういうものに心を乱されるのかをはっきり包み隠さず口にできるようになること」だという。「ハイリー・センシティブ・パーソン」でない人たちにもこの気質について理解してもらい、「お互いのことを気遣えるようになってほしい」と願う。
(Georg Meggers, Hempels /INSP)

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