ロシア研究の専門家が語るウクライナ戦争とその後

道徳的にとても耐え難いこの戦争をどう分析すればよいのか? ロシアを取り巻く現状、戦後を見据えた関係性について、ロシア研究を専門とする政治学者ゲルハルト・マンゴットにオーストリアのストリートペーパー『20er』がインタビューした。

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻以来、3千回以上(平均1日2回以上)の取材に応じられてこられたそうですね。

事実に基づき、冷静であろうと努めてはいますが、この長期に及ぶ争いは私の精神にも大きな負担となっています。政治学者としての矜持が取材を受ける力になっています。現状および今後の予測される動きについて、できるだけ多くの人に理解してもらえるよう心を砕いて解説するようにしています。さまざまな媒体を通じて発信することで多様な人々に情報を届けられますから、取材依頼があれば、基本引き受けるようにしています。

プーチンが2000年に大統領に就任した時​​点で、この戦争の可能性は予見できたと主張する声もありますが、どうお考えですか?

内政に関しては、プーチンが独裁的な統治を行うだろうことは当初から明らかでした。権力を集中させ、政党制度を操作し、下院を支配下に置き、メディアを抑圧し、新興財閥を政界から排除しました。ただ、外交政策に関しては、予見は難しかったのではないかと思います。
最初、プーチンは西側諸国との協力関係を模索していました。2000年にドイツ連邦議会で行い、世界的に称賛された演説は決して見せかけのものではなく、一つひとつの言葉に真摯な思いが込められていたように思います。西側の価値観を共有していたわけではありませんが、ロシアを大国としての地位に復活させたい彼には、西側諸国の力が必要だったのです。

ところが、2007年のミュンヘン安全保障会議での演説でプーチンと西側諸国との対立が明確になり、以来、西側に深い不信感を抱き続けています。2008年になると、彼が攻撃的で現状変更主義的な外交政策を追求していることが明らかとなり、過激化の頂点を極めたのが2022年のウクライナ侵攻です。

2014年のクリミア併合に対し、国際社会はどのように対応すべきだったのでしょうか?

ウクライナ東部の紛争解決に向けた対応は不十分だったと言わざるを得ません。ロシアはミンスク和平合意「ミンスク2」を利用して、ウクライナに対する政治的支配力を行使しましたが、ウクライナもその和平合意を完全に履行したわけではありません。
2021年初頭、ゼレンスキー大統領は外部から義務を押し付けられていると感じ、ミンスク合意のプロセスを終了させようとしました。今になって思い返せば、2014年から2022年の間に別の道筋を描くことができていたなら、こんな大規模戦争には至らなかったでしょう。

戦争が始まったことに驚きはありましたか?

2022年1月時点で、武力衝突に発展する可能性が非常に高いとは思っていました。でもそれは、ドンバス地域に限られるだろうと見ていました。ロシアが複数の戦線からウクライナを攻撃したことは戦略的な誤りだと考えます。私は、ロシア指導部がもっと理性的に行動することを期待していました。2月21日にロシアはドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国の独立を承認、その時初めて私はこれが大規模な戦争に発展すると実感しました。そして3日後、戦争が始まったのです。

戦争初期にウクライナがドンバス地域(ドネツクとルハンスク)をロシアに引き渡せば、さらなる流血を防げたのではとの見方もありますが、いかがですか?

でも、それには反対意見もあります。軍事的にはロシア軍がドニエプル川まで急速に進軍する危険性がありましたし、政治的には侵略者に利することとなり、「力こそが正義」という論理を認めることになりますから。
​​道徳的には、領土より人命の方が大切との見方もあるでしょうが、そうなると、どれだけの人がロシア占領下で生活することになったでしょう? 何より、プーチン大統領はそれで満足したでしょうか? プーチン大統領の目的は完全な領土支配を達成することではなく、限定的な主権を持つウクライナを確立し、ロシアの核心的利益を受け入れさせることだと私は見ています。

ウクライナが戦争に勝たないと、ヨーロッパ全体が次なる標的になると主張する声も聞かれます。

私はそうした主張は、巨額の債務で賄われる軍事費を正当化し、国民の支持を維持するための恐怖を煽る言説だと捉えています。「明日にはロシア軍があなたの国に攻めてくるかもしれない」という言説を広めることで軍事費を正当化しようとしているのです。NATOのマルク・ルッテ事務総長も先日、私たちの祖父母世代が経験したような戦争に備えなければならない、ロシアは私たちを次なる標的にしていると警告しました。こうした恐怖を煽る言説の正当性について、私自身は疑問を感じています。

停電となったまちをあるくキエフ市民 Kyiv, Ukraine Dec 21, 2022 photo:SlavkoSereda/iStockphoto

そうした見方には同意できないと?

私は、ロシアがNATO加盟国を攻撃することはないと見ています。NATO軍がロシアへの抑止力と防衛力を確保するために装備と人員を近代化する必要があるという点には同意しますが、恐怖を煽る言説は現実からかけ離れていて、政治的利益のために利用されていると感じています。

あなたのことを「プーチン擁護者」と呼ぶ人もいますが、どう思われますか?

マックス・ウェーバーが言ったように、学者の役割は「説明」することにあり、「正当化」することではありません。この二つは全く異なるものです。重要なのは「理解」であって「共感」ではありません。「ロシアの御用学者」「ロシアの手先」などと暴言を浴びせられることは少なくありません。ロシアびいきなのかとも言われますが、ロシア側のネット荒らしからは「ナチス支持のウクライナ人め」と言われています。私はどちらの側に立つかではなく、あくまで分析的であろうと努めているだけです。

学者として距離感を保つことが重要だと?

はい、でないと親ウクライナ派と思われ、ウクライナ側の努力について肯定的なことを言っても取り合ってもらえません。そうした外的な認識によって信頼性を損なってしまいます。ウクライナが勝利すべきと考える同僚も多く、道徳的にはその気持ちも理解できますが、私は冷静な分析的アプローチがより有益だと考えています。

戦争の行方に関して、さまざまな予測がされています。

私は物事をシナリオで捉えるようにしています。AとBが起こったのなら、Cも起こり得る。学者が問題視するのは断定的な予測です。2025年6月、私は戦争は戦場で決着がつくだろうと予測しました。今でもその考えに変わりはありませんが、そこまで断定すべきではなかったのかもしれません。でも、交渉による解決の見込みはないという肝心な点に変わりはありません。

戦後のロシアへの対応について、お考えを聞かせてください。

戦争が終わろうとも、ロシアとの冷え込んだ関係はそのまま続くと見られています。安全保障上も、非常に不安定な状況が続くとの予測です。ロシアを再び仲間に引き入れるため、過去のことは棚に上げ、すべてがまた元通りになったかのように振る舞うことではありません。どうすれば将来的に共存し、共通の問題を解決していけるかを共に検討していけるかが重要です。

先日ドイツのメディアで、「平和への恐怖」(fear of peace)という言葉が使われていました。兵器メーカーのラインメタル社が、戦争がなければ好調な売上を維持できなくなるため、平和への恐怖が広がっていることを指しているのです。全く意味を成さない言葉だと感じています。

戦後、ロシアとの平和共存は可能だと思いますか?

平和共存は、たとえロシアが軍事的に勝利したとしても難しいでしょう。重要なのは、軍事力を行使する戦争に発展しかねない「新たな冷戦状態」をもたらしたいのか、それとも「冷たい平和(cold peace)」(直接的な軍事衝突は回避するが、緊張関係が続き、真の協力関係は築けていない不安定な状態)を目指すべきなのかです。

ロシアの政治的、外交的な孤立状態を維持すべきとは思いません。欧州連合とロシアの間で対話を再開する必要があります。当然、根本的な相違は残るでしょうし、これからも、少なくともプーチン大統領が権力を握っている限りは敵対関係が続くでしょう。そうであっても、再び対話を始めることが何より重要だと考えます。

オーストリアのインスブルック大学で教鞭を執る政治学者ゲルハルト・マンゴット/Photo by Nicolás Hafele

Interview by Jakob Häusle
Translated from German via Translators Without Borders
Courtesy of 20er / INSP.ngo

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