ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や団体などで講義をさせていただくことがあります。
今回の訪問先は大阪大学。大阪大学大学院人文学研究科の北泊謙太郎助教が担当する「平和の問題を考える」授業のひとつとして、ビッグイシュー日本大阪事務所・所長の吉田と販売者のSさんがホームレス状態にある人を取り巻く社会的な壁や、ビッグイシューの仕事づくりについて学生さんたちにお伝えしました。

なぜ、家を失うのか。ホームレス状態になるとはどういうことなのか。路上生活から抜け出そうとする時、どのような壁に直面するのか。そして、実際にビッグイシュー販売者として路上に立つ人は、どのような経験を経て、いま学生たちに何を伝えたいのか。
教室では、吉田によるワークと、販売者本人の語りを通して、貧困やホームレス問題を「遠い誰かの話」ではなく、自分や身近な人にも関わる問題として考える時間となりました。
「ホームレス」は、その人の人格ではなく状態を表す言葉
講義の冒頭、吉田はまず学生たちに「ホームレス」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべるかを問いかけました。
世の中には、「ホームレスの人」に対して、怖い、近寄りがたい、不潔、働いていないといったイメージがあります。しかし販売者には、よく話す人もいれば、寡黙な人もいます。明るい人、几帳面な人、怒りっぽい人、優しい人、さまざまな人がいます。ホームレス状態に至る背景も、倒産、派遣切り、病気、うつ、災害、介護離職、コロナ禍での離職、人間関係のつまずきなど、一人ひとり異なります。
吉田が学生たちに伝えたのは、「ホームレス」という言葉は、その人の人格や性格を表す言葉ではなく、ただ「住まいがない状態」を表す言葉だということ。この視点は、学生たちのアンケートにも強く残っていました。言葉の捉え方が変わることは、見方が変わるということかもしれません。
「普通に働けばいい」が難しい理由
続いて吉田は、学生たちにコンビニ店長になったつもりで「住まいのある人」と「ホームレス状態にある人」のどちらの人を雇うかを考えてもらうワークを行いました。
ホームレス状態の人に対して「働けばいいのに」と思われる方も多いのですが、働く意欲があっても、住所や携帯電話(連絡先)、保証人がない、という状況では採用されることは稀ですし、さらに、たとえ採用されたとしても、給料が翌月払いであれば、働き始めてから初回の給料日までを乗り越えられません。
吉田は、こうした条件を一つひとつ学生と確認しながら、「普通のアルバイト」でさえ、ホームレス状態の人にとっては入口に立つこと自体が難しい場合があると説明し、格差が固定化されやすい社会の構造やその弊害についても触れました。
授業後のアンケートより
- 住所を失うことで職に就くことが困難になることが分かった。
- すべてを自己責任と考えていたが、社会の仕組みや状態によってホームレスになることを知った。
- 貧困問題は貧しい人たちがかわいそうだから解決すべきなのかと思っていたが、格差社会の弊害を知り、社会全体の問題として考える必要がある
さまざまな仕事を経て、Sさんがビッグイシューにつながるまで
講義の後半では、販売者のSさんが自身の経験を語りました。
Sさんは大阪府南部の出身で、いわゆる「普通」の家庭に育ちました。国立大学に合格するも、時代はバブル。「就職しなくても生きていけそう」という感覚から、高校卒業後は進学せずに、ピンときた仕事に就いていきました。パチンコ店でのマイクパフォーマンス、ゲームセンター、建築設備業界、保険営業など、さまざまな仕事を経験してきました。住宅設備会社では空調設備などの営業を担当し、その後、ファイナンシャルプランナーの資格を取り、法人向けの保険営業の仕事にも携わったそう。
しかしその後、上司に誘われて付き合ううちに金遣いが荒くなってきます。パチンコ、競馬、レバレッジの高い投資にハマっていくうちに、身内の大切なお金に手をつけてしまいました。
「手を付けてはいけないお金とわかっていても、それでもやってしまう。マイナスがどうしようもないほど、取り戻そうとしてやってしまう。それがギャンブル。」と諦めたようにSさんは話します。
そして、居場所がなくなり、すべてを捨てて家を出ます。ネットカフェで過ごしながら、手元のお金が尽きていく。就職しようにも、住まいもなく、生活の基盤がない。
いよいよどうにもならないと思ったとき、「釜ヶ崎に行けばどうにかなる」という噂を聞き、電話をかけました。職員が迎えに来て、まずはシェルターに泊まるために必要な結核の検査を受けることになります。
そのとき、検査まで待つように案内された部屋が、たまたまビッグイシューの仕入れ先でした。そこにいた販売者とやりとりしたところ「あんた、ビッグイシュー販売してみたら?」と誘われ、「やってみたい」と思ったことが、現在につながるきっかけになったといいます。
「お客さんも優しい」。販売者が語った、これまでの仕事との違い
Sさんは、ビッグイシュー販売について、これまで経験してきた仕事とは違う点として「モノ売ってるのにクレームがないこと。お客さんが優しい」と語りました。
一方でSさんは、ビッグイシュー販売だけで生活が十分に成り立つわけではない現実にも触れました。
そのため現在は、ビッグイシューの路上販売に加え、ビッグイシューが運営するシェア本屋「希望をつむぐ本屋さん」での仕事、ビッグイシューの通販や定期購読の発送作業、また販売中に出会った人から紹介されたスーパーや学校の手伝いの仕事など、複数の仕事を組み合わせながら生活を支えています。
講義の最後に、Sさんは学生たちに伝えたいこととして以下を挙げました。
「生きてる中でいろんなことあると思うけど、自分の内にこもらないで、声をあげたら何とかなる。『助けて』って言うこと。これが一番大事。あとは、年取ったら体が動かなくなるから、若いうちにやりたいことをやったらいいと思います」
授業後のアンケートより
- ホームレスの原因は家庭環境が大きいと認識していたが、世間一般で言う「普通」の人生を歩んでたSさんの話で認識が変わった。
- ホームレスというものに対して少し怖くて近寄りがたいイメージがありましたが、今回の講義で実際の話を聞けたことで考えが変わりました。
講義資料や統計だけではなく、本人の声を聞くことによって、学生たちは「ホームレスの人」という大きなくくりではなく、一人の人の経験として受け止めていました。
「助けて」と言えること、「助けて」を受け止めること
講義後のアンケートには、ホームレス問題や貧困を、自分や身近な人にも関わることとして受け止めたコメントが多く見られました。
- 僕はあまり助けを求められず抱え込みがちなので、ぜひ助けを求めていこうと思いました
- 学生でもできるボランティアにチャレンジしてみようと思った
“貧困/格差社会のオルタナティブを考える機会に”
今回の授業を担当している北泊先生からは、このようなコメントをいただいています。
お話の機会をいただき、ありがとうございました!
『「平和の問題を考える(平和の探求)」の授業で、なぜホームレスや貧困の問題を取り上げるのか。―この授業を受けはじめたばかりの大学生には不思議なことに感じられるかも知れません。しかしながら、ノルウェー出身の平和学者ヨハン・ガルトゥングが「平和」の対抗概念として「暴力」を提唱して以来、貧困・差別・搾取・疎外など社会構造のなかに埋め込まれた暴力が「構造的暴力」と位置づけられ、平和研究の課題は構造的暴力のない「積極的平和」の実現を追究することにあることが明らかにされました。このような理解は、社会にも少しずつ浸透しはじめていると思います。
このように、構造的暴力の中でも非常に重要な構成要素である「貧困」などの問題を具体的に理解してもらうにはどのような方法が考えられるのか。ビッグイシュー日本の吉田さんと訪問販売者のSさんによる特別講義は、受講生の従来の自己認識を転換し、その上で自分が社会に対して何をできるのかを考えてもらうという意味で、非常に貴重な学びの場となっていると毎回実感しています。今後もどうかよろしくお願いいたします。』
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。
図書館年間購読制度
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/
