都会暮らしの野生ペンギンたち。防波堤の建設により、棲みついて半世紀以上(豪)

メルボルンの中心部、セント・キルダの湾内に棲む1400羽のコガタペンギン。岩間に巣を作り、エサ探しは近距離内、のんびりした彼らの暮らしぶりを野生動物写真家ダグ・ギメシーが紹介する。

セント・キルダに棲むコガタペンギン。向こう側には高層ビルが立ち並ぶメルボルン中心部が見える Photos: Doug Gimesy  http://gimesy.com/

 ボランティアでペンギンを調査している科学者のゾーイ・ホッグと話していると、街に暮らすコガタペンギン(※)の生活はだいぶ居心地がよさそうだ。1400羽あまりが集団で暮らすのは、オーストラリア・メルボルンの中心部から南へわずか7㎞の場所。ここセント・キルダには、桟橋や防波堤に囲まれた湾がある。

※ リトルペンギンとも言い、身長はペンギンの中で最も小さい30㎝超。オーストラリア南部やニュージーランドに生息する。

 「ペンギンたちは朝4時頃に起きると、まず岩の上に立って仲間のペンギンたちとちょっとおしゃべりするんです」。非営利団体「アースケア・セント・キルダ」で30年働いてきたホッグは言う。「そして朝6時頃になると海に出て、しばらくエサを求めて漁をします。それが終わると、泳いだり波間にぷかぷか浮かんだりしてのんびり過ごし、夕暮れ時になると街に戻ってきます」

日中を海で過ごした後、巣に帰るところ Photos: Doug Gimesy  http://gimesy.com/

December, 2016. St Kilda Breakwater, St Kilda, Victoria, Australia.

 そしてまた、岩の上で少しだけ仲間とおしゃべりをする。「(繁殖期には)お互いに見つめ合って、今日はちょっと交尾とかしたい気分かな、なんて考えているようにも見えます」。その後、眠りにつき、翌朝また同じ日常を繰り返す。

防波堤の下で巣を作る2羽のコガタペンギン Photos: Doug Gimesy  http://gimesy.com/

 ホッグによれば、湾内だけで捕食して暮らし、都会のライフスタイルを満喫しているかのような野生ペンギンは世界でも類を見ないらしい。「ここのペンギンたちは、太っててぐうたらなんですよ」と彼女は笑う。

 たしかに、70kmほど離れた有名な生息地、フィリップ島のペンギンよりも明らかにぽっちゃりしている。エサを探すのにそれほど遠くへ行く必要がないので、運動量の違いが体形に現れているというわけだ。セント・キルダのペンギンがエサを求めて泳ぎ回る距離は一日平均約14㎞だが、近隣の島に住む同胞たちはその約2倍の距離を泳ぎ、さらには深く潜らなければエサにありつけない。

 都会で暮らすのに、騒音も特に気にならないらしい。「桟橋の飲食店でどんちゃん騒ぎが始まっても、ペンギンたちはたいていその下にもぐりこんでじっと耳を傾けているようです」とホッグは言う。コロナ以前は年間6~10万人がペンギンを見に訪れていたが、ペンギンたちはさして人間を気にするふうでもない。ペンギン観察エリアは現在、桟橋の再開発に伴い閉鎖されている。

 そもそも、なぜペンギンたちはもっとも“ペンギンらしくない”とも見えるこの場所に棲みつくようになったのだろう?ホッグによると、以前からこの地域には、はぐれ者のペンギンが迷いこんでいたらしいが、1956年のメルボルン・オリンピックの際に桟橋の先端にヨット保護用の防波堤が建設されると、それに気づいたフィリップ島のペンギンたちが移り棲んできたのだという。とりわけ岩と岩の間の小さな隙間は風が入らないため、巣作りに最適だった。時を経るにつれ、ペンギンの数は徐々に増えていった。

コガタペンギンにノミやダニがいないか検査するゾーイ・ホッグ(左)。非営利団体「Earthcare St Kilda」では、各個体の性別や体重を記録したり、マイクロチップを付けての追跡研究、防波堤の清掃なども行っている Photos: Doug Gimesy  http://gimesy.com/

 ペンギンにとって最大の脅威は、人間による汚染だ。船から流出した油が羽毛に付着すれば、溺死してしまう。水に浮かぶプラスチックごみやフラッシュ撮影など観光客が与えるストレスも、ペンギンを脅かす原因の一つ。「敬意を持ってペンギンに接してください」とホッグは言う。ペンギンたちの素晴らしき都会生活を守るために、私たちも力を尽くさなければならない。(Melissa Fulton, The Big Issue Australia)

Photos: Doug Gimesy  http://gimesy.com/

※2022年07月01日発売の『ビッグイシュー日本版』434号(SOLDOUT)より転載

メインビジュアル:コガタペンギンは繁殖期の間、同じ交尾相手と過ごすが、遺伝的多様性を維持するために次の繁殖期には海に出て別のパートナーを探す習性が見られる Photos: Doug Gimesy  http://gimesy.com/

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