編集部より:2016年10月22日に開催されたシンポジウム「1つのボールが人生を変える」の講演の模様を書き起こし形式でご共有いたします。※主催:NPO法人ビッグイシュー基金/スポーツフォーソーシャルインクルージョン実行委員会
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写真(横関一浩):ホームレス・ワールドカップのレイチェル・メイさん

社会問題とスポーツをつなぐ議論の場として

蛭間芳樹(野武士ジャパンコーチ、世界経済フォーラム ヤング・グローバル・リーダー2015) 1-1
写真(横関一浩):野武士ジャパンの蛭間芳樹さん

 私は、6〜7年前にビッグイシューの販売体験をしたことがきっかけで、野武士ジャパンの活動にコーチとして関わるようになりました。過去には、フランス・パリでのホームレス・ワールドカップや日韓戦に参加するなど活動してきました。

 今日のシンポジウムは、文部科学省、スポーツ庁、文化庁が主催で、我々ダボス会議が協力する「スポーツ・文化・ワールドフォーラム」の公式サイドイベントに位置付けられています。私の本業は銀行員なのですが、先日参加した世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズ年次総会では、世界の重要アジェンダとして格差や貧困の問題が熱心に議論されました。

 今日は、日本サッカー協会から田嶋会長、アーティストであり日本サッカー協会社会貢献委員会委員長の日比野さん、ダイモンカップから糸数さん、ホームレス・ワールドカップからレイチェルさんをお迎えしています。「A ball can change the life. 一つのボールが人生を変える。」をテーマに、サッカーとホームレスの問題やダイバーシティなど社会的な課題を議論できればと思います。

サッカーを楽しむ全ての方々を、サッカーファミリーとして

田嶋幸三氏(日本サッカー協会会長、国際サッカー連盟(FIFA)理事) 1-2
写真(横関一浩):日本サッカー協会田嶋幸三さん

 野武士ジャパンについては、ニュース、メディア等で気になっていました。今日は、野武士ジャパンの活動に関わっていらっしゃる方に初めてお会いできるということで、このシンポジウムを非常に楽しみにしていました。日比野さん、ダイモンカップから糸数さん、ホームレス・ワールドカップからレイチェルさん、野武士ジャパンの蛭間さん、ビッグイシュー基金の長谷川さん、加えて会場にお集まりいただいた方々など、今日のシンポジウム開催にあたりご尽力いただいたサッカーファミリーに感謝申し上げます。

 サッカーは世界で最も人気のあるスポーツです。FIFAの中でも、パレスチナ・イラク・シリアといった難民問題等についての話し合いが行われていました。私自身もヨルダンの難民キャンプ地にボールを届けました。何十万人という難民の方が、何もない広大な土地にテントを張って暮らしていらっしゃるが、そのような場所でも、ボール一つあれば、ストリートサッカーができる。それがサッカーの魅力です。日本サッカー協会は、誰もがいつでもどこでもサッカーを心から楽しむことができるように、2014年にグラスルーツ宣言を発表しました。また、今年4の月には、日本障害者サッカー連盟を設立し、障害の有無関係なく、サッカーを楽しむ全ての方々をサッカーファミリーとして日本サッカー協会に取り込んでいきます。

社会問題解決のツールとしてのサッカーへ

 今、世界中で大きな社会的な課題があります。その解決ツールとしてサッカーが貢献できるのであれば、誇りに思います。言葉の壁を越え、誰とでもすぐチームを組むことができる。そう考えれば、どんな課題も解決することができるのではないかと、サッカーは思わせてくれます。サッカーは、チームスポーツであり、相手をリスペクトしなくてはならないなど社会で必要な要素が含まれており、単に勝つだけが目標ではなく、サッカーをすることで次の人生のステップにつなげることができます。ダイバーシティカップは、性別・国籍関係なく楽しめる素晴らしい大会だと聞いていますので、私も見にいきたいと思っています。

 4年後には東京でオリンピック・パラリンピックがあります。スポーツの持つ価値は益々高まっていくことでしょう。様々な多様性を持つ人がサッカーに関わりやすいよう、後押ししていかなくてはならないと思っています。サッカー協会としては、レフリーの育成やコーチ・選手が指導者の資格を取ることができないかなど、あらゆる面で協力していきます。

 20年前は、女子サッカーは世間では全く注目されていませんでした。しかし、多くの積み上げを経て、2011年のFIFAワールドカップで世界一を取るまでになりました。社会に拘束されず、気概を持って取り組んでいる野武士ジャパンが、もっと世の中に浸透していくことを願っています。

参加70か国を取りまとめるレイチェル・メイ氏が語る:選手たちの人生を変えるホームレス・ワールドカップ

レイチェル・メイさん (ホームレス・ワールドカップ、国際パートナーシップ・マネージャー) 1-3
写真(横関一浩):ホームレス・ワールドカップのレイチェル・メイさん

 スポーツ、とりわけフットボールは様々な力を持っていますが、今回はホームレス・ワールドカップに焦点を当てます。ホームレス状態に陥っている方に対して、サッカーがどのような変化をもたらすことができるかについてお話しします。

 ホームレス問題は世界的な課題で、多くの人がそれに直面しています。国連の調査によれば、1億人の方が現在ホームレスになっており、10億人以上の人がきちんとした家に住めていません。貧困、社会的孤立やアルコール依存がホームレスに直結します。誰でもホームレスになりえます。この状況を変えるために、2001年にハールドシュミット氏、メルヤング氏がホームレス・ワールドカップを開催しようと決心しました。ホームレス・ワールドカップは、2つに重点を置いています。年に一度ホームレス・ワールドカップを開催しておりますが、①今まで活動してきた人たちのことを発信する場であること、②世界中で74か国に広がる74の連盟団体のネットワークがあることが大事な点です。

ホームレスへの意識・見方を変える

 ホームレス・ワールドカップは3つのゴールがあります。

1つ目は、日本でいうとビッグイシュージャパンのような支援団体の活動を讃えることです。支援団体は、74もの団体がありますが、彼らがホームレス・ワールドカップに参加する選手を選抜しています。

2つ目は、人生を変えるような経験を提供することです。

3つ目は、グローバルレベル・ローカルレベルの双方から、世の中の人がホームレスの方に対する見方・意識を変えることです。

2016年のグラスゴー大会では、22カ国の報道機関で取り扱われ、330万人がオンラインで試合を観戦し、そのうち180万人の方が生中継で見ていました。ホームレス・ワールドカップは、参加する方だけでなく、見ている方の意識を変えることも目的としていますが、グラスゴーに試合を観戦しに来た方のうち、84%がホームレスに対する考え方がポジティブに変わったと回答しています。また、同じく84%の方が、グラスゴーで主催して良かったと回答しています。大会を開催したことでのその他の収穫としては、ホームレス・ワールドカップが数々の賞にノミネートされたことや360人のボランティアが関わってくれたことです。ボランティアの方は、様々なバックグラウンドの人たちから成り立っており、個々が持っているスキル存分に活かし、大会の成功をサポートしてくれました。なお、ボランティアは、グラスゴー以外からも集まってくれました。360人のうち、約100名は、ホームレス、LGBT、依存症、難民など、社会的弱者の方達です。

 ここでは、例として、2人の審判を紹介させていただきます。一人はボルトガル人のジョンソンさん、もう一人はノルウェー人のアフリーさんで、この二人は以前に選手としてホームレス・ワールドカップに出たことがあります。その後、ホームレス・ワールドカップのレフリーコースを修了して、審判として活躍しています。アフリーさんは審判のプロになり、来年開かれるノルウェーの大会でもレフリーの中心的役割を担ってくれます。

支援の輪を市民、行政、そして社会へ

 もう一度話を戻しますが、ホームレス・ワールドカップを支える支援団体(連携団体)は世界中にあります。ビッグイシュージャパンを始め、これらの支援団体の方の現場での活動が、ホームレスの方の人生を変える重要なものとなっています。ダイバーシティやスポーツの価値を高めることを目的として活動しており、生活に必要な支援や生活する上での術を教えています。支援団体は、社会的困難を持つものに対し、自分自身の人生を変えることができるようにと、力を与えています。この他にも、社会に様々な貢献をしており、政府・公共レベルで政策変更のきっかけを作り、また、市民の方の考え方が変わるように、サポートをしています。

 2003年から毎年、様々な年で開催されています。オーストリアのグラーツで最初の大会が開催され、18チームが参加しました。2006年は、南アフリカのケープタウンで開催され、その時は大統領が参加しました。2008年は、オーストラリアのメルボルンで開かれ、10万人の方が参加しました。メルボルン大会では、大会終了後に、オーストラリア政府がホームレス問題解決のために150万ドルの投資を決めました。また、メルボルンは、女性が参加した初めて大会です。2012年のメキシコシティ大会は今までで一番大きな大会でした。メキシコはサッカーが人気な国で、観客は16万人以上、ネット上での観戦者は500万人でした。また、メキシコでは28,000人の方がホームレスのサポートに従事しています。次は、2017年にノルウェーのオスロで開催されますので、楽しみにしていてください。

 1つのボールが人生を変えることができます。スポーツは、変化を引き起こす力があります。ホームレス・ワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、FIFAワールドカップは、そのような変化が起こりやすいイベントです。リーダーやビッグイシュージャパンのような支援団体は世の中を変える力を持っていますので、ホームレスの人たちの人生を変えられるよう一緒に活動してください。

「シンポジウム「1つのボールが人生を変える」レポート(2/4) 」 は12/11公開予定です。





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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。