part.3を読む


司会:稲葉さん、ありがとうございました。続きまして住宅政策提案委員会委員長の平山洋介先生より提案をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。


データで見る日本の貧困な住宅政策

平山:今、稲葉さんから不安定居住の話があったのですが、私の方からは不安定居住を生み出す母体としての住宅事情がどうなっているのか、という問題について駆け足でお話しします。

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まず、このデータは、年齢別に持ち家率の変化を見たものです。日本の住宅政策は「みなさん家を買ってくださいね」と持家取得を促す方針を基本としています。この方針は、戦後一貫して続いています。ところが、現在では、若い人の持家率が大幅に下がっています。もうすでに、容易に家を買える時代ではなくなっている、ということです。

ところが、今では、特に若い人の持ち家率の下がり方が非常に大幅に下がっていまして、もうすでに若い世代では、家を買う、ということがすんなりいくような時代ではなくなっているということであります。

持家世帯の代わりに増加したのは、民間借家に住む人たちです。これまでの住宅政策では、民間借家というのは一時的に住む場所であって、家を買うまでの短い間、狭くて古くても我慢して住む場所、という位置づけをもっていた。住んでいる人も、いずれ家を買うのだから、短い期間だったら我慢しよう、と思っていた。しかし、民間借家に長く住む人が増えています。若い世代では、民間借家は必ずしも一時的な住まいとはいえなくなった。持家一辺倒の政策ではやっていけなくなっている、ということです。持家支援だけではなく、民間借家支援を含めた住宅政策を組み立てる必要があると思います。


みんなが結婚してみんなが家を買う時代は終わった

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続きまして、これは家族類型の変化を示しています。今お話しました持家促進の政策は、たいていの人は結婚して家族をもって家を買うというシナリオに基づいています。政策上の想定において、結婚と持家はセットになっています。

しかし、このデータにみられるように、結婚して家族をつくる人はどんどん減っています。増えているのは、単身の人たちで、すでに「夫婦と子世帯」より多い。

みんなが結婚してみんなが家を買うというような時代はすでに終わったんだ、という認識を持つことがまず重要だと思います。


所得が減っているのに、家賃は上がっている:消える低家賃住宅

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では、賃貸マーケットはどう変化しているか。世帯員が2人以上の勤労者世帯の家計に関するデータをみますと、平均所得がじわじわ減っていることがわかります。ところが、平均家賃は下がらず、むしろ上がっています。その結果、収入に対する家賃の割合、つまり家賃負担率がじりじり上がっています。

このデータに現れているのは、奇妙な現象です。一般に、市場経済では、所得が減ったら、価格は下がる。にもかかわらず、所得が下がっているのに家賃は上がった。

なぜかといいますと、話が少し複雑になるのですが、実は、家賃が上がっているわけではない。デフレ経済のなかで、どちらかというと家賃は下がり気味だと思います。しかし、低家賃の住宅の絶対数が減っていて、その結果、平均家賃が上がった、ということです。

賃貸市場というのは、例えば、家賃10万~15万円くらいの家族向け住宅のマーケット、5、6万円の1LDK、ワンルームのマーケット、それから低家賃の2、3万円の住宅のマーケットなどがあります。これらは、連続しているのではなく、まったく別種のマーケットを構成しています。そして、重要なのは、低家賃住宅の絶対数が減って、そのマーケットが縮小した、ということです。

賃貸市場では、単身者の割合が高い。その単身者だけを取り出して統計をみても、平均家賃が上がるという同様の傾向がみられます。単身者では、所得がより低く、家賃負担率はより高くなっています。

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次に、これは、東京都のデータで、年収別世帯数の構成比が経年的にあまり変わっていないことを表しています。

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ところが、家賃別の民間賃貸住宅戸数をみますと、低家賃の住宅が急速に減ったことがわかります。所得はさほど変わっていない、しかし低家賃の住宅は減った、ということです。

他方、現在の住宅事情の大きな特徴として、「空き家が増えている」ということがあります。住宅政策をもっとしっかりやらなくてはいけない、という話をしますとあちこちから「空き家だらけではないか」と言われます。自治体では、住宅政策をしようとすると、議会から「空き家がたくさんあるのだから、住宅施策は必要ない」という意見が出ます。

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今、全国平均の空き家率は約13%。賃貸住宅では約18%ときわめて高い。「どこに住宅問題があるんだ」という話になってしまう。

ところが、この首都圏のデータが示すように、空き家が多いのは、縁辺部です。集合住宅の空き家が25%を超えるというような自治体がたくさんあります。首都圏の縁辺部には、確かに大量の空き家があります。

しかし、都心では、空き家が多い自治体もありますが、空き家率がそれほど高いとはいえないエリアが広がっていて、空き家のなかには、老朽していたり、ひどく傷んでいたりする建築も多く、多くの人が入居したいという住宅の空き家率は、けっして高いとはいえません。

とはいえ、空き家が少しずつ増えているのは事実です。そうであるならば、なぜ、家主さんは、家賃を下げてでも入居者を確保しようとしないのか。一方で空き家が増え、他方で住宅困窮者が増える、という状況をどう説明するのか、という問題があります。この話は少し複雑で、今は8分しか与えられていませんので、質疑のところでできればと思います。


低家賃住宅が少ない日本

平山:先ほど、低家賃住宅の絶対数が減っているという話しをしました。その点を駆け足でお話しします。

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この図は、日本の住宅をまず持家と借家に分け、さらに市場住宅と非市場住宅に分けて示したものです。いろいろな種類の住宅のなかで、ここで着色したのは、住居費負担の軽いローコストの住宅です。

日本では低家賃の公営住宅がたった4%しかありません。これは、OECD 諸国の中でも、非常に少ない。ヨーロッパではだいたい2割~3割が公的住宅です。

公営住宅が「少ないぞ!けしからん」という指摘はありましたが、しかし、同時に、公営住宅がたった4%で社会を壊さずにどうにかこうにか維持できたのは何故なのか、という問いを立てる必要があると思います。日本では、公営住宅以外に低家賃で住める場所がいろいろあった、という点をみる必要があります。

まず、社宅ですね。この社宅は、非市場住宅ですが、特定企業の社員しか入居できませんから、非社会住宅です。それから日本では、親の家に住み続ける若者が多い。この親の家も、非市場、非社会住宅です。企業と家族に依存する、というのが日本の住宅政策の独特の方式です。

さらに、木造の民間借家。これは、市場住宅で、老朽しているなど、物的にいろいろ問題ある一方、家賃は低い。このように、公営住宅は少ないのですが、いろいろなローコスト住宅をかき集めて、どうにかこうにか住宅を供給してきたというのが日本の特徴です。

しかしながら、ここにきて、公営住宅、社宅、木造の民営借家などは、すべて減りはじめ、増えているのは親の家に住む人たちだけだ、という事態になっています。

このデータは、公営住宅の着工戸数です。1970年代の初頭から減りはじめ、今では、きわめて少ない。公営住宅の新規建設は、もうほとんど停止しています。

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次に、公営住宅から転出した世帯の割合を示しました。この転出率は減る一方です。

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公営住宅の入居者は高齢化、低所得化し、住み続ける世帯が増え、転出者が減った、ということです。このため、空き家があまり発生しません。着工戸数がきわめて減少し、さらに空き家の供給も減っているというのが、公営住宅の近年の傾向です。

給与住宅は、非社会住宅で、特定企業の社員しか対象としていませんが、低家賃住宅に対する需要を吸収し、市場の需給関係を調整する機能をもっていました。しかし、この給与住宅も減りました。不況が続いたことなどから、企業が住宅を供給しなくなった。

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それから木造の民間借家。日本の大都市の特徴として、質が低くても、家賃が低く、とにかく住むことのできる木造借家があった、という点があります。しかし、このタイプの住宅は、老朽し、建て替えや再開発などで急速に減っています。

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最後に、増えているのは、親の家に住んでいる成人未婚の人たちです。良質の雇用が減った。所得が減った。賃貸市場で適切な住宅を見つけるのは難しい。これらの要因から、親元に住み続ける若者が増えました。

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申し上げたいことは、公営住宅だけではなく、いろいろなタイプの住宅をかき集めてローコストの住む場所を確保していた、ということ。そして、そうしたローコスト住宅が急速に減っていて、親の家に住む人たちだけが増えている、ということ。この状況を健全といえるのでしょうか。

時間を超えてしまいましたが、こうした住宅事情の変化を背景として、不安定居住の深刻な状況が生みだされている、という点について、お話ししました。ありがとうございました。


part.5に続く