英国の家賃は高騰する一方だ。今、導入論議が盛り上がる家賃の上限規制は、この問題への有効な処方箋となりうるのか? 英国ビッグイシューの専属ライター、アダム・フォレストが考察する。

Written by Adam Forrest

The Big Issue UK

翻訳:永山淳子、オンライン編集部


上がり続ける英国の家賃。収入の半分超が消えてゆく

英国の家賃は、いやになるほど高い。賃貸物件に住む誰かに、月々の支払いについて尋ねてみるといい。きっとみな、ため息をついて「高すぎる」と言うだろう(ロンドンに住んでいる人なら「あまりに高すぎる」になるだろうか)。

ありがたいことに、いくつかの指標によると、昨年ようやく値上げ幅は収まってきたようだ。だが、ここ何年もの間、平均賃貸料の上昇率は、平均収入の上昇率を上回り続けていた

国家統計局が、2011年1月に調査を始めて以来、民間の平均賃貸料は、イングランドで4.5%、スコットランドで4.1%、ウェールズで2.8%上昇。その結果、民間住宅の賃借人のうち実に12%が、収入の半分以上を家賃に注ぎ込んでいる。持ち家の住宅ローンの支払いに収入の半分以上を費やす人は、ローンを組んでいる人全体の6%だ。


名ばかりの「自由」市場。家主の収益は、税金で増大する

家賃規制は一般的な考え方である。

イギリスの市場調査機関「Survation」が行った世論調査によると、英国人の6割が家賃規制を支持し、6.8%が反対していた。支持率は賃借者の中で一番高かったが(77%)、住宅所有者もこの考えを支持していた(56%)。 (※http://survation.com/public-back-introduction-of-rent-control-survation-for-generation-rent/

そしてロンドンでは、今年1月、家賃規制導入の請願の大ブームが沸き起こった。1月5日の時点で数千人だった支持者が、その週末には53,000人になったという。

一般に、住宅業界は家賃規制のアイディアに否定的だ。多くの家を建築することを担う住宅産業において、家賃規制という干渉が入ることは、住宅供給を減少させかねない、というのが彼らの主張だ。

ところが、評価の高い保守寄りのシンクタンク「シヴィタス」が、1月に発表したレポート(※http://www.civitas.org.uk/pdf/thefutureofprivaterenting)が、住宅業界に波紋を引き起こした。レポートは、民間の賃貸料はインフレ率に従って上限が設定されるべきであり、期限のない賃貸契約も保障されるべきだと結論づけたのだ

同レポートは、労働党が打ち出している、3年以上の賃貸契約に関しては1年間の賃貸料の増加に上限を設定するべきだという見解を、理論的に裏付けた。

シヴィタスレポートは、英国の民間賃貸産業が信頼できないこと を、正確に見抜いている。すなわち、「自由」市場とは名ばかりで、実際は住宅給付金という形の税金により、家主の収益が膨らんでいることを明らかにしているのだ。(現在のペースで民間賃貸産業の成長傾向が続けば、2018年~2019年には、住宅給付金の支出の40%もが民間賃貸産業に費やされる、という恐るべき予想がある。)

したがって、家賃値上げの抑制は、住宅給付金(税金)の必要な人々の増加を抑制するという、理にかなった試みになりうるのだ。またシヴィタスは、新たに建設された住宅に関しては家賃規制を免除するなどの対策で、住宅開発への投資と家賃規制は、両立可能だと述べている。


家賃規制に成功したドイツ。アメリカの二段階規制論争

イギリス国外に目を転じれば、家賃規制は決して珍しいことではない。では、他の国々ではどのようにそれが機能しているのだろう?

たとえばドイツでは、家賃規制がかなりうまく機能していることに、大多数が同意している。長期契約で借り手の権利が守られ、賃借人の組合があり、賃料の1年間の値上げが地域ごとに規制されているのは、ごく普通のことだ。

イギリスの「住宅家主協会(Residential Landlords Association)」ですら、ドイツの賃貸産業の繁栄が持ち出された時は、ドイツとイギリスの「構造的相違」に言及するという、いささかあやふやな議論に逃げ込まざるを得ない。

ニューヨークやサンフランシスコといったアメリカ合衆国の都市では、規制はさらに論争を巻き起こしている。

特にサンフランシスコでは、二段階規制方式の矛盾が明らかだ。1979年以前に建てられた住居に関しては、家賃規制の対象となり、借り手たちは良心的価格の長期契約に守られている。しかし、その負担のしわ寄せは新しい建物の賃借人に回され、家主はそちらでたっぷり儲けられるようになっている。

家賃規制に否定的な人々が、先述のシヴィタスによる新築への規制免除という提案を、不公正ではないかと危惧するのにも、根拠があるのだ。

もっと急進的な考え、たとえば、ダイアン・アボットの提唱した、評議会による民間賃貸料の設定を認め、そこに加わらない家主には懲罰的課金を課す、という自主規制制度のようなものもまた、二重基準という同じ欠陥を繰り返すことになる。


試してみる価値のある実験

とはいえ、イギリスの多くの人々が、何らかの変化を望んでいる。

家主協会や持家があるエコノミストたちは、乏しい選択肢から選んだ窮屈な家での生活に収入の半分を費やし、貯蓄もできないことが、どれほどフラストレーションがたまることなのかわかっていないのだ。

家賃規制の否定論者たちは、規制に縛られた20世紀の頃、民間賃貸部門における貸し付けが、いかに停滞していたかを述べたがる。しかし、1988年にすべての規制が取り払われて以来、投資用賃貸物件のオーナーは、市場において圧倒的に有利な立場を得、「王者の分け前」を不当に享受してきた。

おそらく、家賃規制はこの格差を是正するだろう。賃貸住まいが主流となった世代にとって、今の状況は許しがたい。政治経済学は、いまだ実験の途上にあるが、家賃規制は試してみる価値のある実験のようだ。


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