兵庫県播磨地域で、障害のある人の相談支援や地域活動支援を行う「NPO法人 文化・福祉・人権サポート アエソン」。最近では特に、障害のある就学前後の子どもとその家族を支える活動に力を入れている。同法人・代表理事、政本和子さんに話を聞いた。

「いま目の前にある子育てに役立つ情報ほしい」当事者家族がNPO設立
わが子に障害があるとわかると、たいていの親はショックを受け、戸惑い、混乱の淵に落とされる。障害のある子どもの誕生は多くの場合、想定外のことであるため、どう育てていけばいいのか、どんな支援制度があって、これからどんな生活が待ち受けているのかと不安になり、葛藤の日々が始まる。
代表理事の政本和子さんも、そんな母親の一人だった。わが子の1歳児検診の時に脳性麻痺であることがわかり、以降、子育てに関する情報を求めて療育施設などさまざまな機関や勉強会を訪れた。しかし、子どもの状況や親のニーズに合った具体的な情報にはなかなかたどりつけなかった。同じような悩みを持つ親同士でありながら、障害の種別や所属などの違いで連携できていないという障害福祉の現状にも違和感を持った。そして何より政本さんが感じたのは、専門知識を持つ支援者との間にある「微妙なズレ」だったという。
療育施設などで同じような境遇の親たちと出会い、泣きながらお互いのことを話し合って、つらいのは私だけじゃなかったんだと救われる一方で、専門家の言う“こうしたらいい”“ああしたらいい”という話には現実とのズレを感じることが少なくありませんでした。実際に子どもと24時間接している親の現実からすれば、専門知識はもちろん役には立ちますがそれは一つの方法であって、それよりも私たちはいま目の前にある自分の子育てに役立つ情報がほしいのに、それは誰も教えてくれない。それなら自分たちでほしい情報を集めて学んでいくしかないと思ったのが、活動を始めるきっかけでした。
政本さんらは93年に、兵庫県の10市13町にまたがる播磨地域で、障害児を持つ親たちが障害の種別や所属、地域を越えてつながるサークル「りんく」を結成。当事者家族が求める具体的な情報の収集を目指した療育講座の開催を中心的活動としながら、子ども同士が触れ合うキャンプや宿泊交流会のイベントなども企画してきた。04年には当事者活動を安定的に継続していくため「NPO法人アエソン」を設立して法人格を取得したが、一貫して活動のキーワードとしてきたのは「当事者力」と「支援の専門性」だという。
障害を持つ本人やその家族を草花にたとえるとしたら、専門家である支援者は光や水や肥料のようになくてはならない存在ですが、当事者が受け身で話を聞いているだけでは草花は育たないし、花も咲かない。当事者が自ら発信して、スキルを身につけ『当事者力』を高めることで、それが支援者への刺激ともなり、両者が共に質を上げ、車の両輪のように前進していける。それが、私たちの目指してきたことでした。
「ランチ会」や「親子遊びの会」「そだつマップ」の作成で自信
アエソンは「障害のある人もない人も一緒に考え、動き出せる、文化・福祉・人権がリンクしたまちづくり」をビジョンに、地域の障害児・者を支援する活動を行っている。障害のある16歳以上の人を対象に日中の居場所などを提供する地域活動支援センター「ライズアップ+」の運営のほか、障害のある人の暮らしをトータルに支える相談支援事業も実施。また、共生のまちづくり実現のため、障害福祉の支援体制を協議する播磨町地域自立支援協議会において、障害者や支援学校などと地域をつなぐネットワーク構築事業にも取り組んでいる。
一方で、障害福祉サービスが従来の行政による措置制度から利用者の自己決定による契約制度へと移行する中、障害児とその家族が自ら意思決定できるだけの経験と情報リテラシーを養える場をつくる必要があると判断。15年度からはファイザープログラムの助成を受けて、「障がい児とその家族を支えるための“家族の再生”プロジェクト」をスタートさせた。
障害があるとわかった就学前後の子どもの親を対象に、安心して話せる場をつくって元気になってもらう。次に活動を通じて徐々に自分にも動ける力があることに気づいてもらう。そしてその親たちが次の親たちを元気づけていく。そうやって『当事者力』を高める仕組みとして引き継いでもらいたいと思うのです。
助成1年目は、障害受容の初期段階にある就学前後の子の親が気軽に集まれるよう「月例のランチ会」や「親子遊びの会」などを通じて家族のエンパワメントを行い、支援者に対してはマネジメント研修や支援ミーティングを実施。
これを踏まえて、2年目には障害児通所支援の情報を親たちが自分たちで収集し、地域にある児童発達支援・放課後等デイサービス(※)の事業所情報を網羅した「そだつマップ」を作成した。政本さんは「近隣の学校や役場、福祉関係者などにも役立つマップを自分たちの手でつくれたという達成感があり、親たちには大きな自信になった」と話す。

“困った”に応える講座を開催、Q&Aを編集し「子育てガイドブック」作成
プロジェクト開始当初は、わが子の障害に戸惑い、不安を感じていた親たちも、支え合える仲間と出会い、マップづくりなどを通じて地域とつながる中で変化を実感。簡単な自己紹介ですら泣き出すこともあったメンバーには笑顔があふれ、気軽なおしゃべりから始まったランチ会も今では頼もしい会議体へと変わり、親たちは自ら動いて講座の運営からチラシづくり、さらには後輩の相談相手になって、支援者につなぐピアメンターの役割までこなす。

なかでも助成3年目の現在は、子どもの発達が気になる家族を対象に「トイレットトレーニングのヒント」や「じっと座ってくれない時はどうしたらいいか」など具体的な“困った”に応える講座を開催して、これをQ&Aの子育てガイドブックにまとめる作業を行っている。政本さんは一連のプロジェクトを通して、今後の団体の取り組むべき課題についても気づくことができたと話す。
親たちが本来の元気を取り戻して輝き、その経験を活かして、支援者と一緒に発達が気になるすべての子の子育てスキルを高めていく。そして親が子育てを楽しみながら、自分自身の人生を切り開いていく仕組みを創っていきたい。相模原での障害者施設での痛ましい事件では、犯人が障害のある子どもを持つ親は不幸だという表現をしていましたが、勝手に決めつけないでほしい。親の人生は多少は変わったかもしれないけど、障害と向き合うことでたくさんの人と出会い、学べることがたくさんあります。障害がある子どもにかかわったことで、かかわった人すべてが幸せになれるあり方を社会に発信していきたいと思います。
※ 児童発達支援は未就学児を対象とした支援で、放課後等デイサービスは就学児が授業後や休みの日に通える施設
(団体情報)
NPO法人 文化・福祉・人権サポート アエソン
兵庫県播磨地域に暮らす障害のある子どもと親たちが、障害の種別や所属、地域を超えてつながることを目的に「りんく」を93年に結成。翌94年には播磨町でも同様に心身障害児・者の医療や教育、福祉を考える「はまなす」が発足。これらの当事者活動を基盤に、04年に同法人を設立。「障害のある人もない人も一緒に考え、あゆめる社会」をめざして、主に地域活動支援センター「ライズアップ+」や指定相談支援事業所「ライズアップ」の運営のほか、播磨町地域自立支援協議会のネットワーク構築事業、福祉人材育成事業などを行う。
連絡先 079-437-0037
※活動を支えてくださる賛助会員を募集中です(1口1000円〜)
ゆうちょ銀行
口座番号 14320-67033281
口座名義 特定非営利活動法人 文化・福祉・人権サポートアエソン トクヒ)ブンカ・フクシ・ジンケンサポートアエソン
【ファイザープログラム~心とからだのヘルスケアに関する市民活動支援】
製薬企業ファイザー株式会社が、2000 年に創設した社会貢献プログラム。
医薬品の提供だけでは解決することのできない「心とからだのヘルスケア」にかかわる様々な社会的課題に取り組む市民活動・市民研究への助成により、“心もからだも健やかな社会”の実現を目指す。創設以来、300 件以上のプロジェクトを支援。特定非営利活動法人市民社会創造ファンドの企画・運営協力のもと、市民活動のさらなる発展を応援している。