2016年12月2日、“カジノ法案”衆院委可決のニュースを受けて、2016/01/11の記事を再編集して公開します。
『ビッグイシュー』誌の販売者をはじめホームレス状態の人々のなかには、ギャンブル依存症と見られる人が多い。また、ホームレスの人の自立を支援する際、ギャンブルなどの依存症が最後まで高い壁になっている。こうした観点からも、見過ごすことはできない問題である。同時に、ギャンブル依存症問題に関して一般に言われているもののなかには、妥当とは言えないものがある。その一因は、この問題が日本社会にとって深刻なものであるにもかかわらず、客観的で包括的な研究が少ないからである。そこで、ビッグイシュー基金としてはそのための第一弾として、ホームレスの自立支援という視点から、ギャンブル依存症問題を現在の世界のなかにある課題に置き直して、国際的にも正確でバランスのとれた全体像を描き出し、それを共通の認識にすることから始めていくことにしたい。
疑似カジノ化している日本

過度のギャンブルは精神の病いである──衝動制御障害から依存症へ

ギャンブル大国アメリカ。半数が体験、うち8割が法的規制の必要感じる

長い間、過度のギャンブルによって経済破綻をした場合、それは自己責任の問題であると考えられてきた。しかし、1980年にアメリカ精神医学会(APA)は、『精神疾患の診断と統計マニュアル第3版』(DSM-III)ではじめて、病的ギャンブルの診断基準(7項目)を提示し、これを衝動制御障害(/突然怒り出したり、放火癖などの極端な行動を繰り返すもの)に分類した。
 

病的ギャンブル研究は、圧倒的にアメリカで行われてきているが、それはアメリカ自身が、伝統的なギャンブル大国であることを自認してきているからである。事実これまでに、連邦議会の下で、二回、包括的な報告書が作られている。アメリカ連邦議会は、「1970年組織犯罪規制法」の規定に従って「ギャンブルに関する国家政策の評価委員会」を置いた。委員会は1976年10月に、最終報告『アメリカにおけるギャンブル』をまとめたが、これによって、1974年中に48%の成人(6900万人に相当)が合法・非合法の商業ギャンブルを行ったこと、これに対して80%の人が、連邦レベルで何らかの法規制が望ましいと考えていること、が明らかになった。1980年のアメリカ精神医学会の態度変更は、このような社会の認識を反映したものと見ることもできる。また1980年代のアメリカは、社会的な問題行動を医学的見地からとりあげる、「医療化」の姿勢を強くした時期でもあった。

1994年、アメリカ精神医学会、病的ギャンブルの診断基準を示す

その後、アメリカ精神医学会は1994年の『精神疾患の診断と統計マニュアル第4版』で、病的ギャンブルの診断基準を示した。これがDSM-IVと呼ばれる判定法である。10の判定項目うち5以上に該当すれば病的ギャンブルと診断され、それ以下の数値で問題のあるケースは、問題ギャンブル(問題賭博者)と定義された。さらに2013年の第5版(DSM-V)で病的ギャンブルは、衝動制御障害から、アルコールや薬物の乱用と同じ依存症へ分類が変更され、診断基準は10項目から不法行為体験を除いて9項目となり、1年以内に4項目以上該当すれば病的ギャンブルと改められた。現在はこれと、『国際疾病分類第10版』に示された診断基準が基本となっている。これに対しては、行動学的な特性を並べただけの非論理的な定義、という批判もあったが、その後は改良版も含め、病的ギャンブルの調査・病気の理解・治療法の開発の場での診断基準として広く用いられてきている。

0.2~5.3%北米・欧州のギャンブル依存症の有病率

さらに連邦議会は、1996年に「国家ギャンブル影響調査委員会法」を成立させた。これに従って、アメリカにおけるギャンブルの社会的経済的な影響を研究する委員会が置かれ、1999年に最終報告がまとめられた。これにあわせて全米研究評議会、病的ギャンブルの社会的経済的影響に関する委員会を設け、委員会は同じ1999年に『病的ギャンブル』を出版した。これらによって、病的ギャンブルに対する科学的見解は確定したと考えられている。

スイスのプランザーは、その研究書『ヨーロッパのギャンブル法とギャンブル依存症に関する経験的展望』(2014)のなかで、こう述べている。「ほとんどの国において、ギャンブル障害の頻度(/以下は有病率とする)に関するデータは貧弱であるが、アメリカとカナダにおいては確立されたデータがある。」(p.129)

以上を考慮し、ウィーベらが、カナダ・ギャンブル協会のためにまとめた報告『病的ギャンブルの有病率の研究』(2007)にある付録Aを要約したものが「表1国別でみたギャンブル依存症の有病率」である。ウィーベらの報告は、100篇の先行研究の結果を総合したもので、これによると、北米・欧州におけるギャンブル依存症の有病率は、人口当たり0.4~2.2%である。また、最近の総説では、0.2~5.3%とされている。

 

国別で見たギャンブル依存症の有病率

国名 調査年 調査者 サンプル数 判定法 ギャンブル依存症の有病率
アメリカ 2001/02 Petry et ai. 43,093 DSM-IV 0.42%
米ネヴァダ州
(ラスベガスがある)
2002 Volberg 2,200 SOGS-R
NODS
3.50%
0.30%
カナダ 2002 Marshall & Wynne 18,887 PGSI 0.50%
南オーストラリア州 2005 州政府 17,745 PGSI 0.40%
デンマーク 2005 Bonke & Borregaard 8,153 NODS 0.10%
フィンランド 2003 Ilkas & Turja 2,485 SOGS-R 1.5%
イギリス 2007 Wardle et al. 9,003 PGSI DSM 0.50%
0.60%
香港 2005 香港大学 2,093 DSM 2.20%
マカオ 2003 Fong ka Chio & Orozio 1,121 DSM 1.80%
シンガポール 2004/05 通信開発省 2,004 DSM 2.10%
アイスランド 2005 Olason et al. 4,808 PGSI 0.50%
ノルウェー 2006 Kavli & Berntsen 3,135 PGSI 1.90%
南アフリカ 2005 国立ギャンブル
研究センター
3,003 GA-20 1.40%
スペイン 2002 Becona 1,624 NODS 0.30%
スウェーデン 1999 Volberg et al. 7,139 SOGS-R 0.60%
スイス 2000 Bondol et al. 2,526 SOGS-R 0.80%
日本 2008/2013 遠山朋海・樋口進 7,500 SOGS 9.06%(男性)
1.6%(女性)

出典:J.Wiebe & Rachel A. Volberg ; PROBLEM GAMBLING PREVALENCE RESEARCH: A CRITICAL OVERVIEW, 2007、および、 T. Toyama ら:SY17-4 Prevalence of Pathological Gambling in Japan: Results of National Surveys of the General Adult Population in 2008 and 2013, Alcohol and Alcoholism, Vol.49(1), p.i17, 2014 より、ビッグイシュー基金 ・ ギャンブル依存症問題研究グループが作成。なお D.Hodgia らの総説(Lancet,Vol.378,p.1874,2011)では、世界の有病率は 0.2 ~ 5.3%。

 

ギャンブル依存症が世界で突出する国、日本──男性の有病率9.06%

ギャンブル依存症の発病率、若い世代に多い

アメリカでは、アルコール依存症とギャンブル依存症が重なる場合が多く、実際、この問題は他の依存症を包括する形で「国立アルコール乱用・アルコール中毒研究所」(NIAAA)が、おもな対応機関となっている。これを受けてWHOのアルコール対策の世界戦略でも、アルコール依存症に併せてギャンブル依存症についても調べることになっている。日本でも、国立病院機構久里浜医療センターの樋口進・センター院長を研究代表者とする研究班が、『WHO世界戦略を踏まえたアルコールの有害使用対策に関する総合的研究(平成25年度厚生労働科学研究費補助金)』(2014)をまとめ、この研究報告のなかで尾崎米厚・鳥取大学医学部教授が、ギャンブル依存症の調査結果をまとめている。ここで、2008年と2013年に行った全国調査の結果が比較されており、年齢階層別の有病率も示されている(報告書p.27/表2)。

 

ギャンブル依存の割合

年齢階級 2008年(n=4123) 2013年(n=4153)
男(n=1880) 女(n=2243) 男(n=1869) 女(n=2284)
20〜24 10.1% 1.1% 4.3% 1.6%
25〜29 14.1% 6.0% 10.8% 4.2%
30〜34 12.6% 1.6% 17.2% 5.3%
35〜39 8.7% 4.3% 10.8% 4.2%
40〜44 17.7% 0.5% 14.0% 3.6%
45〜49 12.7% 2.2% 9.2% 0.6%
50〜54 6.5% 1.5% 6.6% 1.0%
55〜59 9.2% 0.9% 7.6% 1.0%
60〜64 9.8% 2.3% 6.9% 1.1%
65〜69 6.3% 0.4% 8.7% 1.9%
70〜74 3.5% 0.6% 4.2% 0.4%
75〜79 3.3% 0.0% 5.9% 0.0%
80〜84 5.7% 0.0% 3.5% 0.0%
85歳以上 0.0% 0.0% 0.0% 2.0%
粗率
調整率(2008基準)
9.0%
9.6%
1.6%
1.6%
8.0%
8.8%
1.6%
1.8%

検定結果 vs2008 p=0.43 p=0.63
男女とも有意な増減が認められなかった。

 

研究班は2014年8月20日に、その成果を記者発表している。これについて、8月21日付『毎日新聞』はこう記している。

「依存症:多い日本ギャンブルで536万人厚労省研究班

成人の依存症について調べている厚生労働省の研究班(研究代表者=樋口進・久里浜医療センター院長)は20日、パチンコや競馬などギャンブル依存の人が成人人口の4.8%に当たる536万人に上るとの推計を初めて発表した。インターネットから離れられないIT依存の傾向がある成人は421万人となり、5年前から約1.5倍に増えた。また、アルコール依存症の人は初めて100万人を超えて109万人に達し、女性は2008年の8万人から14万人に急増した。

研究班は昨年7月、成人約4000人に面接調査を実施した。その結果、ギャンブルについては、国際的に使われる指標で「病的ギャンブラー」(依存症)に当たる人が男性の8.7%、女性の1.8%だった。海外の同様の調査では、米国(2002年)1.58%、香港(2001年)1.8%、韓国(2006年)0.8%などで、日本は際立って高い。......」

男性の病的ギャンブラーの9割はパチンコ

研究班は、2014年10月に横浜で開催された第16回国際嗜癖医学会で、日本における病的ギャンブルの有病率について発表しており、要旨が専門誌に載っている。この要旨は、日本のギャンブル依存症の現状を要約している点でたいへん重要であるので、全文を訳出する。

要旨 序文

北米で行われた119篇の研究のメタ分析によると、成人における病的ギャンブルの生涯有病率は1.6%であることが判った。われわれは、病的ギャンブルの有病率を評価するために、国レベルで依存症行動の調査を行った。

方法

20歳以上の男女7,500人を調査した。2008年に、2段階ランダム・サンプリング法を用いて、日本の全人口を階層化したサンプルを使った。SOGSスコア5以上のものを、病的ギャンブラーと定義した。2013年にフォローアップ調査を行った。

結果

2008年における、病的ギャンブルの有病率は、男性で9.06%、女性では1.6%であった。病的ギャンブルの有病率と、教育・結婚・職業・所得水準の間に有意な関係は見られなかった。男性の病的ギャンブラーが非常に多く、その93%は、ギャンブルの手段としてパチンコを用いていた。同様の傾向は2013年の調査でも見られた。

結論この研究によって、病的ギャンブルの有病率は、とくに男性の場合、日本は他の国々よりかなり高いことが明らかになった。パチンコは非常に一般的であり、日本の有病率を高く押し上げていることを、強く示唆している。
(強調は、ビッグイシュー基金・研究グループ)

前述の『毎日新聞』の見出しとなった「ギャンブル依存症536万人」という数字はいかにも衝撃的であるが、公式の報告にはない。ひとつ考えられるのは、研究班の誰かが報告書にある年齢ごとの依存症の比率と全人口の年齢構成とを掛け合わせて合算したものを、記者に伝えた可能性である。記者発表と学会要旨では内容が微妙に異なっており、「表1国別でみたギャンブル依存症の有病率」では、専門誌にある数字を採用した。

日本のギャンブル依存症の有病率は、世界のなかで突出して高い。ギャンブル依存症がこれほど重大な社会的問題であるにもかかわらず、日本ではいまのところWHOのアルコール乱用対策の付属物として断片的にしか研究されておらず、この事実は重大である。

『疑似カジノ化している日本:ギャンブル依存症はどういうかたちの社会問題か?』の全文はこちらからダウンロードすることができます。

編集部より:
2016年8月15日に『ギャンブル依存症からの生還 回復者12人の記録』を発行しました。
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ご希望の方に無料で送付いたします(着払い送料のみご負担ください)。
前文はこちら→人とギャンブル-<ギャンブル依存症からの生還 回復者12人の記録>より 帚木蓬生


記事の一覧はカテゴリーページ「擬似カジノ化している日本」をご覧ください。

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