薬物依存症の人たちは救急外来や総合医による手術、つまり病院の常連である。
「にもかかわらず、彼らの体の健康についてはほとんど調査がなされていません」とノルウェー科学技術大学臨床医学博士のグレテ・フレムメンは言う。 彼女は薬物治療を始めた元依存症の人たちの健康状態と、エクササイズ実践による影響についてマッピングし、以下の結論を引き出した。
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1. 薬物依存者の健康状態はおおむね、“薬物とは無縁の生活を送る20~25歳上の人”と同じレベルである。
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by Trond Ola Tilseth
意欲的にエクササイズに取り組む元薬物依存者
自分の健康状態が評価されることに承諾してくれた患者たちのおかげで、画期的なリサーチが実施された。
「彼らは将来的な薬物治療の発展に喜んで関わってくれました」とフレムメンは言う。
調査では患者たちの筋力や心拍機能も調べた。
「筋力やスタミナは、高血圧や喫煙、肥満といった要素よりも、その人が今後どれだけ生きられるかを顕著に物語るのです」
これまでの統計では、薬物依存者たちの平均寿命はその他の人々より20~25年短いという結果が出ている。しかし、依存者のほとんどはドラッグの使用そのもので命を落としているのではない。心疾患や感染症、糖尿病といった病気によって亡くなっているのだ。
「これと同じで、依存者たちのひどい健康状態は、薬物そのものより運動不足が原因なのではと見ています」と彼女は述べる。
しかし、スタミナをつけたり体力アップするための治療薬など存在しない。より良い健康状態を得る唯一の方法、それはエクササイズなのだ。今のところ、高負荷トレーニングが最も効果的であると証明されている。
by Trond Ola Tilseth
今回の調査の被験者たちは、高い心拍数状態での持久力トレーニングと筋力強化のための重量トレーニングを組み合わせたメニューに取り組んだ。
エクササイズにハマる患者たちも
2018年1月から、聖オーラヴ病院「薬物依存治療クリニック」では、入院患者にも外来患者にも治療の一環としてエクササイズを取り入れている。 入院患者たちは週3回のワークアウトセッションが課せられる。これは心理学者やセラピストとのセッションと同じくらい重要視されたプログラムとされている。一方、入院していない患者たちにはエクササイズは自由参加のものとして提供される。ただし、現在も薬物を使用している者たちは対象外だ。
このクリニックの患者の多くは、自分の体や健康状態に自信を持てずにいる。 ほとんどがエクササイズ経験のない男性で、自分たちの体はドラッグの使用で完全に壊されてしまったと思い込んでいる。
「調査では、患者たちのエクササイズに対する反応はとても良いことが分かりました」とフレムメンは語る。「それに、週3回のインターバル・トレーニングを今後もずっと続ける必要はないんです。8週間のプログラムをこなした後では、自分の健康状態をキープする大切さがよく分かるでしょう。でも、エクササイズにとことんハマってしまう患者もいますけど」と彼女は笑う。
エクササイズプログラムを予約した患者たちは、まずは2週間のトライアル期間を設けましょうとフレムメンからアドバイスを受ける。
「このトライアル期間中に、エクササイズがいかに効果的なものかを実感し、続けるモチベーションが湧いてくるんです。」
エクササイズ効果の研究は始まったばかり
この新しい治療法の実現は決して容易でなかった。
「エクササイズを既存の枠組みに盛り込むにあたって、組織内部での反発もありました。」とフレムメンは言う。
「体を動かすことは、満足感を味わいながら楽しく人とつながれるものとして捉えられている。トレーニングとして体系化され過ぎると、そうした楽しい側面が失われるのではと心配する声があったのです。でも、変化をもたらすには効果的なエクササイズでなくてはなりませんでした。 実際、患者たちからの反応はポジティブでした」
フレムメンはエクササイズの社会的影響を強調する。
グレテ・フレムメン氏 by Trond Ola Tilseth
「私たち一人ひとりがある程度の健康を手に入れられれば、他のアクティビティへ参加することもずっと容易になります。もし、70歳レベルの心拍機能だったら、お友だちと田舎でサイクリングしよう、とはなりませんよね」
フレムメンは、薬物治療にエクササイズを取り入れることでもたらされる好影響について、さらなる調査を見据えている。
「エクササイズが患者たちの仕事復帰をどう助けるか、そして治療薬を飲む必要性への影響も調べていきたいと思っています。」
エクササイズすることで薬を飲む必要性がなくなる効果も
ライモンド・ミッドサンドは、長年の薬物使用のせいでひどい健康状態にあったが、今では自分の子どもたちをおんぶすることだってできる。
「運動なんてしたことありませんでしたが、今はほぼ毎日やってます」と話すミッドサンド。
ちょうど、3人の依存症患者とともに30分間のルームランナーを走るエクササイズを終えたばかり。タオルで汗を拭くと、タイムをノートに記録した。
その半生をドラッグに費やした言う彼は、今年の4月中旬に「ラーデ治療センター」に入り、1ヶ月の解毒治療を受けた。 その後、聖オーラヴ病院「薬物依存治療クリニック」が提供するエクササイズプログラムに参加することにした。この決断を後悔したことはない。
「エクササイズはとてもすばらしいです! 肉体的にも精神的にも鍛えられました。当初は、解毒治療を終えたらオピオイド依存症治療薬と抗不安薬を飲むことになっていましたが、それらをすべて拒否できたんです。エクササイズすることで不安感が劇的に解消され、この類の薬を飲む必要が一切無くなったんです。」
「ルームランナーでの走り方もずいぶん変わりました。 最初は傾斜5%の上り坂にセットしていましたが、徐々に設定を上げ、今では傾斜15%でも大丈夫です。スタッフいわく、私の脚力は120%増になったそうです」
by Trond Ola Tilseth
彼は過去の生活習慣から背中に多くのトラブルを抱えてきた。
「薬物依存状態だと横に寝転がって過ごす時間が長いですから。背中の筋肉を鍛えた今では、子どもたちをおんぶするのも平気です。私にはとても大きな変化です」
4人の子を持つ父親は笑顔で語った。
By Trond Ola Tilseth
Translated from Norwegian by Veronica Koehn
Courtesy of Sorgenfri / INSP.ngo
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