ビッグイシューオンライン編集部より。10月15日発売の297号から、「滝田明日香のケニア便りvol.5」を転載します。

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アフリカゾウの密猟対策のために、NPO法人「アフリカゾウの涙」を立ち上げた滝田明日香さん。
滝田さんから、昨年から2年かけて行われたゾウの個体数調査結果と、9月末に開催された第17回ワシントン条約締約国会議の結果について、レポートが届いた。

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07年から14年、7年間で14万4000頭が密猟の犠牲に

アフリカ大陸がヨーロッパの植民地になる前、この広大な大地に生息していたアフリカゾウの個体数は2000万頭以上であると言われていた。 その後、日本が象牙大国と呼ばれ出した1979年頃には、膨大な象牙需要を満たそうとして象牙密猟が行われ、その数は130万頭に減っていた。

それから35年以上が経ち、昨年から2年間かけ「グレート・エレファント・センサス」と呼ばれるゾウの個体数調査が行われた。これは、アフリカ18ヵ国の上空を50万キロにわたり飛行機で飛び続けて地上のゾウを数える調査である。
アフリカゾウの数は07年から14年までの7年間で、全体の個体数49万頭の約30%にあたる14万4000頭が象牙密猟の犠牲となっていたことがわかった。この数字から推察すると、毎年2万頭余りのゾウが密猟のせいで死んだことになる。この減少ペースでいくと、今後9年間で、現在残る推定35万頭のアフリカゾウが半減するおそれがあると研究者たちは語っている。


個体数が激減している中、9月末から南アフリカで開催された第17回ワシントン条約締約国会議では、アフリカ28ヵ国が〝アフリカ全土のアフリカゾウを「附属書I(今すでに絶滅する危険性がある生き物)」へ移行する提案〟と〝象牙取引市場の完全閉鎖〟を強く進めた。アフリカの多くの国が象牙取引反対のスタンスを取る中、ナミビアとジンバブエの2国は自国の在庫象牙を売りたいと申し出ていた。

08年に在庫象牙102トンを売ったボツワナも象牙取引から手を引く

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ナミビアでは、12年から15年の3年間に252頭のゾウが密猟で命を落としている。
ナミビアのゾウの生息地は南東地域で、ここにはナミビア全土の60%のゾウが生息していると言われている。この地域のゾウはナミビアのみではなく、ボツワナ、アンゴラ、ザンビアとの国境を常に移動しているトランスバウンダリーと呼ばれる国境を越える群れである。そして、隣国ザンビアやアンゴラでの密猟はひどく、アンゴラでは密猟で30%のゾウが殺されていることが発覚した。

そして、ジンバブエでは01年から14年にかけて、ゾウの個体数の40%~75%が密猟で失われている。ジンバブエについては、米国野生動物庁が14年に、ゾウの破滅的な個体数激減を理由に、ジンバブエからのゾウのトロフィー(狩猟で得た牙、剥製など)を輸入禁止にしたほどである。そんな両国が出した在庫象牙販売の提案は、大多数で却下される結果となった。

日本ではどうか。89年以降、国内取引を理由に南部アフリカ諸国から象牙を買い取った頃は、まだアフリカ全土に激しい密猟問題がなかった時代であった。しかし、現在の密猟は国際犯罪組織、テロ組織、マネーロンダリングなどのあらゆる犯罪行為とのかかわりが明らかになっている。そして、まさにそのことを理由にして、08年にナミビア、ジンバブエ、南アフリカと共に、日本と中国に102トンの在庫象牙を売ったボツワナが、象牙取引から手を引いたことが会議のなかでもっとも注目をあびた。

隣国ナミビアのカプリヴィ回廊と呼ばれる地域での密猟が日に日にひどくなる中、ボツワナ政府はカプリヴィに自国のレンジャーを派遣することも行った。
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国際的に象牙取引が廃止されなかったことで一番つらい思いをするのは密猟前線で命をかけて闘っているレンジャーたち

8月には有名な観光地であるボツワナのチョベ国立公園で、密猟で命を落とした26頭のゾウの死体が発見され、近くの観光施設では毎日のようにカプリヴィからの銃声が聞こえていたという。ボツワナには現在、アフリカ大陸のゾウの4割以上が集中していると言われ、民家とゾウの衝突も後を絶たない。その中でなぜ、ボツワナは以前に象牙取引賛成派だったのにもかかわらず、ケニアと共に象牙取引反対というスタンスを取ったのだろうか?

附属書Ⅰと象牙取引市場の完全閉鎖にEUと日本が反対 中国は廃止訴える

それは、象牙取引の存在自体が、他のアフリカ諸国に経済負担をかけているからである。象牙販売から得られる利益よりも、取引が引き金となって起こる密猟問題に対処する資金の方が遥かに膨大だと、他のアフリカ諸国が訴えているからなのだ。

ボツワナの環境大臣は「ボツワナは過去に限定された合法象牙の販売を支持していたが、現在は象牙取引に合意をすることはできない」と発表し、「自国のゾウの群れが増えているからといって、他のアフリカの国の状態を無視して象牙販売などを試みるなどの自分勝手な行動はできない」と強く象牙取引の国際的廃止を訴えた。南部アフリカ諸国で取引されたわずかの在庫象牙のおかげで、アフリカ28ヵ国では、密猟対策に膨大な国家のお金が使われているからだ。

密猟問題がここまで悪化していなかった時代には、国立公園の周りに住む住民は公園からの収入で病院や学校を建ててもらえたりできた。しかし、もはや公園管理施設は密猟対策のパトロールやレンジャーを派遣して保護対策を強化することに資金のほとんどを使わされてしまっているのだ。象牙取引は、アフリカ28ヵ国の野生動物と暮らすコミュニティを貧困に追いやってしまっているという知られざる事実があるからである。

今回のワシントン条約締約国会議で大多数のアフリカ諸国が強く進めたのは、“アフリカ全土のアフリカゾウを「附属書I(今すでに絶滅する危険性がある生き物)」へ移行する提案”と“象牙取引市場の完全閉鎖”だった。しかし、悲しいことに、これはEUの反対により4分の3の賛成に届かず却下されてしまった。

アフリカの生き物の将来をヨーロッパやアジアが決定してしまうこと。そして、アフリカ28ヵ国の声が無視されたことに、私を含む多くのアフリカの現場でゾウを守っている者は無念で仕方がない。

悲しい結果に終わったワシントン条約締約国会議だが、一つだけ良かったことはナミビアとジンバブエが在庫象牙を販売することに成功しなかったことだ。そして、この会議で特に印象に残ったのは、象牙取引の完全廃止を強く反対していた日本と正反対に、同じ象牙消費国でありながら、意外にも象牙廃止を強く訴えていた中国のスタンスだった。

冒頭で触れたように、現在、アフリカゾウの個体数はわずか35万頭しか残っていないことが明らかになった。そして、次のワシントン条約締約国会議が開催される年までにアフリカ全土で象牙のために殺され続けるアフリカゾウの命は数知れない。

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合法象牙取引が存在する限り、こうした違法象牙と密猟はなくならない

  (文と写真 滝田明日香)

 「ケニア便り」は年4回掲載します。次回は17年1月15日号の予定です。

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たきた・あすか
1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ナイロビ大学獣医学部に編入、2005年獣医に。 現在、ケニアのマサイマラ国立保護区で動物の管理をしながら、追跡犬・探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともに「アフリカゾウの涙」を立ち上げ、2015年6月、NPO法人に。 https://tearsofelephants.org/








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