アフリカゾウの密猟対策のために、NPO法人「アフリカゾウの涙」を立ち上げた滝田明日香さん。滝田さんから、レオナルド・ディカプリオ制作の『THE IVORY GAME(アイボリー・ゲーム)』というドキュメンタリー映画、犬型ジステンパーウイルスの流行の兆しについてのレポートが届いた。

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家族を置き去りにしない、ファミリー全員が殺される象
象牙密売ネットワークに潜入取材

 まず、みなさんに観ていただきたい映画を紹介したい。2016年11月1日、ハリウッド俳優のレオナルド・ディカプリオ制作の『THE IVORY GAME』というドキュメンタリー映画が、定額制動画配信サービス Netflix(ネットフリックス)から放映された。この映画は、象牙問題をアフリカの現場での現実、そして、中国での違法象牙取引の背景を追跡したドキュメンタリーで、制作には2年ほどアフリカでの取材や撮影が行われてきた。

 映画では、世界で確実に絶滅に近づいているアフリカゾウ、そして、象牙の密猟者と闘っている野生動物保護活動家やレンジャーたちの活動を追跡。世界規模に広がっている象牙の密売ネットワークの中の、密猟、転売、公然と売られる現場に潜入した衝撃のドキュメンタリーに仕上がっている。

 

映画の舞台は、ケニア、タンザニア、ザンビア、中国の4ヵ国で、それぞれの国が抱えている象牙密猟問題を追跡している。ケニアでは、チュールー・ヒルというエリアで話が始まる。

 チュールー・ヒルにはゾウ保護にかかわる「ビッグライフ」と呼ばれる保護団体がある。そこで働くケニアで生まれた英国人の四代目である青年クレッグ・ミラーが、「ワントン(1トン)」という名前の巨大なオスゾウの居場所を探し出そうとしている。アフリカゾウは歳をとるほど、その身体は成長し続ける。特に、オスは身体の大きい個体ほどメスに交尾の時に好まれることから、40歳を超える頃からしか繁殖できないのである。

 ワントンは50歳代で、ワントンと同じぐらいの身体の大きさのゾウは現在、象牙目的の密猟のせいで多くのアフリカの諸国で激減してしまっている。密猟者に大きな牙を狙われてその年齢に達する前に殺されてしまっているのだ。

 クレッグ・ミラーはその後、ツァボ国立公園でのゾウの大量虐殺の現場に向かうことになる。ゾウのファミリーは、危険な目にあうとその場を決して離れない。弱い個体、若い個体を大人のゾウたちが囲んで守り、家族を一頭足りとも置き去りにすることはしないのだ。その家族思いがあだになり、家族を狙われた場合はすべてのファミリーメンバーが死んでしまうことがほとんである。このツァボでの光景もそうであり、上空からの映像には、弱い個体を守るようにして円形になって散らばっているゾウの死体の姿が映し出される。

 そして、タンザニアの密猟者を追う警察官やレンジャーたち、アフリカの港からあらゆる素材に紛れ込ませて中国などに密輸される象牙取引などが舞台となる。アフリカゾウの生息地が激減している上に、象牙目的の密猟のプレッシャーはゾウにとって過酷すぎる現実であることを、この映画は見事に描いている。(※1)

1994年、06年にも大流行の犬型ジステンパー、
野生の肉食獣にもおよんだ

 さて、話はマサイマラ(※2)に戻る。3週間ほど前から犬型ジステンパーウイルスの感染が疑われるケースが多発している。血便、後ろ足の麻痺、嘔吐、手足の浮腫、そして、死。

 今のところナロック州全部で24頭の犬がすべて同じ症状を表した後に死んでいる。犬型ジステンパーウイルスの突然変異型ウイルスは、1994年に爆発的に感染したウイルス性の病気で、当時10ヵ月の間に隣国タンザニアのセレンゲティ国立公園でライオン1000頭が命を落とした。ライオン以外にもチーターやリカオンも命を落とし、マサイマラでも多くの肉食獣に感染した。

 私がマサイマラ国立保護区の外にいるマサイの犬のワクチンキャンペーンを開始したきっかけになったのは、2006年のジステンパーのアウトブレーク(流行)だった。その時は半年で1000頭の犬がバタバタと死んでいった。

 今回のアウトブレークはまだ始まった段階のようである。3ヵ月前ぐらいからどうやら犬が何頭も下半身麻痺になり、血便を垂れ流し続けた後に手足が腫れ上がって死んでいたらしい。村人は何の病気かわからず、原因不明で死んでいく犬を見ているだけだった。3週間ほど前に私のアシスタントのレシンゴがワクチン接種をするためにそのエリアを訪れた時、村人は初めて話をしたそうだ。

「原因不明の病気で死んでいく犬が、このエリアに何頭もいる。一体何が起こっているのかわからないので、血液の検査をすることはできないだろうか? 薬はないのだろうか?」と、切実にお願いをされたレシンゴ。すぐに、その話を伝えにやってきた。

 最初に彼に犬の写真を見せられて、今まで見たこともない犬の症状だったので、私は驚いた。「手足が腫れ上がり爪の周りが剥がれて、下半身を引きずって歩く犬だ」とレシンゴは説明。写真の犬は手足がブクブクに腫れ上がっていた。炎症を起こしたというより、水が溜まっているように見える。

 文献を調べてみると、ジステンパーの脳性症状に似ていた。どちらにしろ、写真ではわからないので、実物を見てみたいとレシンゴに伝えた。血液サンプルなどを取りたかったので、まだ生きていてくれることを願った。翌日、すぐ現場に向かった。犬たちが死んでいる場所は、私の住んでいるところから往復6時間もかかる遠い場所だった。道も悪く、簡単に行き来できる場所ではないので、何度も通うのは避けたかった。

「下半身を引きずっている犬はどこにいるのか?」と聞くと、村の子どもたちが畑の近くにあるブッシュに案内してくれて、犬の死体が転がっているのを見せてくれた。話を聞いてみると、みんなが気味悪いというので縄で首を絞めて殺したのだという。少し到着するのが遅すぎた。すでにアフリカの太陽の熱で温まって腐敗臭がしていたので、とりあえずはまだ生きている犬を探すことにした。

 幸いにまだ生きていて、後ろ足を引きずりながら這い回っている犬が2頭いた。その2頭から血液のサンプルを採取することに成功し、すぐ血清を南アフリカに送って検査してもらうことにした。1週間たって検査の結果を受け取ると、“ジステンパーウイルスに陽性”だった。

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犬型ジステンバーウイルスに感染した犬

 まだ死んだ犬の数が爆発的に多くない時点で、私に連絡が入ったのは不幸中の幸いだったと思われる。しかし、ジステンパーワクチンキャンペーンの範囲を前年よりも広げなければ、このアウトブレークを阻止することは難しい。野生の肉食獣にウイルスが突然変異して飛び火しないように、早く対処しないといけないことになった。

 (滝田明日香)

※1 『THE IVORY GAME』は、「Netflix」に登録すればネット上で観られるので、ぜひ多くの人に観てもらいたい(登録すれば最初の1ヵ月は無料、解約も可能)。

※2 マサイマラ国立保護区/ケニア南西部、タンザニアとの 国境沿いに位置する総面積1812㎢(ほぼ香川県と同じ広さ)の国立保護区。

(2017年1月15日発売のビッグイシュー日本版・303号から、「滝田明日香のケニア便りvol.5」を転載)



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たきた・あすか
1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ナイロビ大学獣医学部に編入、2005年獣医に。 現在、ケニアのマサイマラ国立保護区で動物の管理をしながら、追跡犬・探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともに「アフリカゾウの涙」を立ち上げ、2015年6月、NPO法人に。 http://tearsofelephants.org/






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