「ホームレス状態の人が自らの力で生活を立て直すことを応援したい」というビッグイシューの理念。その理念に共感してくれた人たちが、全国でサポーター団体を組織し、ボランティア活動としてその土地の販売者にビッグイシュー販売のサポートをしてくださっています。
「ビッグイシューさっぽろ」もそんなサポーター団体のひとつ。
今回は今年の9月で10周年を迎えた「ビッグイシューさっぽろ」の記念パーティのイベントレポートをお届けします。


この日、会場の北海道クリスチャンセンターに集まったのはボランティアの皆さん、読者やファンの皆さん、そして札幌の販売者の総勢60名ほど。

まずは10年前からのボランティアである矢橋さんの司会進行で始まりました。
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矢橋さんは会社経営者という多忙な立場でありながら、「ホームレス状態にある人々」を看過できないという想いでSNSでの広報やトラブル対応などの活動でビッグイシューさっぽろを支えてくださっているボランティアです。

続いてお話されたのは札幌駅前まちづくり株式会社の代表取締役社長の白鳥さん。2011年から、それまでは地下通路での販売は冬季限定でしたが、地下歩行空間(チカホ)の一角を通年の販売場所として確保してくださったキーマンです。

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「ひとことではいえないスタッフの方々のご苦労、役員の方々のご尽力がこの10年を支えていたのだと思います」としみじみとお話を始められました。

チカホができた当時、迷いやすい地下においては案内所の設置の必要がありました。しかしなかなかそこに手も予算も回らなかったことから、札幌市から白鳥さんへ打診があったそうです。そこで、白鳥さんがビッグイシューさっぽろに「道案内を一緒にしてくれるなら販売場所を確保しますよ」と声をかけてくださいました。
その結果、チカホの販売者は販売場所を通年で確保し、今でも1日30件以上(繁忙期は80件以上!)の道案内をしているという事です。

ただ、設置に際しては市から「公共の場所である通路に固定の店舗は設置できない。臨時的ならいいけれど…」と言われたそう。そこで、白鳥さんはブースの下部に車輪をつけるアイデアを編み出し、「ほら、可動式ですよ!臨時的ですよ?」とアピールすることで市役所や当時の市長に納得してもらったというエピソードをお話してくださいました。
今も月に一度は清掃にあわせて少しずつ移動させているそうです。

「(ビッグイシューに関わる)みなさん方の考え方と言うのは、社会の固定概念を覆す、進める、飛び越える、ということだと思います。今後もブレることなく、コミュニケーションを取りながらやっていきましょう!」と力強いメッセージをいただきました。

続いて、「シアターキノ」代表の中島さんより乾杯のご挨拶。
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シアターキノはビッグイシュー279号の特集「シビック・エコノミー3」で「観たい映画を観るために株主410人が出資し、市民が企画、運営する市民型映画館」としてご紹介させていただいたこともある、今年25周年を迎えた映画館です。

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https://www.bigissue.jp/backnumber/279/

中島さんは、ご友人の「自分たちのことは自分たちでやろう。」という言葉がお気に入りだとご紹介されました。「シアターキノもビッグイシューさっぽろも、小さくてもいいから、自分たちの手で自分たちのことをやっていこうと言って、やってきた。それが必ず社会を変えるという信念が大切だと思うんです。小さくてもいいから、続けようという気持ち、小さな積み重ねこそが確実に何かを生むと思います。たった一人の偉大な変革者が進める、どデカい変革だけが素晴らしいのではないんです。ほんとうに小さな積み重ねでも、僕らは少しずつ変わっていけると信じて続けていけたらと思っています」と、心を込めてお話されました。

そして、10年分の気持ちを込めて、みんなで「カンパーイ!」
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今回のパーティのお料理は、『ビッグイシュー日本版』の誌面で販売者と「世界一あたたかい人生相談」を連載してくださっている料理研究家・枝元なほみさんのレシピで、枝元さんが前日から札幌入りして準備してくださいました。

60人分のお料理を一人で準備するのは大変なので、ビッグイシューさっぽろの委託販売先である「自然食ホロ」のお二人が枝元先生のアシスタントとして、お店を2日間もお休みいただきご準備くださいました。(ありがとうございます!)
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『ビッグイシュー日本版』315号に掲載されたレシピ「みそ豆」ほか、愛情たっぷりのお料理が並びました。
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ひときわ目を引いたのが「トマトの和製ガスパッチョ」。
(作り方は毎日新聞サイト「おかん飯」に掲載されています。)
乾杯の合図とともに皆一斉にご飯に一直線!優しい・美味しい・安心な味に、お箸が進みます。
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食事をしながら、ビッグイシューさっぽろの10年がスライドで紹介されました。(詳しくはこちら


お腹が落ち着いたところで、4名のトークセッション。それぞれがビッグイシューへの想いを語ります。
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ビッグイシュー日本・東京事務所から駆け付けた長崎の司会進行で、まずは木村さんによるトーク。

去年の3月で北海道大学教授を定年退職した木村さんは、現在月に2回、ボランティアとして販売者への雑誌卸のサポートに参加してくださっています。
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教育学博士の木村さんは、「社会教育で大切なのは、“ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)”と“居場所づくり”だと思っています。誰も社会的に排除されない社会をどうつくるか、人々の居場所をどうつくるか…そこにビッグイシューは関心を持っていると感じます。307号特集の『どこにもない食堂』や、317号特集の『子育ての未来』なんかも、私たちが自分たちで気づかないような居場所づくりへの取り組みを知るための貴重な媒体となっている。ビッグイシューはミッションもですが、雑誌の内容もとても面白いと思っています」とコメントしてくださいました。


次にビッグイシューの連載でおなじみの、笑顔が素敵な料理研究家、枝元さん。
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枝元さんはかつて、とても寒い日に路上で寝ていた人を見て、「助けたい」という気持ちをどうすればよいのかわからず悩んだ経験があったこと、ご自身の仕事で適切な支払いがされなかった経験などがあるそう。そんななか、新聞の記事でビッグイシューの創刊を知ります。ビッグイシューが「人の尊厳は、仕事をすること、自分の居場所があることにある。それが人が生きていく意味だ」と考えていることや、ビッグイシューと販売者の「対等なビジネスパートナー」の関係に感激したそうです。 その後たまたまビッグイシューに取材されたことを機に、「何か私がお役に立てることはないですか?」と“営業(?)”してくださり、ビッグイシューで連載を持つことになったというエピソードをお話してくださいました。

<窮屈な社会においての「雇用契約や仕事」…そういう事務的な関係ではなく、ビッグイシューは「人と会える場所」、「多様な人の生き方に触れられる場所」、「いろんな生き方を良しとしている場所」であり、それがビッグイシューの魅力です。現実感のない大きな世界において、思い出し笑いができるような、小さな小さなつながりがたくさんできるといいな、と思っています。>と語ってくださいました。

そして札幌の販売者歴4年目となる藤城さん(写真右)のお話。
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以前は名古屋にいたという藤城さんは、ビッグイシューのことを知っていたけれど「有名人が表紙を飾る怪しい雑誌」という認識だったそう。その後、仕事を求めて札幌へ来た後、紆余曲折を経て、路上生活をしていた際に学生の夜回り活動をきっかけにビッグイシューの販売と出会います。

販売者デビューの日はちょうど10周年記念でNHKで特集をされた日で、その日持っていたミッフィーの号は飛ぶように売れて「これはいける♪」と思ったのですが、次の号はたくさん仕入れてもなかなか売れず、だんだんジリ貧になりけっこう辛かった…という苦い思い出話から始まりました。

印象に残っているエピソードとして、ビッグイシューに登場した「映画の上映でお金を集めて映画を作る」という方が、偶然近くにいた藤城さんの荷物が取られないように見張っていてくれたこと、その相手と半年後に出張販売で再会してビックリしたことや、吹雪のなかを買いに来てくれた常連さんや、就職などの人生の節目の報告をしにきてくれるような常連さんとのことなどがあり、「そういう人と話ができるから…。お客さんの顔が浮かぶから、この仕事、途中でやめられないんだよね…」と、訥々とお話してくださいました。

会の最後に、参加してくださったお客様へ感想を伺うコーナーがありました。
「好きなミュージシャンの号をきっかけに買い始めましたが、知らなかった世界を知る、世界が広がるきっかけをいただいています」という常連さんもいれば、「東田直樹さんの連載で知った」という女性、「買おうと思ってもなかなか販売者さんから買う勇気が出ないから、いつもイベントなどの出張販売やパーティに来るんです。小さくてもいいから、関心がある人が集まる場所があるというのがいいですよね」という男性もらっしゃいました。

そのなかでも我々が驚いたのが、20代と思しき男性二人組でした。

今日はいかがでしたか?とお話をお伺いすると、「ここに来たきっかけは、2,3週間前に、普段接しない人に接してみよう、という話になって、ビッグイシューを買おう、となったんです。でも道庁のところにいなかったので、地下歩行空間に行きました。そこでの販売者さんは、思ったよりきちんとしすぎてて。あんまり「普段接しない感じ」がしなかった。(笑)
そのときにチラシをもらったので、いろんな人が来るかなーと思って来てみたんです。
こういうの新鮮味があっておもしろいなーって。僕、Web集客などの会社を経営しているので、協賛募集してるなら検討しようかなと思ってます」とのこと!

枝元さんがそれを聞いてすかさず「あなたたち、私のカレーを何杯食べたの?」と聞くと、お二人合わせて「6杯」(!)で、枝元さんに「それは…よろしくお願いしますね!」と言われると、会場に笑いが起こりました。
※後日、本当にこの方にビッグイシューの企業サポーターにお申し込みいただきました!!
10月15日号にビッグイシューの裏表紙に「株式会社 イーパブリッシャー」と掲載されていたら、その代表取締役の阿部さんがこその方です。
10年間の区切りのボランティアによる手作りパーティに偶然に導かれて立ち寄った若者。そこで「おもしろい活動だからサポートしよう」と一肌脱ぐ…その輪の広がりに人のつながりの不思議さと面白さを感じたのでした。

最後にビッグイシューさっぽろ事務局長の平田さんのご挨拶。
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10周年にいらした皆さまへの感謝の気持ち、たくさんのおいしいお料理を前日入りして作ってくれた枝元さん、その助手をされた自然食ホロのお二人への感謝の気持ちを伝えられました。
317号の読者投稿ページ「MyOpinion」に掲載された札幌の販売者へのエールを紹介しながら、「読者の皆さまが心の支えになっています。これからも販売者の皆さんをよろしくお願いいたします」とご挨拶されました。

お客様のお見送りの際には、枝元さんのレシピの特集が掲載された号の販売ブースで、枝元さんのサイン会が行われていました。
右から二番目は北海道以外では売り切れとなってしまった「くるり」が表紙の号!
ビッグイシュー日本のサイトではSOLD OUTになっていても、ビッグイシューさっぽろには在庫があることがありますので、お目当ての号がある方は北海道旅行の際に販売者にお尋ねください。

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みんなで歩んできた、10年。
これからも、ビッグイシューさっぽろをどうぞよろしくお願いいたします。

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ビッグイシューには、日本各地で雑誌『ビッグイシュー日本版』の販売者をサポートいただいている団体があります。
各地の活動に関するご質問やボランティアを希望される方は、それぞれの団体に直接お問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/sell/supporter/

<ビッグイシューさっぽろが募集しているボランティア>

・卸当番 (火、木、土 9:30~11:00)(最新号の発売日前日の同時間)
・読者レター作成(自宅作業)
・会計(自分の都合のつく時間)
また、販売地域外で、ホームレス状態の方の自立支援としてビッグイシューの販売サポートを開始されたい方はビッグイシュー日本までお問い合わせください。
たとえば名古屋の場合は、読者だった方が引っ越しした先にビッグイシューの販売がないことを残念がって立ち上げたケースです。
あなたの地域でも、気持ちを同じくする仲間とビッグイシュー販売のサポートをしてみませんか?
<全国の販売サポーター>
https://www.bigissue.jp/sell/supporter/






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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。