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7年間運転停止で劣化。25年間点検せず48ヵ所に損傷

 青森県六ヶ所村にあるウラン濃縮工場で、給排気ダクトの錆問題が起きている。公表された点検結果によれば、48ヵ所におよぶ錆やこれによる損傷などが発見された。材質にトタン板を使っている箇所は全面的に錆びが進み、穴が空いてぼろぼろになっていた。


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(日本原燃発表資料より)

 給排気ダクトは施設全体の空気圧を少し低くして、事故時に漏れだした放射性物質をフィルターに導くための安全上重要な設備だ。

 原因に関する事業者からの説明はまだないが、海岸近くに建っているため、海塩を含んだ空気の結露による腐食が考えられる。そのような場所に建つからこそ、きちんとした点検による早期発見が必要だが、なんと運転開始から25年間一度も点検していなかったことが明らかになった。

 点検を行うに至ったきっかけは、昨年12月に島根県にある島根原発2号機で空調ダクトの腐食が発見されたことだ。この原因や対策を含めた報告書が今年3月に原子力規制委員会に提出されている。  ウラン濃縮工場を運転する日本原燃株式会社は、これを受けて今年3月から点検を始め、9月に結果の報告を公表した。島根原発での事例がなければ点検は行われず、大きなトラブルを引き起こしかねない事態になっていたに違いない。

 福島原発事故が起き原子力施設の安全確保が厳しく求められているのに、どうしてこのようなことが起きるのか?

 2010年からの長期の停止と、以下に述べる将来需要の低迷などが品質管理能力の維持を難しくし、これが遠因になっているのではないか。

 ウラン濃縮とは、大部分がウラン238から成る天然ウランの中にある核分裂しやすいウラン(ウラン235)を、遠心分離法と呼ばれる方法で原発の燃料に適した割合に高める作業だ。遠心分離とは洗濯機の脱水槽のようなもので、高速回転するドラムの中に天然のウランを入れ、ウランのほんのわずかの重さの違いを利用して濃度を高めていく。1000台もの遠心分離機を設置して5%程度に濃縮する。高速回転を続けなければならないので、ひとたび動かせば10年ほど動かしっぱなしにするという。

核開発を疑われてしまうコストの高い濃縮作業

 六ヶ所ウラン濃縮工場は4年の歳月をかけて建設され、92年に操業を開始した。その時点では150トン程のウランを濃縮作業する能力しかなかったが、1500トン規模へ順次製造ラインを拡大する計画だった。しかし計画は縮小され、1050トンで打ち止め。それどころか、7つある製造ラインが次々に停止に追い込まれ、10年にはすべてのラインが停止した。

 ウランを気体状にして遠心分離機にかけるのだが、トラブルで停止したりすると、温度が低くなり機器の内部に固着する。すると安定した高速回転が得られなくなり、機能しなくなる。このような原因で次々に停止に追い込まれた。

 そこで、12年から13年にかけて改良型の遠近分離器に更新する工事を行い、ようやく75トンの作業能力を確保した。しかし、これでは原発1基が年間に必要な燃料分にも達しない。現在は、規制基準への適合性を審査している最中で、濃縮作業は行っていない。

 将来は改良型に置き換えていくことを考えているようだが、果たして、それが受け入れられるかは不透明だ。なぜなら、日本での濃縮作業はコストが高く、海外から濃縮ウランや燃料を輸入した方が遥かに安価だからだ。電力価格の競争が激しくなっていく中で、高い燃料を使い続けることは電力会社にとって合理的ではない。

 加えて、気体の濃縮ウランを燃料ウランに変換する作業が行える事業所が日本には1社しかない。以前は2社あったが、99年に起きた臨界事故によりJCO社が事業許可を取り消されたためだ。濃縮ウランの流れの半分は止まっているのだ。

 仮に濃縮を繰り返せば、核兵器級の濃縮ウランをつくることができる。濃縮技術は核兵器の開発技術でもある。経済的に合わないのに維持し続けるとすれば、核開発の意図があるのではないかと疑われかねず、核不拡散政策にとってマイナスの効果になる。この点も忘れてはならない。
 (伴英幸)

(2017年10月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 320号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)







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