職場や教育現場なども含め、様々なシーンで「LGBTQ」(※)や「性的マイノリティ」という言葉が聞かれるようになってきた昨今、LGBTQであることをカミングアウトする人も以前より増えてきて、「自分の身近にもいる」という人も都市部を中心に増えてきたのではないだろうか。

※「LGBTQ」…「LGBTQ」の人々に加えて「L/G/B/T」のそれぞれのカテゴリーに当てはまらない人々「Q」を入れた表現。「Queer(クィア)*」や「Questioning(クェスチョニング)**」、「セクシャリティを決めない人」の人たちの存在を尊重するという意味も含まれる。
*「Queer(クィア)」もともと、英 語で「変態」というように差別的に使われていたが、最近、異性愛主義[Heterosexism/ヘテロセクシズム]に 対抗する意味として当事者がポジティブに自称する言葉 として使われる。
**「Qestioning(クェスチョニング)自らの性のあり方がまだわからない/決めつけないことにしているというあり方。


しかしLGBTQのコミュニティ内においても、マイノリティとなる人たちがいる。たとえば耳の聞こえない、「ろう」の人々、「ろう者」だ。

今回は、Deaf LGBTQ Centerの代表の山本さんに「ろうのLGBTQ」についてお話を伺った。
※手話通訳の方にご同席頂きました。

03

Q:耳が聞こえないのはいつからですか?

私の両親は、ともにろう者です。多分遺伝性のものだと思うのですが、私も生まれつき耳が聞こえません。
両親ともに耳が聞こえないので、私が赤ん坊のころは、夜中に私が泣いたらわかるよう私の手と母親の手をひもで結んでいたそうです。赤ん坊はわめくときに手足をばたばたするので、ひもが引っ張られることで泣くことに気づくようにしていたと聞いています。
耳が聞こえないなかでの子育ては大変だったようで「もうこれ以上はいいね」となったのか、私は一人っ子です(笑)

両親ともにろうなので、両親の友達もろう者が多く、私はろう者に囲まれて育ちました。だから私が初めて覚えた言葉、第一言語は「手話」です。

「聞こえない」ということは聞こえる人にとっては病理的な見方で「かわいそう」とか、「聞こえる人と同じようにしてあげたい」と思うかもしれませんが、両親ともに「聞こえない」文化のなかで育ってきた身としては、第一言語が手話であることに私は誇りを持っています。

小学校にあがるときに、聴者(耳の聞こえる人)と一緒に過ごすようになり、第二言語として日本語の読み書きを習得しました。だから私はろうのコミュニティとろうでない人たち「聴者」のコミュニティと両方を知っています。

Q:いつ頃から、性的マイノリティであると自覚されたのですか。

小さいころからですね。私は女性の体で女性の気持ちの人なのですが、テレビに出てくる、いわゆる「ニューハーフ」や「オナベ」と言われる人を見て、魅力的だなあと感じたのを覚えています。今でいう、トランスジェンダーにあたる人に惹かれることが以前から多かったと思います。

でもその気持ちが何であるかということは、自分ではよくわかっていませんでした。
高校生になって出会った年上の方が、ろうトランスジェンダーの方で、自分のアイデンティティをしっかり自覚している方でした。
その方に、性的マイノリティのアイデンティティについていろいろ教えてもらったり、よき相談相手になっていただいたりしました。
そして、大学ではフェミニズム、ジェンダーなどについて学びました。また、LGBTQについてのサークルにも入りました。ここで、聴者のLGBTQの仲間とたくさん出会いました。
ただ、私たちろうLGBTQの人たちは聴者のLGBTQコミュニティでは、「ろう」であることでマイノリティになりますし、「ろう」の中では「LGBTQ」であることでマイノリティになってしまいます。
そんなふうに、どちらのコミュニティにおいてもマイノリティになってしまうので、ろうのLGBTQには様々な苦労があります。

Q:「ろうのLGBTQ」にはどのような生きづらさがあるのですか?

LGBTQの相談受付といえば、電話が一般的ですが、ろう者の人には電話は使えません。
そのため、不安や悩みを相談できる場所が不足しています。

また、「聞こえない」文化の特性として、情報が足りないということもあります。LGBTQや差別の現状も聴者の間以上に、あまり知られていません。そのため、ろうの社会で、LGBTQのことを相談するのは難しいのですが、もう一つの課題は、聴者にそのことを説明する手段が足りていないことです。

特に40代~60代以上が多い手話通訳者に、最近のLGBTQの情報が浸透しているわけではありませんので、LGBTQの手話通訳だとわかって仕事の途中で帰ってしまう人もいました。
手話の中の差別的表現に気づかず、ろうLGBTQの人たちにショックを与えてしまう通訳者もいます。
聴者の「病院」や「カウンセリング」「裁判所」といった、自分の一大事を左右する場所で、自分のアイデンティティにまつわる相談事を手話で通訳してくれる手話通訳者が絶対的に不足しているんです。

(差別的な手話表現の例)
差別的な手話表現
山本さん提供画像

手話における「結婚」という表現も、「男性」を表す親指と、「女性」を表す小指を合わせる動作であるなど、「男性」と「女性」の結婚を前提としたものだったり、LGBTQを示す表現が手話教室で教えられることはほとんどなかったりなど、現在広く知られている手話の表現にLGBTQへの配慮はほぼありません。

01
現在の日本の手話表現は、「男」と「女」がくっつく動作で示す

手話の世界では、まだまだ性別が二元論になっていて、男女の結婚以外の結婚があると話されることはほとんどないと思います。多様な性を表す手話表現が足りないのです。
「結婚」を示すなら、人と人が寄り添うという表現でもいいのでは?と思います。

02
「人」と「人」が寄り添うを意味する動作

そういったダブルの生きづらさにあるなか、重要なシーンで自分のアイデンティティをうまく説明・相談できず、誰にも伝わらないことが多く、知り合いの複数のろうLGBTQの人がそれを苦に自殺してしまいました。

このことに大きくショックを受け、私は「ろうLGBTQ」のコミュニティを作り、その存在を知ってもらうためDeaf LGBTQ Centerというグループを立ち上げました。

Q:具体的にはどのような活動ですか?

2013年、大阪で「第一回セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会」というものがあったのですが、その大会のなかでろうのLGBT分科会を実施したところ、全国から60人くらいのろうLGBTQの人が、情報交換できる場所や、視覚的な情報が欲しいと集まってきました。

また、「ろうLGBTサポートブック」や、LGBTQについて解説する手話動画を作ったりもしています。
「ろうLGBTサポートブック」は、2014年に「社会福祉法人NHK厚生文化事業団」の助成を受けて作成しました。6,000部刷ったのですがあっという間に配布しきってしまい、増刷した1万部もほとんどなくなりました。知られていなかった「ろうLGBTQ」という存在が知られたり、一人で悩んでいた人に仲間がいると伝えられたりしたのではないかと思っています。

この「ろうLGBTサポートブック」の内容をより今の時代に即してリニューアルしたいと考えています。クラウドファンディングをやっているので応援いただけると嬉しいです!
https://readyfor.jp/projects/deaf-lgbtq

そして今年12月、大阪で開催する「ろうのLGBTQ」の全国大会は、ろうのLGBTQ以外にも、聴者のLGBTQとそのパートナー、家族も参加してよいということにしたところ、120人中30人くらいが聴者の申し込みでした。
ろうLGBTQばかりであれば、手話またはパソコン通訳だけの無音のイベントなのですが、聴者に配慮して、手話通訳者を手配しました。
このイベントでは聴者がマイノリティになるんです。通訳をするにも、要約筆記パソコン通訳、筆談、読話・口話など、様々なニーズがあります。それぞれの事情があるので、まずは要望をあげてもらって、互いにできる範囲はどこかを調整しながら進めています。
そうやってお互いに歩み寄れたらと思っています。

Q:様々な活動をされていますが、ご両親にはLGBTQであることをカミングアウトされていますか?

はい、しました。最初は戸惑った様子でしたが、「いつか熱が冷めるだろう」と思っていたようです。
でも、現在の夫であるトランスジェンダーの諒(まこと)さんと真剣なお付き合いを始めると、親としては「孫の顔が見たいから男性と結婚してほしい」という気持ちがあったようで、とても反対されました。
結局認めてもらえるまで約3年かかりました。

ろうのLGBTQのカミングアウトに際しては、「ろうの子どもを必死で育ててきて、やっと一人前になったと思ったら、今度はLGBTQなの!?」と大きなショックを受ける聴者の親も多いようです。LGBTQの本人のカミングアウトのプロセスだけでなく、受け止める親の側のプロセスをサポートするということも必要だと感じています。

Q:ろうやLGBTに対する理解を深めるためのオススメの映画はありますか?

韓国の映画「きらめく拍手の音」は感動しました。


まだリリースされていないものだと今村彩子さんの「11歳のキミ」
https://www.studioaya.com/11kimi

今井ミカさんの「虹色の朝が来るまで」といった作品もおススメです。

Q:ろうではない、LGBTQではない人に何ができますか?

まずは「聞こえない文化」があること、「聞こえない文化の中にもLGBTという人たちがいること」を知ってほしいです。

手話の表現は、国によってもいろいろです。

日本の手話表現を知ることで、日本のろうの文化を知ってもらえたらうれしいですし、絶対的に不足している「ろうLGBTQ」の手話通訳に興味を持ってくれる人が多いとうれしいです。

これらをろうの人たちのための活動、と捉えるのではなく、「聞こえないことってこんなこと」「ろうのLGBTQはこんな困難がある」と知ることは、聞こえる人にもプラスになる経験だと思います。
耳が聞こえなくなるって、生まれつきのものばかりではありません。
病気などによる中途失聴、高齢による難聴などで、聴力を失う可能性は誰にでもあります。
自分や大切な人が聴力を失ってしまったときに、どんなアイデンティティを持っていても、生きやすい社会になっていたらいいと思いませんか?

各市町村に「手話奉仕員制度」というものがあると思います。無料の手話教室もあるので、もしよければそういった場所でまずは手話に興味を持ってもらえると嬉しいです。

04
山本さんと手話通訳者の山口直子さん

山口さんは、右耳の聴覚がなかったことで、手話に興味を持って勉強している間に山本さん夫婦と知り合い、LGBTQ関連の手話も勉強中とのこと。
冗談を言い合いつつも、お互いを尊重している様子が伝わってきました。

大阪のLGBTQイベントでビッグイシューの出張販売を行います 11/24

ビッグイシューは「誰にでも居場所と出番がある社会」を応援しています。
LGBTQについて理解を深めるイベントで、販売者による出張販売を行う予定です。
上記記事の山本さんも参加者としていらっしゃる予定とのことです。


LGBTを知っていますか?「いない」のではなく「見えてない」だけ

日時:平成29年11/24(金)10:30~12:30
会場:とよなか男女共同参画推進センター すてっぷホール(エトレ豊中5階)
定員:100名(先着順)
問い合わせ:  2017project.m @gmail.com

講師:増原 裕子
LGBTコンサルタント。
慶応大学大学院フランス文学修士課程、慶応大学文学部卒業、パリ第3大学留学。ジュネーブ公館、会計事務所、IT会社勤務を経て現在株式会社トロワ・クルール代表取締役。
2015年パートナーの東小雪さん(元タカラジェンヌ)と共に渋谷区パートナーシップ証明書交付第1号。高校の教科書に取り上げられています。


ビッグイシュー・オンラインのLGBT関連記事

「僕はゲイです」と32年間言えなかった理由と、カミングアウトした理由-「僕は、生きづらさを抱えている人の“希望”になりたい」

「LGBTの子どもたちとどう接したらよいのかわからない」という先生・親のみなさんにおすすめの1冊。 『先生と親のためのLGBTガイド もしあなたがカミングアウトされたなら』

セックスのない愛:人口の1〜3%程度存在すると言われる「無性愛者(アセクシュアル)」が直面する困難

『ビッグイシュー日本版』の「ろう」「LGBTQ」関連バックナンバー

THE BIG ISSUE JAPAN207号
特集:「盲ろう者」 二重障害の世界

https://www.bigissue.jp/backnumber/207/


  THE BIG ISSUE JAPAN 283号

スペシャルインタビュー:映画「リリーのすべて」でトランスジェンダーの女性を演じたエディ・レッドメイン

https://www.bigissue.jp/backnumber/283/


  THE BIG ISSUE JAPAN 261号

スペシャルインタビュー:同性愛をカミングアウトしたソウルシンガーのサム・スミス

https://www.bigissue.jp/backnumber/261/


 THE BIG ISSUE JAPAN 307号

特集「どこにもない食堂―― 誰もがふさわしい場」

LGBTの人たちが働き、多様なセクシュアリティ、年齢、国籍を超えた人々が集まる”アジアンビストロ”「irodori」(東京・渋谷神宮前)と、店内の公用語が“手話”であるソーシャルカフェ「サイン・ウィズ・ミー」を紹介しています。
https://www.bigissue.jp/backnumber/307/


ビッグイシューは最新号・バックナンバーを全国の路上で販売しています。販売場所はこちら
バックナンバー3冊以上で通信販売もご利用いただけます。







過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。