「日本における貧困は絶対的に自己責任」と主張する人もいるが、果たしてそれは本当だろうか。
2017年11月15日、上智大学グローバルコンピテンシープログラムで「日本の貧困問題について考える」と題した公開講座が行われ、最前線で貧困問題に取り組む「もやい」・「みらいの森」・「ビッグイシュー」の3人が、日本における貧困の状況とそれぞれの取り組みを語った。


「人とのつながりが切れているからこそ、貧困は見えづらい」/認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの加藤さん

貧困には様々な形がある。子どもの貧困、高齢者、シングルマザー、非正規雇用、ホームレスなど…。その中で「女性」は貧困に陥りやすいグループのひとつだと、加藤歩さん(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長)は言う。女性は家庭の中で家事や育児、介護などを一方的に担わされてしまうことによって、フルタイムで働くことを難しくさせられてしまっていることも多く、給与水準も男性に比べ低い。非正規で働く割合も高いため、貧困に陥りやすいという。


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母子世帯の貧困も深刻だ。2015年時点の母子世帯の年間平均総所得は270万円(児童手当等含む)。一方で、全世帯の年間平均は545万円だ。一般家庭の半分以下の所得で暮らす人の割合「相対的貧困率」は、子どもを持つ一人親の家庭では50%を超える。親が一人の家庭、中でも母子家庭は非常に苦しい状況にある。

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厚生労働省平成28年国民生活基礎調査より

外から見えない“家庭内貧困”

日本では世帯ごとに所得を測るため、“見過ごされている女性の貧困”もあると加藤さんは指摘する。夫が多く稼ぐ世帯は貧困世帯ではない。しかし、妻が専業主婦であるにもかかわらず夫が家庭にまったく稼ぎを入れない場合や、少ししか渡さない場合は、「外からは見えないが、そのような女性は家庭内で貧困に陥っている」と加藤さんは言う。こうした女性は、収入がないため離婚もできず、行き場を失ってしまう。

加藤さんは60歳女性の例を挙げる。女性は結婚直後から、夫に身体的、精神的、性的なDVを受けてきた。実父からは、「女は勉強すると生意気になる」と言われ、本すら読ませてもらえず、働いた経験もない。耐えかねた女性は、離婚して1人暮らしをしようと思うが、収入は全くない。どうしようもなくなり、娘に連れられて認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい(以下「もやい」)に相談に来た。

DVが原因で、生活に支障がでた人の相談が、「もやい」にはよくあるという。DVが長期間に渡り、内容が凄惨であるほど、その後「普通の生活」を送ることは困難になる。仮に、なんとか経済的に生活できるようになったとしても、PTSDなど、心の問題が自立の枷になる。

貧困は”人のつながり”を奪う

加藤さんは、貧困に陥っている人ほど「人とのつながりが切れている」と言う。
友だちづきあいに使えるお金がない、友人や親戚の結婚式や葬儀に出るための交通費やご祝儀・香典が捻出できないといったことの積み重ねで、人づきあいから遠のいてしまった、困窮していることを知られたくなくて友人や家族との連絡を絶ってしまった、借りたお金が返せず縁が切れてしまったという場合もあれば、親からの虐待や配偶者からのDVから逃げるために人とのつながりを切って知らない土地に来たという人もいる。

「もやい」では生活に困窮し住まいを失ってしまった人がアパートに入る際の連帯保証人を引き受けている。ところが、貧困に陥っている人が困るのは、連帯保証人だけではない。「緊急連絡先」すら、あてがないのだ。連帯保証人は、重い法的な責任を伴うが、「緊急連絡先」はただの連絡先だ。それすら用意に困る人が多い現状は、貧困者の孤独を象徴している。そこで、もやいは、孤立を防ぐために、「サロン・ド・カフェ」などの交流事業を運営している。つながりと、自尊心の回復を通じて、貧困に陥った人の自立を促すのがねらいだ。

※ここで言う自立は、経済的自立だけを指すのではなく、自分の生き方を自分で選択・決定し、生きがいをもって自分らしい生活を送ることができる状態を意味する。

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(「もやい」提供)


「もやい」の活動に興味が少しでもあれば、気軽に問い合わせてほしいと加藤さんは話した。

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http://www.npomoyai.or.jp/

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい

「貧困問題を社会的に解決する」ことをミッションに、経済的貧困には生活基盤の回復、つながりの貧困にはつながりと自尊心の回復をサポートする。
http://www.npomoyai.or.jp/


「児童養護施設出身の3万人の子どもたちは貧困の連鎖に陥りやすい」/認定NPO法人「みらいの森」

「子ども」も貧困に陥る。17歳以下の相対的貧困率は13.9%(2015年時点、厚労省調べ)。7~8人に1人の子どもが、貧困に陥っている計算だ。中でも、児童養護施設で暮らす子どもは、特に苦しい状況に置かれる。厚労省によれば、2013年に大学へ進学した児童養護施設出身の若者(退所児含む)はたった12%。全体の大学進学率の、50%とは大きな開きがある。

日本に児童養護施設は約600あり、そこで暮らす子どもは約3万人いる。

その子どもたちが「スキルや、サポートが無いなかで社会に出るのはとても厳しい」と話すのは、認定NPO法人「みらいの森」(以下「みらいの森」)エグゼクティブ・ディレクターの岡こずえさんだ。

児童養護施設出身者には、施設を出た後、ちょっとしたきっかけからワーキングプアやホームレスになるなど、「貧困のサイクル」にはまってしまう子どもが多いと言う。


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(「みらいの森」提供)

問題の1つは、モチベーションを維持することの難しさだ。施設には親などからの虐待を受けて入ることになった子どもも多い。心の傷を抱え、「自分が悪い」と思いながら育った子どもは、自分が大切だと思える機会が少なく、「どうせ自分なんて」といった投げやりになりやすい。

また、子どもたちは、施設のルールに基づいて生活をすることがほとんどのため、好きなことを選んだり主張したりをしない・できない子も多いという。「何を言っても聞いてもらえない」と、何事にも消極的な態度を取ってしまいやすいのだという。

「施設の職員に決めてもらうことに慣れた子どもは、簡単な、『朝ご飯はぶどうジュースがいいか、オレンジジュースがいいか』という質問でも、ニコニコと笑うけれど、うまく答えられない。好きな物があっても、それを伝える方法が分からない様子が見られます。」

職員が頻繁に変わることも、子どもの心に何らかの影響を与えていることも多いと岡さんは言う。児童養護施設の子どもたちは、一番愛されたいと思っている「親」と暮らせない境遇にいる。時間をかけて、職員を信頼できるようになっても、職員は異動などで数年で居なくなってしまうと「結局、大人は自分たちのもとを去っていくんだ」と、大人への不信感を持ってしまうケースも多いという。 「冒険することにすごくおびえている子、失敗したくないから挑戦すらしない子を多く見てきました」


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(「みらいの森」提供)

キャンプの魔法

「みらいの森」が目指すのは、日常生活で生かせる自信や想像力を、英語でのキャンプという「非日常」の経験を通じて養う事だ。これを岡さんたちは「キャンプマジック」と呼ぶ。

施設の職員以外に大人と接する機会のない子どもたちが、キャンプを通じて様々なバックグラウンドの大人と会うことで、「こんな生き方あるんだ」「人と違っても別にいいんだ。」と考えられるようにもなるという。

18歳で施設を出て一人で自立することを求められる児童養護施設の子どもが、早くから施設外で様々な大人と触れ合い、自分に自信を持つ機会を定期的につくる。そのことで、退所後に課題を抱えた時、解決のために必要なスキルや考え方を体得できることを目指している。

岡さんは、「キャンプマジック」が生まれた印象的な例として、千葉県の児童養護施設から来た小学1年生の男の子を挙げる。男の子は昨年の夏、宮城県での4泊5日のキャンプに参加した。乳児のときから施設で育ち、キャンプどころか、新幹線も初めての経験だった。初めて続きの状況に驚いたのか、宮城県の駅で、プラットホームから動けなくなってしまった。周りが説得して動けるようにはなったが、口数も少なく、施設の職員も最初は不安だったという。ところが、キャンプが始まると、男の子は少しずつ心を開いていった。大好きな虫に囲まれ、友達もできた。最後の夜には、キャンプファイヤーの前で、「キャンプ全部が楽しかった!」と大声で宣言したという。

認定NPO法人みらいの森
NPOみらいの森は、児童養護施設で暮らす子どもたちのために、アウトドアプログラムを通じて生涯の糧となる体験を創り出し、幸せな実りある成長をサポートしている。 https://mirai-no-mori.jp/ja/


編集部より/児童養護施設の生活についての参考映画:
ドキュメンタリー映画「隣る人」



「貧困問題はすべての社会問題と繋がっている」/ビッグイシュー日本・佐野未来

 「ホームレス状態」とは貧困・孤立の問題の氷山の一角。「貧困問題はすべての社会問題と繋がっている」と話すのは佐野未来(有限会社ビッグイシュー日本・事業企画室長)。

日本でのホームレスの定義は「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場とし、日常生活を営んでいるもの」(ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法)だが、そもそも、日本ではその状況に生れ落ちる人はまずいない。もとは家や居場所があった人が、失業や不安定雇用、離婚、DV、虐待、病気などの困難を経験し、ホームレス状態に至るのだ。

貯金や人間関係などといった「セーフティネット」が少ない人ほど、ホームレス状態に陥りやすい現状がある。そういった意味で、18歳になったとたんに一人でゼロから生活をしなければならない児童養護施設出身の人たちは、リスクが高い。また、高齢者や障害者でありながら、家族のサポートが得られない人たちも高リスク層に入る。日雇いなどの不安定就労、外国籍やセクシュアルマイノリティといった差別や偏見の目で見られやすい人たちもそうだ。

そして、いったん路上生活となると、そこから自力で抜け出すことは不可能に近い。また、ホームレスの状態が長くなればなるほど、心身の健康を害するだけでなく、社会から孤立を深めやすく、抜け出すことが難しくなる。

福祉の制度はどうか?日本では家族がセーフティネットの役割を果たす「家族福祉」と、終身雇用などで企業がセーフティネットの役割を果たす「企業福祉」が社会福祉の機能を果たしてきた。しかし、家族のあり方や社会の変化で、「家族福祉」「企業福祉」のが機能しなくなりつつある。そのなかでセーフティネットが脆弱な個人を受け止められる「社会福祉」が万全とは言えない状況だ。

国際労働機関(ILO)の調査によると、2009年の世界同時不況の時には日本の失業者の77%が失業保険を受け取れていない。また、生活保護基準を下回る経済状態の世帯のうち、実際に生活保護を利用できているのは約10~30%と言われている。残りの70~90%は最低生活費が足りない生活を送っているにもかかわらず、福祉を利用できない状況にあることになる。

参考:日本弁護士連合会「今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?」

有限会社ビッグイシュー日本(以下「ビッグイシュー日本」)は社会的企業として雑誌『ビッグイシュー日本版』を制作・発行している。

それをホームレスの人の独占販売とすることで、保証人や貯金、家がなくてもすぐに働き収入を得る機会を提供している。仕事を通して、社会と繋がり、自分の力でホームレス状態から抜け出すことができることを目指す。

また、認定NPO法人ビッグイシュー基金(以下「ビッグイシュー基金」)を立ち上げ、雑誌の販売の収入だけでは路上生活を脱出することが難しい人たちのサポートを行っている。

“ホームレス=路上生活”と考えるのではなく、「屋根がない状態」に至るまでの状態にも目を向けて支援を考える必要がある。例えば、今のホームレスの定義にはネットカフェやドヤ(簡易宿泊所)、サウナ、施設、病院、友人宅などで生活している人たちは含まれない。しかし、こういった状況の人たちも「家がない状態」、つまりホームレスと地続きの状態であるといえる。

 様々な社会問題の渦中にいる人々は、「家がない状態」に陥るリスクが高い状態にあると言える。 ビッグイシューは、ホームレス状態に限らずさまざまな社会課題を雑誌で取り上げていくことで、ホームレス化を予防する働きも担っているのだ。

有限会社ビッグイシュー日本
https://www.bigissue.jp/

認定NPO法人ビッグイシュー基金
http://www.bigissue.or.jp/ 

記事作成協力:佐藤遼太郎 

※参考:
ホームレスになるのって自己責任じゃないの?と思っているあなたへ、人がホームレスになる理由とが路上から脱出できない理由を解説(記事中ほどの「カフカの階段」で解説)


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ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けて出張講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

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https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/

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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。