「第3回大阪ホームレス会議~食のセーフティネットのいま~」のパネルディスカッションをレポートします。
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(5)会場とのトークセッション

第二部の会場トークセッションでは、第一部のパネルディスカッションをうけて、参加者のみなさんからの質問や意見が飛び交いました。

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質問をする参加者の男性

■食品の安全性を守る取り組み「企業との合意書」・「温かいものは冷めないうちに」・「冷凍車をレンタル」・「食品の管理の研修の受講」etc・・・

 まず、活動の仕組みとして食品の安全性に関する質問が。
貴重なお話ありがとうございました。素朴な疑問なんですが、食品の安全性は皆さんどのようにケアをされているのかを知りたいです。夏場とか衛生面気になると思うのですが。(男性)
浅葉さん(フードバンク関西 理事長)
企業から食品のご寄付をいただくときに合意書の交換というものをしてまして、「商品としては扱えないけれども食べものとしては全く問題ないもの」ということでご寄付をいただいています。それから、冷蔵庫・冷凍庫の温度を日々2回チェックするなど、食品物流企業さんレベルの安全確保はしています。
それから、どの企業から何をどのくらいの量いただいたか、それをいつどのような状況で保管して、どの施設にどれくらい出したか。つまり、受け取ってから届けるまでの状態に関してはトレースができるようにしています。
古市さん(炊き出し志絆会 理事)
保健所からは「炊き出しのようにお金をとらずに配るものは保健所の管理下ではないので、あくまでも自主的に衛生面を気を付けてください」という指導を受けています。カレーにしているというのも意味がありまして、食べ物は大体30度から40度くらいで放置していると腐っていくリスクが高まっていくんですが、カレーはその日調理して冷めないうちに食べてもらっている。なので20年間、食中毒などの事故なく活動できています。
高橋さん(フードバンクかわさき 代表)
やはり、冷蔵品・冷凍品というのはきちんと温度に合ったものでないと厳しいので、運ぶ時も冷凍車をレンタルして一軒一軒回ります。エンジンをつけていないと冷凍にならないので、ずっと交代で運転し続けて一日回ります。
お米とかは15度を超えてしまうと虫がわいてしまうので、なるべく玄米で保管するというのと、温度を下げた部屋を用意しています。冷房をがんがんきかしたところにお米をおいて、精米所にいって詰めなおします。個人の方からいただくことが多いので、未開封の賞味期限が残っている常温のものということでお願いしています。
先ほど浅葉さんもおっしゃられてましたが、一個一個、寄付でいただいたものをコンピューターに記録しています。それがどのお宅にいつ渡ったかというのを辿れるようになっているので、リコールがあった時などは回収することができる。そういったシステムについても企業様にご説明させてもらってやっています。
川辺さん(にしなり☆こども食堂 代表)
フードバンク関西さんから食品をいただいた時は、配送してくれている方と保存方法などの確認をします。受け取った後は「にしなり☆子ども食堂」の責任で管理します。管理は大型の業務用冷蔵庫を個人の方の寄付で買ってもらってやっています。あと、タオルの共有をしないとか、流しの周りの掃除はしっかりするとかですね。子どもたちの手洗いを徹底するということと、食品の管理の研修も私自身受けています。子ども食堂保険があるので、それに加入して対応しています。

■フードバンクに協力したほうが企業も得をするはずなのにしないのはなぜ?

   次に、産業廃棄物を出すコストという企業の立場を想定した質問があり、フードロスの問題がありながらフードバンクへの食品が集まりにくい制度上の課題に関する議論へと繋がりました。
高橋さんと浅場さんにお伺いしたいんですが、さきほどの話のなかで寄付に頼るので運営もかつかつだということでしたが、大企業は産業廃棄物を出すときにお金を払って捨てているはずですよね?そこで、「産業廃棄物としてかかるお金よりも安くフードバンクが受け取りますよ」、ということはできないのでしょうか?企業からお金をもらって食品を受け取るということをすれば、活動資金にもなりますよね?(男性)

浅葉さん
日本の場合は環境庁が廃棄物の法律を作っていて、「(食べるうえでは安全だけど形が悪い食品も含め)廃棄物を事業所から出すときは産業廃棄物業者に出さなければいけない」という法律があるんです。勝手な所に捨てないように…という縛りですよね。それで、産業廃棄物業者さんは食品の安全を保障できる立場ではないので、一旦廃棄物業者に渡った食品を私たちは受け取ることができないんです。なので、私たちが合法的に企業さんから食品をいただくには寄付しか方法がないんですよ。

それで、寄付するかどうかっていうのを決めるのは現場ではなく役員決裁なんですね。現場は「もったいない!」って思うんだけど、大企業であればあるほど、その判断を上にあげて…となる。そうすると、その途中で「何でそんなにロスが出てるんや!」とか、「もし事故が起こったらどう責任とるんや?」、というかたちで話が変わって、社長決裁までいかないんですよ。

本当はフードバンク活動をしている人間が環境庁や農林水産省にロビーイングをして、「フードバンクに食品を渡せる法律を作ってください」って言わなくちゃいけないんですけど、フードバンクはそういった活動までするお金がない。
こうした状況を変えるために、高橋さんは消費者の声が重要であると指摘します。

高橋さん
やっぱり縛りがどんどん厳しくなってるので、会社を動かす力って消費者の方々なんですよね。例えば、このココアの缶を見ると、賞味期限が「2017年の12月17日」って書いてあるんですよ。そうすると私たちフードバンクは12月17日までしか渡せないんですよ。でも缶の飲料ってそんな悪くなるものじゃないですし、賞味期限って「数か月の余裕があるものは月表示でいい」って決まってるんです。
もしこの缶が月表示だったら、私たちは12月31日まで渡せるんですよ。

是非、消費者一人ひとりが「どうして日にち表示のままなんですか?」って問い合わせをする。あと、企業さんに「フードバンク出してみたらどうですか?」とかね。そういう行動を一人ひとりがやってく。あと行政に「もったいないじゃないですか!」って。フードバンクがロビーイングをするより皆さんが声を上げていってくれたほうが早いです。フランスで「捨てずにフードバンクに」という法律ができたのも、やっぱり市民の動きなので。是非、皆さんも動いて下さい。

■当事者が「助けて」と言えるために必要なこととは?

 続いて、第一部でも議論になった「『助けて』と言える仕組みをどうつくるか」という質問がされました。
今こそ、教育の現場でも「助けて」と言えるように育んでいかないといけないと思うんです。子どもたちが今後声をあげることによって、人と人との繋がりができてくるものだと思うので。(男性 教育関係者)
これに対しては、登壇者から次のような意見や思いが。
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質問に答える登壇者の皆さん


高橋さん
大人が信頼に足らない存在であると考えている子どももいるので、「安心できる大人がいるよ」ということを伝えられることだったり、「聞くよ」ということだったりっていうのが大切だと思います。それはLINEかもしれないし電話かもしれない。今の子がぷらっと来てしゃべれる場所を確保したい。
川辺さん
子ども食堂をやりはじめた時、ご飯作り終えて公園でたむろしてる子たち(主に中高生)に「食べにおいで」と言ってもはじめは来てくれなくて、1年くらいかかりました。そうやって私の場合は自分から声をかけに行く。そうすると関係性が少しずつできてくるのかな~と感じています。はじめは「食べられない」という理由で来てくれた子が食堂を手伝ってくれるようになったりする。だから、「支えられてる側がいつか必ず支える側になる」と思い、そのことを伝えながらやっています。
 古市さんは、『路上脱出ガイド』が『生活SOSガイド』に改訂された意義について、「『助けて』と言えるしくみづくり」・情報の提供という観点から言及されました。
僕は平日の本業は若者サポートステーションで、39歳までの働くことに何かしらの困難を抱えている若者の支援をやってるんですけども、最近サポートステーションに来る子で家のない子が増えているんですよ。『路上脱出ガイド』が『生活SOSガイド』に名前が変わったのはすごい良いな~と思って。ネットカフェで暮らしてる子にとっては『生活SOSガイド』のタイトルのほうが合うみたいで、置いていたらたくさん持って行ってくれる。やっぱり情報が必要な人に届くというのが今回の名称変更だと思いました。
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会場では『路上脱出・生活SOSガイド』の無料配布も ※『路上脱出・生活SOSガイド』については下記URLをご参照ください。
http://www.bigissue.or.jp/activity/info_17100102.html

(6)閉会の挨拶

最後に当事者のAさん、ビッグイシュー基金理事長の佐野章二より、閉会の挨拶が。

Aさん
みなさん、今日は12月の年末も近い時期に来てくださってありがとうございます。ホームレスに炊き出しとか相談…、親身になってくれる人がこうやっているんだなあと思っています。これからもフードバンクを知らない人もいると思うので周知していきたいなと思っています。今日は本当にありがとうございました。
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ビッグイシュー基金理事長 佐野章二

佐野
今日は本当に貴重な時間をありがとうございました。今日お話しいただいた皆さんは、高橋さんの言葉を借りれば、「命のセーフティネット」ということで、いかに献身にきめ細かいことをされているか分かって頂けたと思うんですね。

普段我々はフードバンク関西にお世話になってばっかりなんですけども、これを機に「ビッグイシュー基金も対等に協力する」…といった関係を作りたいと思っております。そういう思いもこめて、今回、共催とさせてもらいました。

僕たちがビッグイシューを始めた頃は、食のサポートはほとんどできなくて、「とにかくまず街へ出て売ってください…」と言うしかなかった。10年経って、状況が変わって、みんな本当に献身的にやってらっしゃるんですけれども…そういうネットワークが作れる時代になってきた。相談にこられた方にもね、「パン食べてカレー食べて元気になって帰ってください」と言えるんですね。こう言えるのと言えないのとでは全然違うので本当にありがたいと思っています。

僕らは、「活動に参加して下さい。寄付も立派な参加ですよ」と言う。今一番、特にフードバンクにとっては有力な手段が寄付じゃないかな~というふうに思うんですね。そういうところで、今回各団体の資料がたくさん入ってますので、是非ご理解いただければと思います。

今日は非常に長丁場でございました。非常に重い話でしたけれど、すごく爽やかな風が通りぬけるような時間でもあったなというふうに思います。今日はみなさん本当にありがとうございました。フードバンクの活動をぜひともよろしくお願いします。僕たちもホームレス支援の観点から、「お世話になったから恩返しをする」というふうに頑張りたいなと思っております。みなさんよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
  「食のセーフティネット」をテーマに、支援者、当事者、市民が同じ目線で議論した今回のホームレス会議。現場の切実な話に息を飲む場面あり、意外な裏話に笑いが起こる場面ありと、真剣さと温かみのあるイベントでした。

(記録:永井悠大)
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◎いのちを守るセーフティネットに直結する、食のセーフティネット。
当日登壇された各団体の活動は、それぞれの公式HPからご参照いただけます。
「フードバンクかわさき」
「フードバンク関西」 
「炊き出し志絆会」 
「にしなりこども食堂」 

◎ビッグイシュー基金の活動は、たくさんの市民のみなさまに参加していただくことで成り立ち、その応援がビッグイシュー基金の土台になります。多くの人たちに気軽に参加していただくために、各種のご参加方法をご用意しました。
http://bigissue.or.jp/support_ind/index.html



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THE BIG ISSUE JAPAN276号
特集:子どもの貧困 生まれる「子ども食堂」
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https://www.bigissue.jp/backnumber/276/ THE BIG ISSUE JAPAN321号
特集:食SOS!フードバンクのいま
321_01
本イベントに登壇したフードバンク関西とフードバンクかわさきを掲載。
https://www.bigissue.jp/backnumber/321/






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