2018年の「若者応援ファンド」の選考を終えた皆さんに、2017年の助成で感じたことや、応募に見られる傾向と若者支援の現場が抱える課題、「若者応援ファンド」と中央ろうきんに求めることを聞いた。

中央ろうきん若者応援ファンドとは
「中央ろうきん若者応援ファンド」は、家庭環境や経済状況、病気や障害などの諸事情による社会的な不利・困難を抱え、不安定な就労や無業の状態にある若者を応援する、<中央ろうきん>の市民活動助成制度です。


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選考委員プロフィール
選考委員長:湯浅 誠氏(社会活動家、法政大学教授)
選考委員:雨宮 処凛氏(作家・活動家)、岡本 拓也氏(ソーシャルマネジメント合同会社創業者)、黒河 悟氏(労働者福祉中央協議会副会長)、宮本みち子氏(放送大学副学長・教授)、横田 能洋氏(茨城NPOセンター・コモンズ 代表理事)
※プロフィール詳細は記事末尾にて


増えた若い女性向け支援
1年ごとに時代が刻々と動いているのを感じる

雨宮
2017年の選考では「BONDプロジェクト」や「Colabo」、「Grow As People」など、若い女性向けの支援が多いのが特徴でした。中でも印象に残っているのが、性風俗業界のセカンドキャリア支援をしている「Grow As People」。女性たちが一定年齢になると、業界を抜け出すために通信教育で資格を取り始めるという話など、現場を知らなければわからないことも多くて興味深く思いました。 湯浅 去年おととしあたりから女性の貧困がクローズアップされ続けてます。社会的機運の高まりを反映して応募も多く、かつ採用も多かった印象がありますね。

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宮本
  毎年選考をやっていると、1年ごとに時代が刻々と動いているのを感じます。
 不安定雇用の若者といえば男性だったイメージがここ2、3年で大きく変わり、若い女性の問題がやっと認識されるようになってきました。12年と13年に日本学術会議と労働政策研究・研修機構共催のシンポジウムを企画したメンバーの一人としてその内容を、15年に編著で『下層化する女性たち-労働と家庭からの排除と貧困』という本にまとめましたが、いまだに書評で取り上げられ、こういう動きと連動してとらえられるようになっています。

湯浅
 「トチギ環境未来基地」や「CCV」のように、地域密着型の団体も目立ちましたね。「CCV」は栃木県鹿沼市を拠点に、地域住民を巻き込んで若者の就労・生活支援をしている団体ですが、私たちが訪ねた時に、タクシーの運転手さんまでが「うちの娘もお世話になっていました」と言っていたのには驚きました。

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横田
公募1年目だったこともあって、自主事業をメインにしながら、助成金に対してアンテナを張っている団体も多かった気がします。若者支援を前面に出しているというよりは、福祉や環境などの分野にフィールドを置く団体が、若者に役割をもたせるプログラムを工夫してつくった印象を受けました。

ヤングケアラー(介護)や
難民の問題が若者支援という文脈に登場

岡本 
2018年の応募についても、どの団体もすばらしい取り組みをされていると感じました。その中で、私が個人的に注目かつ重視したポイントは「アプローチが有効か」という点と「今後、活動が展開していく可能性」です。どうしてそこに着眼し、そのアプローチを取ったのか。それは受益者を幅広く増やしていける活動なのか、というところを重視しました。

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黒河
応募団体が東京に集中しているのを最初に感じました。地方に行くほど若者を含めた雇用が大変な状況にある中で、これらが先駆的なモデルとなり、地方に広がるといいなと。
 それから、中間的就労が非常に大事だということがずいぶんと認知されてきましたが、これまで取り組んできた団体は、そこから一般就労へつなげる時に、もう一つ大きな山を越えなければならないことに気づき始めています。私自身も一緒に考えていかなければならない課題として、勉強になりました。

雨宮
今までにない活動として興味深かったのは、若者支援とは別物と考えられてきた介護の分野で、ヤングケアラーの問題がやっと出てきた。私の周りにも、共働きの両親にかわって学生の頃から祖母の介護をしていて、そのまま就職できずにいる若い男性がいますが、ニートとか無職とか批判されてしまう。これは、本当に重要な問題だと思います。もう一つが、難民支援。若者支援の文脈で出てくるぐらい大きな問題だったことに改めて気づかされました。

湯浅
同感です。難民問題といえば人道支援的な人権課題としてとらえられてきたので、今回の応募での高度人材としての就労支援という発想が新しいと思いました。また、社会的養護の中でも特に児童養護施設に関わる支援をしている団体も多かった。バリエーションも豊かになり、層が厚くなり始めているのを感じました。
 気になったのは、裏を返せば、児童養護施設がアクセスしやすいからともいえるわけで、アクセスしづらく、カバーされていない人たちが、家や地域の中に埋もれて課題を抱えている。

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宮本 
社会的養護の問題は、子どもの貧困問題を議論する時に、「誰に喫緊の支援が必要か」という話があって、そこから広がってきた感じがします。児童養護施設等を出た若者が利用する自立援助ホームも、今は一般家庭で育った若者がおよそ半分を占めるという実態がある。つまり、むしろ社会的養護下のほうが法的にも制度的にもある意味で守られているわけですよね。そうでない「普通の家庭」の中で起こっている問題、先ほどのヤングケアラーもそうですが、一般家庭で起こっている見えない問題が何かのきっかけで気づかれ、明らかになってきています。

隠れている課題、光の当たりにくいところを応援する

湯浅
 「選考のポイント」でも公表しているとおり、若者応援ファンドの選考では、光の当たりにくいところに当てたいという意思が働いている。多様性というのはこのファンドのテーマの一つだと思いますけれど、あらゆる活動を多様に強化していくという意味では、その必要性はますます高まるんじゃないでしょうか。

宮本 
この助成金は、隠れているものを掘り起こすといった、非常に重要な役割を持っているんじゃないかと。例えば、15年から2年間、助成を受けたNPO法人キドックス。捨てられた犬を若者がお世話することで若者も犬も救われていくという小さな活動でしたが、中間的就労の木工所もできました。規模や社会からの関心度に関係なく、思い切って光を当てる意味はあると思います。最終選考に残った団体の中で残念ながら選考から漏れたものもあるんだけど、どれも時代をよく表しているという意味では捨てがたい感じがしました。

黒河
 日本には、生活保護水準以下の生活をしていても受けていない方がたくさんいる。政府は「非正規という言葉をなくす」とまで言っていますが、今日の実態を見ても落差を感じますよね。その中で、潜在的な課題に一所懸命向き合ってやっている団体がいることに力強さを感じました。今年の採択が来年にもつながるので、ファンドはできるだけ長く続けてほしいと思います。


横田
 若者支援の現場は、いろいろな制度の谷間の人たちを相手にするので公的資金が少なくて、今まで仕事として働ける人が少なかった。次の世代の担い手を育てるためにも、若い世代には、行政や企業にもデータを示して活動の必要性を説明できる力をつけてほしい。助成金が人件費のつなぎ資金になってはいけません。そのためにはお金を助成するだけの助成制度ではなく、団体同士の交流とか、いろいろな支援を組み合わせていく工夫が必要です。

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若者を応援しない社会に未来はない

湯浅 
助成決定後のアフターフォローがずっと課題なんですよね。課題といえば、家庭的養護と社会的養護の間とか、貧困世帯と一般世帯の間とか、見えにくいところにリーチする時、個人情報をもたない民間団体は、どの家庭が大変なのか知りようがない。行政事業の受託以外にも情報をもっている行政と協業ベースの領域が生まれるかどうかも、子ども・若者支援の課題だと思います。

岡本
 社会の空気として「子どもの貧困」という言葉を目にする機会が増え、少しずつ社会の目は醸成されつつあるように思います。一方で、若者の自己責任論が声高に叫ばれる社会の風潮はいまだに根強く、まだ道半ばにも見えます。どちらの意見が正しいかという視点にとどまらず、社会全体で子どもや若者をはぐくむムードが高まることが必要なんじゃないでしょうか。

宮本
 巷では、若者支援は終わったというような雰囲気もある。景気がよくなって有効求人倍率も1・5倍になり、人手不足で、フリーターや失業者が急増した時代は終わったと。だけど地方へ行くと正社員といっても月12万円、ボーナスも出ない実態がある。若い人たちの貯金は少なくなり生命保険加入率も少なくなり、若い人たちの経済力が落ちていくから企業としてもその世代から利益を得るという循環が成り立たなくなっています。
 今回の応募を見ても、新しい課題がどんどん出てきている。子ども・若者・中年・高齢者の問題は相互につながっていて、若者応援ファンドの社会的使命は終わっていません。

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横田
 昔は普通になれた正社員になれず、契約社員が当たり前という環境を変えない限り、根本的には解決されない。「この人に必要とされている」と思えることや安心感こそが、働くモチベーションの原点になる気がします。「お前を育てる」と言ってくれる社長も上司もいない。人が足りない時だけ若い人を使う。終身雇用に戻すのは難しいかもしれないけど、あまりにも契約や評価を前提としたシステムになっている社会を人を大事にする社会にすることが必要です。
 経営側と、日本の若者の未来について議論する労働界であってほしいと思います。家計支援と組み合わせて個人向けの低利融資をやっている生協もありますよね。中央ろうきんだからこそできる伴走型の経済的支援もあるはずです。


雨宮 
若者支援はもう終わったという見方があるなんて、ショックです。失われた20年の中で、90年代から雇用破壊の問題が、若者バッシングにすり替えられ、解決が先送りされてきた。そこに構造の問題があることが、やっと理解されてきたばかりなのに。
 子どもの貧困については数年前に社会的合意ができましたが、若者はいまだに甘えていると言われる。子どもと若者を応援しない社会に未来はないとみんなが認識しないことには何も始まらないと思います。

お金の循環が見えるろうきんだからこその事業

岡本
 このような活動を継続していることに敬意を表します。最大200万円のお金を複数年にわたってサポートしていただける可能性があることは、特に創業したばかりの団体にとっては非常に大きな支えになります。若者支援のムードを一緒に高めていければと思います。


横田 
応募団体のプレゼンテーションを聞いて、若い世代が果敢にチャレンジしているのを感じました。
 以前と比べて、生活困窮者自立支援制度などもでき、助成金をもらったり、クラウドファンディングを活用したりすれば、比較的お金も得やすくなっています。仕事として支援活動を続けていける環境が整ってきたんだと思います。一方で、申請書を上手に書ければお金をもらえる、となるのは怖い。
 本当に丁寧にプログラムを育てないと、逆に活動を継続できなくならないかと。一気に事業規模を拡大してマネジメントが追い付かないということがないよう、応募団体には着実にオリジナリティなり力をつけていってほしいし、その役に立つ助成金であればいいなと思っています。

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黒河
 景気は上向いたというけど、ひと皮むけば問題は複合化している。中央ろうきんは今、青年と女性が使いやすい金融機関になることを目標としていますが、奇しくも2017年の助成先は女性の課題に取り組む活動が多かった。
 ろうきんは、働いている人が預けたお金の循環が見える世界ですからね。普通の勤労者が預けたお金が他の普通の勤労者の住宅ローンや車や教育ローンになったりする。そうであればこそ、このファンドは余力で行う社会貢献ではなく本体事業。一部の生協では、税の優遇措置で浮いた分をもっと社会に循環しようという動きが始まっている。長期にわたって若い人を応援するという軸はそのままに、応募しやすいテーマ設定をしてもいいかもしれませんね。

湯浅
 働く人の金融機関である中央ろうきんが働けていない人の就労支援をするのは、ビジネスワードでいえば顧客創造ですよね。中央ろうきんの理事長もおっしゃっていましたが、日本の人口が減っていく中で、こうした活動を本体事業にどう組み込んでいけるかが、潜在的な顧客の掘り起こしにもつながる。ソーシャルグッドな活動に強く反応する若い人や女性に対しても、訴求力のある取り組みだと思いますよ。

「中央ろうきん若者応援ファンド2 0 18」助成団体一覧

団体名 所在地 活動名 助成金(万円)
NPO 法人青少年の自立を支える会シオン 茨城県 ステップハウス~あと一歩の支援で変わる子ども達~ 50
NPO 法人 アフタースクール 千葉県 働けない若者が「放課後児童支援員」資格をとって子育て支援〈2〉 100
NPO 法人 WELgee 東京都 日本に希望を求めてやってきた難民の若者たちが、自分の特技を 発揮し安定して働くための仕組みづくり 200
NPO 法人 介護者サポートネットワークセンター・アラジン 東京都 介護とキャリアの相談拠点 ――単身若者の介護者の就労支援の拠点づくり 200
一般社団法人 慈有塾 東京都 学歴がない若者への無料学習支援と慈有塾卒業後の就労支援事業 150
NPO 法人 若者の自立支援すみれブーケ 東京都 児童養護施設・里親を巣立った若者の再出発と自立を支える場と してのシェアハウス運営と精神的専門スタッフ体制づくり 100
NPO 法人 PIECES 東京都 コミュニティユースワーカー事業 197
NPO 法人 みらいの森 東京都 リーダー実習プログラム――Leader in Training ( LIT)2018 200
NPO 法人 ユースコミュニティー 東京都 社会で躓いた若者が、子どもの支援者になることで、社会へのつな がりと意義を見出す仕組みづくり 120
NPO 法人 フェアスタートサポート 神奈川県 18 歳での就職自立を目指す若者への就労支援エリア拡大事業 100
10 団体 助成総額1,417 万円 /助成期間:2018 年4 月1 日〜2019 年3 月31 日
これまでの助成団体についてはこちらをご覧ください。



 〈選考委員プロフィール〉

選考委員長
湯浅 誠氏(ゆあさ・まこと)
湯浅誠さんイラスト
社会活動家、法政大学教授
1969年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。08年末の年越し派遣村村長を経て、09年内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるためには民主主義の成熟が重要と痛感する。著書に『反貧困』(岩波新書)など多数。


選考委員
雨宮 処凛氏(あまみや・かりん)
雨宮さん
作家・活動家
北海道生まれ。フリーターを経て、00年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。以来、若者の「生きづらさ」についての著作を発表する一方、06年から格差・貧困問題に取り組み、取材、執筆、運動中。著作に『一億総貧困時代』(集英社インターナショナル)、『女子と貧困』(かもがわ出版)など多数。

岡本 拓也氏(おかもと・たくや)
岡本拓也氏
ソーシャルマネジメント合同会社創業者・代表社員 公認会計士
学生時代に世界を回り、バングラデシュにてマイクロクレジットと出会う。その後、公認会計士として企業再生等に携わった後、2011年より認定NPOカタリバ常務理事、SVP東京の代表理事として、ソーシャルセクターの成長と成熟に尽力。その他、内閣府や経産省の委員を歴任し、KIT虎ノ門大学院でソーシャルビジネスに関する教鞭を取る。

黒河 悟氏(くろかわ・さとる)
黒川悟氏
労働者福祉中央協議会副会長
1974年千葉市役所に入職後組合活動に参画。自治労千葉県本部委員長を経て、99年より連合千葉事務局長、03年から会長を歴任。13年から(一社)千葉県労働者福祉協議会会長。現在は東部労福協会長と中央労福協副会長を兼務し、奨学金問題や生活困窮者自立支援をはじめとした労働者福祉運動に取り組む。

宮本みち子氏(みやもと・みちこ)
宮本みち子さん
放送大学副学長・教授
千葉大学教授、ケンブリッジ大学社会政治学部客員研究員を経て、現職、社会学博士。専門は若者の社会学、家族社会学。論文多数。著書に『すべての若者が生きられる未来を︱家族・教育・仕事からの排除に抗して』(岩波書店)、『若者が無縁化する︱仕事・福祉・コミュニティでつなぐ』(筑摩書房)など多数。

横田 能洋氏(よこた・よしひろ)
横田能洋氏
特定非営利活動法人 茨城NPOセンター・コモンズ 代表理事
91年茨城県経営者協会に入り、企業の社会貢献推進などを担当。96年より茨城NPO研究会を立ち上げ、98年に同会を母体に設立された特定非営利活動法人 茨城NPOセンター・コモンズに転職。NPO法人の設立・運営に関する相談や研修業務を行う。10年4月より、流通経済大学大学院の講師も務める。

ろうきんは、働く人の夢と共感を創造する協同組織の福祉金融機関です。
 〈ろうきん〉は、労働組合や生協などのはたらくなかまがお互いを助け合うために資金を出し合ってつくった、協同組織の金融機関です。 
 全国に13の〈ろうきん〉があり、〈中央ろうきん〉は、茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の関東1都7県を営業エリアにしています。

 「中央ろうきん若者応援ファンド」は、家庭環境や経済状況、病気や障害などの諸事情による社会的な不利・困難を抱え、不安定な就労や無業の状態にある若者を応援する、<中央ろうきん>の市民活動助成制度です。







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