米国の自転車事故による負傷者数は年間4万5千人から5万人、2016年は840名の死亡者を出した(*1)。そんな中、亡くなった現場に「ゴーストバイク」が設置されるムーブメントが広がっている。事故に遭った自転車を真っ白に塗り、道路の策や街灯に鎖でつなぎ、花を供えて、亡くなった人を追悼するのだ。

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*1: 米国運輸省道路交通安全局データ参照。2016年自転車事故率はフロリダ州が最高で100万人あたり6.7%、自転車通勤する人は2000年から2012年にかけて62%増との数字も発表されている。
https://www.nhtsa.gov/road-safety/bicycle-safety


世界的に活躍する写真家ヘンリー・ハーグリーブスが最初に「ゴーストバイク」の存在に気付いたのは数年前、NYブルックリンの自宅付近でのことだった。
ニューヨークに越して来て、街中で街灯などに白い自転車がつながれてるのを見かけるようになりました。最初は気にも留めてませんでしたが、ある時、人の名前と日付けが書かれたプラカードが添えられていて、ああ、自転車事故の現場なんだと気づいたんです。
なかなか頭から離れませんでした。私がサイクリストになった時期でもあったので、自転車に乗ることは常に死と隣り合わせなのだと思い出させる、何か不吉なものにも思えました。

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「ゴーストバイク」は 比較的新しい現象だ。2003年米ミズーリ州セントルイスの自転車専用レーンで車と自転車の衝突事故を目撃した男が、自転車を白いペンキで塗り、「自転車事故アリ」のプラカードをつけて設置したのだ。現場周辺でドライバーの意識改善効果が見られたため、この男は協力者を募り、「ゴーストバイク」の設置を広めていったのだ。このムーブメントはまたたくまに広がり、2005年にはロンドンで確認され、今や世界各地に広がっている。

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ゴーストバイクは亡くなった人を象徴しているようだと写真家は言う。

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設置されたばかりの自転車は新品同様に真っ白ですが、私が撮った写真を見てください。その後、いろんなかたちで劣化しています。車輪を盗む者もいて、墓荒らしさながらです。自転車ごと消えてしまうこともあるんです。
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ムーブメントの中心地となっているニューヨーク市で数年前からゴーストバイクを撮影していた彼だが、昨秋、自身が危険な自転車事故に遭い、より一層「撮る目的」がはっきりしたと言う。

彼は自宅アパートから自転車で写真スタジオに向かっていた。とその時、違法駐車した男が周りを見もせずドアを開けたため衝突したのだ。ハーグリーブスの体は投げ出され、ドアの角で喉を切った。血が吹き出たので病院へ連れて行ってくれと言うと、ドライバーは数ブロック先の病院で彼を降ろし、すぐさま走り去ったという。
傷はちょうど頸部と気管の間で、あと少しどちらかにずれていたら、もっと恐ろしいことになってたでしょう。12針縫って、治療費として1,500ドル(約16万円)払いました。
以来、彼は自転車に乗ることの危険性を多くの人に知ってもらい、道路を走ることについて語り合うきっかけとなるよう、この写真シリーズを発表しようと決めた。
以前からゴーストバイクを撮っていましたが、事故後はもっと多くの人に自転車の存在を認識してもらい、サイクリストには自転車に乗る危険性をもっと意識してもらいたく、作品をまとめようと思いました。
作品の発表以来、好意的なフィードバックが数多く寄せられている。白い自転車を目にしたことはあったが何を意味しているのか知らなかった、という声も多い。 彼の作品から「対話」が生まれたのだ。

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自転車は渋滞を緩和でき、環境にも良い乗り物。残すものと言えば「車輪の跡」くらいでしょうか。健康にも良く、騒音も出さない。それだけに路上では意識されにくいのです。サイクリストの存在をもっと意識し、注意を払う人が増えれば、この作品を撮った価値があると思ってます。
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路上で互いに気を配り、思いやる大切さを伝え、対話が生まれること。それが、このプロジェクトの狙いです。


犠牲者の名前
1:Anna Rodriguez
2:Christopher Doyle
3:Craig Murphey
4:Erica Abbott
5:Jonathan Neese
6:Lauren Elizabeth Davis
7:Mathieu Lefevre
8:Matthew Brenner
9:Matthew von Ohlen
10:Nicolas Djandji

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*6


<編集部補足>
日本はどうかというと、平成29年度の自転車事故負傷者数は89,368人、うち死亡者は480人だった(警察庁交通局)。「事故多発エリア」と書かれた看板などはよく見掛けるが、「ゴーストバイク」を見掛けることはまだほとんどないのではないだろうか。
写真家の今井竜也氏が海外のゴーストバイク現象を撮影し、写真集『GHOST BIKE』として2012年に自費出版されているが、日本国内の事例は含まれていない。

しかし、 猛スピードで走る自転車と歩行者の衝突事故、スマホを操作しながら自転車に乗る若者が増えているのもあり、その数や影響は深刻化する一方だ。自転車事故を忘れないものにするためのムーブメント、日本ではどのようなかたちで広げることができるだろうか。

By Whitley O’Connor
Courtesy of The Curbside Chronicle / INSP.ngo

写真:Henry Hargreaves 
http://henryhargreaves.com 


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