「ホームレス問題」と聞くと、路上生活者があたりをウロウロすることと捉える人が多いが、そこが問題なのではない。路上生活者が生まれる構造上の問題こそが「ホームレス問題」の本丸である。米国の写真家ジェフリーA・ウォーリンは、このホームレス問題を生み出す多様な背景を映し出し、一般の人々の根強いステレオタイプを解消したいと考えている。このプロジェクトについて、本人が語ってくれた。
社会的セーフティーネットが切り詰められ、最も弱い立場に置かれた市民の暮らしがますます苦しくなる中、ホームレス問題への意識も高まっている。
『Faces of Homelessness(ホームレスの顔ぶれ)』という作品では、今現在ホームレス状態にある、または、過去にそんな経験をした人たちのリアルな顔ぶれを、写真とテキストで伝える。被写体にインタビューし、彼/彼女たちが語った言葉をそのままポートレート写真に添え、被写体の「顔」と「ストーリー」を合わせて知ってもらえるようにした。
by Jeffrey A. Wolin
こうした人たちを被写体にするには特に配慮が必要だ。私は被写体を求めて外を歩き回ることはしない。路上の通気口そばで寝ている人の姿などは、すでに他の人によって多く撮られているからだ。
私は、ホームレス支援に取り組んでいる団体と協力してプロジェクトを進めていくことにした。協力してくれたのは、この分野では全米でも有数の非営利団体「シカゴ・ホームレス連合(Chicago Coalition for the Homeless、以下CCH)」だ。CCHが、撮影とインタビューに応じてくれる人たちを紹介してくれた。おかげで、プロジェクトの要である被写体の同意を得るステップもスムーズに進められた。被写体と信頼関係を築き、敬意を持って撮影することを常々心がけている。
デビッド B., ベニスビーチ/2019
CCHをはじめとする諸団体の活動から教わったのは、「ホームレス問題」とは路上生活だけをいうのでではなく、もっと多様なかたちを取っているということだ。「ホームレス」は精神疾患や薬物依存症の人が陥るものと思われがちだが、そんなステレオタイプな捉え方をしている限り、この問題は解決しないだろう。
トーマス G., シカゴ/2018
実際、ホームレス状態にある人のほとんどが、世間からは「ホームレス」と認識されていない。友人や親戚の家を転々とする人(シカゴの公立学校に通う生徒のおよそ1万6000人が住所不定だ)、安宿やシェルターに出入りする人たちが相当数いる。退役軍人、家賃が払えず強制退去となった家族、突然の医療負担がのしかかってホームレス状態に陥る人たちもいる。
メロディ S., シカゴ/2019
ヴィンセント・ディガエターノ, ベニスビーチ/2019
失業、離婚、配偶者や親の死、家庭内暴力(DV)、性的マイノリティへの差別、里親制度の終了、アフォーダブル住宅(手頃な価格の住居)の不足なども、すべて住まいを失う要因だ。私の被写体となった人の中にも、フルタイムで働きながら車やテントで暮らしている“ワーキングプア”たちがいた。
セシリア M., シカゴ/2020
今の目標は仕事を得ることと、長男が軽度の自閉症なので子どもの発達についても学びたい。ゆくゆくはデイケア施設で働き、お金を貯めて、自分たちだけのアパートに移れるように。ママはこんなこともできるのよ、という姿を子どもに見せていきたい。”
ニコラス W. H., シカゴ/2020
この長期プロジェクトに取り組んでいる最中に、新型コロナウイルスのパンデミックに突入した。言うまでもなく、弱者たちはさらに厳しい状況に追い込まれた。この作品には、実際に感染した人たちのポートレートとストーリーも含めた。
世界的に深刻化しているホームレス問題。この作品が、事態改善に向けた議論が深まる一助になればと願っている。
Faces of Homelessness,
Jeffrey A. Wolin – Faces of Homelessness from Kehrer Verlag Heidelberg on Vimeo.
By Jeffrey A. Wolin
Courtesy of International Network of Street Papers
All photos by Jeffrey A. Wolin
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