高齢化、過疎化など、さまざまな理由で増えつづける「買い物難民」。そこへ千点以上の品物とともに駆けつける「移動スーパー とくし丸」は、地域資本のスーパーと連携して仕入れを行うなど、スモール経済の活性化も目指す。買い物から生まれた、路上コミュニティの現場を取材。


※ この記事は、2015年02月15日発売のTHE BIG ISSUE JAPAN257号(SOLD OUT)特集「包容空間、路上のいま」からの転載です。

買い物ついでに井戸端会議。高齢者の“買いすぎ”にも気配り

大通りから1本中へと入った細い道。大型トラックが入っていくのは難しい路地裏も、軽トラは軽快に進んでいく。そして、ある家の玄関前に停まると、荷台の扉が開けられ、移動スーパー「とくし丸」の開店準備が始まった。

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 荷台は一見コンパクトながら、冷蔵庫や棚が効率よく設置され、左右、後方部の3面にお弁当やサンドイッチ、お肉、野菜、果物、お菓子、調味料……と、約300~400品目、計1400点もの商品が整然と並ぶ。車のスピーカーから「とくし丸」の到着を告げる歌が流れると、家から高齢の女性が出てきた。そのお隣の家からも……。

 「おはようございます。今日も寒いですねえ」と、このエリアを担当する「とくし丸」の販売パートナー・松原弘幸さん(32歳)はにこやかに話しかける。女性は商品をざっと見渡し「あら、今日はおいしそうなイチゴがあるのねえ」とイチゴのパックを買い物カゴに入れた。もう一人の女性は冷蔵庫の扉を開け、「今日はお豆腐とお肉にしようかな」とつぶやく。するとすかさず、「3日前に買ってくださったお豆腐、もう食べました? 残っていませんか?」と尋ねる松原さん。誰がいつどんなものを買ったのかを把握、高齢者にありがちな〝買いすぎ〟を防ぐために細心の注意を払う。

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販売パートナーの松原弘幸さん

利用者は高齢者が中心だが、小さな子どもがいる若い世代や、自宅が仕事場となるような人もやってくる。そして買い物の前後は、顔を合わせたお客さん同士でしばし会話に花が咲く。「とくし丸」の買い物ついでに開かれる、そんな路上の井戸端会議は、利用者にとって大きな楽しみの一つでもある。

松原さんは販売パートナーとなって丸3年。現在、1コースにつき約40軒、3つのコースを週2日ずつ回る。一日の始まりは、提携している徳島市内のスーパーでの品物のピックアップだ。「定番商品のほか、その日に回るお客さんの顔や食の好みを思い浮かべながら、お惣菜や生鮮食品を選びます。持っていった商品を喜んでもらえたら、気持ちが通じたような気がしてとてもうれしいですね」。商品は、買い取りではなく委託というかたちで軽トラに積みこむ。粗利の10%がスーパー、17%が販売パートナー、3%がとくし丸本部という配分だ。

3万軒の聞き取り
地域のスーパーと手を組む

移動スーパー「とくし丸」の第1号が徳島県内を走り始めたのは、2012年2月のこと。15年3月には県内で15台目が動き出す。創業のきっかけは、「とくし丸」代表の住友達也さんが、実家の母や近所に暮らす高齢者が買い物に困っているのを目にしたことだ。 

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住友達也さん
徒歩圏にスーパーがなく車も運転できないため、高齢者は買い物難民化していました。片道数千円のタクシー代をかけてスーパーまで行くという話も聞きました。そして、創業へ向けて調査を進める中で、過疎地だけでなく都市部にも買い物に困難を感じている高齢者が多いことが見えてきた。たとえ100メートル先にコンビニがあったとしても、足腰が悪くてそこまで歩けないという人が多いんです。年をとるにつれ困ることは増えますが、大手資本は元気に歩ける人、車を運転できる人だけを対象にした事業を展開してきました。買い物難民とは、そのような社会構造がもたらしたものだと思います。
移動スーパーのニーズは今後さらに高まると考えた住友さんは、知人で地元のことをよく知る村上稔さん(元徳島市議会議員)とともに、創業準備に取りかかった。「地図を片手に一軒一軒を訪ね歩き、とくし丸の事業を説明して需要を探り、同時に何に困っているのか、どんなサービスを求めているのかを聞き取りました。お邪魔したのは、これまでに約3万軒。おそらく日本で一番、この分野において調査をしているのが私たちだと思います」と村上さんは胸を張る。

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村上稔さん

創業にあたり、商品の買い取りリスクを回避するため、また、大手資本に対抗するため、地域のスーパーと提携することにした。また、1品につきスーパーで販売されている価格に10円を上乗せする「プラス10円ルール」を設定。本部と販売パートナーで5円ずつを分け合い、燃料費などに充てている。
継続していくためには適正な利益を生み出す事業にしなければなりません。事業の社会的な役割をお話しし、受益者負担という観点から利用者の方に負担をお願いしたところ、快く受け入れてくださいました。

「おばあちゃんのコンシェルジュ」地域を走る毛細血管

1号車は住友さん自身が乗り込んだが、以降は個人事業主としての販売パートナーを募集することに。とくし丸の趣旨に共感し、高齢者と丁寧なコミュニケーションをとることができる人が採用条件の一つだ。

目指すのは「おばあちゃんのコンシェルジュ」だと住友さんは言う。「私たちのビジネスは、軽トラで玄関先まで商品をもっていくという究極のコンビニエンス。さらに、週に2回顔を合わせているうちに信頼関係が生まれ、電球を替えたり、台風前に植木鉢を移動させたり、困りごとや相談ごとも話せる関係になっていきます。そこは大手資本との価格競争に巻き込まれない、新しい価値観での勝負。大手も移動スーパーに参入してきていますが、勝ちはしないけれど、負けることはないと思っています」

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ネットスーパーや宅配で食料品は買えるけれど、パソコンを利用できない人もいる。また、注文から1週間後に届く食品の内容を忘れてしまっていることもある。「その点、移動スーパーは、実際に商品を見て、触って、選んで買う楽しみがあります。おばあさんたちの笑顔を見ていると、品物さえ届けばいいというのとは大きく異なる、買い物の喜びがあるように感じますね」

とくし丸が県内を走り初めて、3年が経った。「具合の悪い人を地域包括センターにつないだり、亡くなられた方を発見したり、結果的に地域の見守りという機能を果たし、行政や警察から表彰されることも増えました。地域に顔の見える関係を取り戻すことは、コミュニティを復興させ、地域力を取り戻すことにつながります。グローバル経済に限界が見え始めている今、このようなスモール経済の果たす役割は大切なのではないしょうか」と村上さん。

とくし丸は地域を走る毛細血管のようなもの。このインフラを大切に育てていきたいと住友さんは言う。
大手スーパーが入り込むと地元の小さな商店が打撃を受ける。そして、中央の経営判断であっさり撤退されると、地元には何も残らない。すると、買い物難民が増えていく。とくし丸のノウハウを全国に広げて地域連合のようなものをつくり、社会問題を解決しながら地方で経済を循環できる仕組みを実体としてつくっていきたい
今、そんな移動スーパーのネットワークは、徳島、京都、高知、東京、広島、福島、和歌山、愛媛など、各地に着実に広がっている。
 (松岡理絵)

Photos:中西真誠
写真提供:株式会社とくし丸

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「建物」の中で行われることが当たり前だったことを、路上へ。

移動手段のない高齢者にやさしい技術は、被災地にもやさしいはず。
「建物」の中で行われることが当たり前と思われていることを、路上でも当たり前にしていこうとする気持ちと技術は、きっと想定外の災害の時にも役立ちます。

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