高齢化、過疎化など、さまざまな理由で増えつづける「買い物難民」。そこへ千点以上の品物とともに駆けつける「移動スーパー とくし丸」は、地域資本のスーパーと連携して仕入れを行うなど、スモール経済の活性化も目指す。買い物から生まれた、路上コミュニティの現場を取材。
※ この記事は、2015年02月15日発売のTHE BIG ISSUE JAPAN257号(SOLD OUT)特集「包容空間、路上のいま」からの転載です。
買い物ついでに井戸端会議。高齢者の“買いすぎ”にも気配り
「おはようございます。今日も寒いですねえ」と、このエリアを担当する「とくし丸」の販売パートナー・松原弘幸さん(32歳)はにこやかに話しかける。女性は商品をざっと見渡し「あら、今日はおいしそうなイチゴがあるのねえ」とイチゴのパックを買い物カゴに入れた。もう一人の女性は冷蔵庫の扉を開け、「今日はお豆腐とお肉にしようかな」とつぶやく。するとすかさず、「3日前に買ってくださったお豆腐、もう食べました? 残っていませんか?」と尋ねる松原さん。誰がいつどんなものを買ったのかを把握、高齢者にありがちな〝買いすぎ〟を防ぐために細心の注意を払う。
販売パートナーの松原弘幸さん
3万軒の聞き取り
地域のスーパーと手を組む
移動スーパー「とくし丸」の第1号が徳島県内を走り始めたのは、2012年2月のこと。15年3月には県内で15台目が動き出す。創業のきっかけは、「とくし丸」代表の住友達也さんが、実家の母や近所に暮らす高齢者が買い物に困っているのを目にしたことだ。
徒歩圏にスーパーがなく車も運転できないため、高齢者は買い物難民化していました。片道数千円のタクシー代をかけてスーパーまで行くという話も聞きました。そして、創業へ向けて調査を進める中で、過疎地だけでなく都市部にも買い物に困難を感じている高齢者が多いことが見えてきた。たとえ100メートル先にコンビニがあったとしても、足腰が悪くてそこまで歩けないという人が多いんです。年をとるにつれ困ることは増えますが、大手資本は元気に歩ける人、車を運転できる人だけを対象にした事業を展開してきました。買い物難民とは、そのような社会構造がもたらしたものだと思います。
村上稔さん
創業にあたり、商品の買い取りリスクを回避するため、また、大手資本に対抗するため、地域のスーパーと提携することにした。また、1品につきスーパーで販売されている価格に10円を上乗せする「プラス10円ルール」を設定。本部と販売パートナーで5円ずつを分け合い、燃料費などに充てている。
継続していくためには適正な利益を生み出す事業にしなければなりません。事業の社会的な役割をお話しし、受益者負担という観点から利用者の方に負担をお願いしたところ、快く受け入れてくださいました。
「おばあちゃんのコンシェルジュ」地域を走る毛細血管
ネットスーパーや宅配で食料品は買えるけれど、パソコンを利用できない人もいる。また、注文から1週間後に届く食品の内容を忘れてしまっていることもある。「その点、移動スーパーは
、実際に商品を見て、触って、選んで買う楽しみがあります。おばあさんたちの笑顔を見ていると、品物さえ届けばいいというのとは大きく異なる、買い物の喜びがあるように感じますね」
大手スーパーが入り込むと地元の小さな商店が打撃を受ける。そして、中央の経営判断であっさり撤退されると、地元には何も残らない。すると、買い物難民が増えていく。とくし丸のノウハウを全国に広げて地域連合のようなものをつくり、社会問題を解決しながら地方で経済を循環できる仕組みを実体としてつくっていきたい
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