ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や団体などで講義をさせていただくことがあります。

今回は関西大学社会学部社会システムデザイン専攻の「人間開発論」(担当:草郷孝好)の授業で、ビッグイシューのスタッフと販売者がホームレス問題とビッグイシューの取り組みについての講演を実施しました。



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ビッグイシューと販売者について紹介するスタッフ

今年度「人間関係論」を受講している学生は2回生から4回年まで約20名。まず、スタッフが「『ビッグイシュー』を知っている人いますか?」と聞くと、3名の手があがりました。

ビッグイシューを知らない大多数の学生を前に、ホームレス状態にある自分自身の経験を語ってくれたのは、大阪、梅田駅からスカイビルに続く地下通路で販売をしている入島輝夫さん。

父親の会社で働くも、父親亡き後人間関係に苦しみ、職を転々と…

学生からの「入島さんが今の自分たちと同じ20代の頃は、何をしていたか?」という問いに、20代前半にはすでに父親が経営する清掃会社での修行にあけくれていたと話します。

入島さんはその頃、父親が経営する清掃会社で働いていましたが、父親が亡くなったことが転機となります。いわゆる二代目だった入島さんでしたが、会社に父親がいなくなったことで、会社の雰囲気ががらりと変わり、居場所を失ってしまいました。

人間関係に疲れて会社を辞め、建設会社に転職。しかしここでも人間関係でつまずき、複数の会社を転々とします。転職を繰り返すうちに食べていくためのお金にも困るようになり、気付けばホームレス状態に。顔見知りになった路上生活者の紹介で空き缶拾いの暮らしを始めます。

空き缶拾いからビッグイシューの販売者へ

とはいえ空き缶は、1kg集めても、100円になるかならないか。収集するのに一日中歩きまわったとしても、多くて1,000円程度。努力しても収入が増えないことがストレスになっていったといいます。 そこで、かつてテレビで見て知っていたビッグイシューの事務所に向かい、販売者に登録。

現在入島さんは午前8時には売り場に立ち、平日には夜の7時まで、休日は6時まで販売しています。あちこちを歩き回る仕事より、場所を決めて腰を据えて自分で工夫できる仕事にやりがいを感じていると話しました。

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(スタッフと入島さん)

「大人のための駄菓子屋を作りたい」という目標を語る

今後の目標は何か?と聞かれた入島さん。短期的な目標はまずステップハウス(※)に入ること。長期的には「おとなのための駄菓子屋を作りたい」入島さんは語りました。

編集部注:
ステップハウスとは、NPO法人ビッグイシュー基金が他の団体や家主と連携して運営する住居。東京で2室、大阪で5室あり、低廉な利用料(1万5000円~)で、初期費用、保証人なしで一定期間(6か月~)利用でき、利用料の一部が利用者本人の積立金となる。この積立金を元手に、アパートへの入居や就職活動など次への「ステップ」を応援している。また、東西で1室ずつは、災害時などの緊急用シェルターとしても運営。
https://bigissue.or.jp/action/stephouse/


「おとなのための駄菓子屋」をやりたい理由として、入島さんは「『ビッグイシュー』を売っている時に、前を通る人たちの顔を見ていると、皆が疲れきっているように見える。『プレゼン、うまくできなかった』などと落ち込んでいたり、学生だったら、将来のことに悩んだり。そんな時に、気軽に来られる場所があるといいな、と思う。身内には相談しにくいこともでも話せる場を作りたい。それが明日からの人生のためになれば」と語りました。

入島さんと先生からのメッセージ「情報を見極めて」

入島さんは、今の若い人たちがネットで「自分の得たい情報」を中心に閲覧する傾向にあり、「知らなかった情報」を得る機会が減っていることを危惧しています。視野を広げるためにも「知らないこと」に触れる機会として、意識的に本や雑誌からも情報を得てほしい、と語りました。授業を担当する草郷孝好さんも「最近はバイアスのかかったフェイクニュースも多いし、何事も情報の出どころは何なのか、自分できちんと調べて判断できるようになってほしい」と補足。

また、入島さんは若者が海外へ目を向けるのが当然にはなってきているものの、日本で起きていること、足元の問題にも目を向けてくれるとうれしいと語りました。


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(学生の質問に答える入島さん)

“ホームレス”は世界共通の社会的排除の問題

草郷さんは、3年前にカナダの大学で持続的発展の研究中、カナダの先住民族と貧困問題との関わりの根深さに衝撃を受けたそう。日本では高齢の男性がホームレスになることが多いのですが、草郷さんによるとカナダでは先住民族がホームレスになることが多いとのこと。

どのような状況の人がホームレスになりやすいかはそれぞれの国で違うものの、日本では高齢者、海外では先住民族や移民、依存症患者など、その社会で排除されやすい人が仕事や人間関係、家を失ってしまうのは世界共通の問題です。

その「ホームレス問題は海外であっても、日本であっても同じ深刻な問題である。」という考えから、ビッグイシューの講義を3年連続で展開されています。


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生徒たちに語りかける草郷さん


草郷さんは学生たちに「この授業は『あの人、かわいそうだな。自分は恵まれているな』と感じるためではないんだよ。さまざまな立場の人の色々な目線を身につけることが目的なんです」と語りました。

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入島さんやスタッフの話を通してビッグイシューやホームレス問題を知らなかった多くの学生が「ホームレス問題について知ることができた」「今度、販売者を見かけたら買ってみようと思います」と反応してくれました。

また、「入島さんは、“国内にも目を向けて”と言っていたけれど、海外のことを学ぶことで日本のことを知ることもできる」と話した学生もいました。今回の授業をきっかけに、国内・海外問わずそれぞれの学生の学びがより深いものになることを草郷さんは願っているようでした。


取材協力:中尾まり

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人権・道徳・格差・貧困、自己肯定感、社会的企業について出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。