読者から寄せられた悩みに対して、ビッグイシュー販売者による回答と、料理研究家・枝元なほみさんが考案する「悩みに効く」料理のレシピを併せてお届けするー読者調査でお気に入りのコーナーとして挙げられることも多い『ビッグイシュー日本版』の連載、「世界一あたたかい人生レシピ」が、単行本『クッキングと人生相談~悩みこそ究極のスパイス』として刊行された。

その発売を記念したトークイベントが、2019年2月9日に「MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店」で開催された。当日は枝元なほみさん、人生相談の回答者でもある販売者の坂田さん、『ビッグイシュー日本版』編集長・水越洋子の3名がスピーカーとして登壇。それぞれの立場から連載にまつわるエピソードを披露した。


会場写真1

会場の「MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店」

路上から自然に始まった人生相談

「実は連載を開始する前から、販売者による人生相談は行われていました」と水越は語った。『ビッグイシュー日本版』が創刊されたのは2003年。バブルの崩壊による就職氷河期の頃、将来への不安を抱える若者を中心に、販売者に悩みを打ち明けるケースが増えてきたという。

「身近な人に悩みを伝えるのは勇気が要りますよね。その点、販売者には相談しやすい自然な距離感があるのかなと思います」。そうして人生相談を持ち掛けられる販売者が増えていった。

ある日、編集部宛てに一本の電話が鳴る。読者からの「誌面で販売者による人生相談を掲載して欲しい」というリクエストだった。この声に背中を押され、創刊2年目の2005年9月15日号より人生相談のコーナーが設けられた。販売者の回答が人気を呼び、当初は隔号だった掲載期間は間もなく毎号の連載になった。

登壇者
向かって左から順に、販売者の坂田さん、枝元なほみさん、水越洋子

水越によると、本連載の人気の理由は「販売者の持つ独特な視点」にあるという。他の媒体では人生相談の回答者は何らかの専門家であるケースが多いが、販売者の多くはそうではない。販売者は、相談者と非常に近い立場で共に悩みに向き合い、迷いながら慎重に検討を重ねて回答を導き出す。度々寄せられる読者からの共感の声は、こうした親密さに大きく支えられているようだ。

「スローシンプルフード」の特集をきっかけに、枝元さんとのコラボが実現

ビッグイシューと枝元さんとの出会いは、もう少し前に遡る。創刊直後の2004年、「スローシンプルフード」を特集した際のインタビューをきっかけに、料理のレシピと併せたエッセーの連載が始まった。その後も販売者の交流会やクリスマスパーティーを始め、機会がある度に愛情あふれる料理を作り、集まった人々をねぎらう枝元さん。NPO法人ビッグイシュー基金の理事も務めるなど、様々な形で関係は続いている。

そして2008年、二つの連載は「世界一あたたかい人生相談―幸せの人生レシピ」(現在は完売)として単行本化された際に初めてコラボする。以降は雑誌での連載もセットで組まれるようになり、今回は雑誌の創刊15周年を記念して、書き下ろしのレシピも加えられた『クッキングと人生相談~悩みこそ究極のスパイス』を出版。「販売者と枝元さんが奏でる味わいの妙を楽しんでいただけたら幸いです」と水越は締めくくった。

枝元さんの料理研究家としての使命「自由で楽しい食のあり方を伝えていきたい」

「誰とでも共有できるところが、食べるという行為の素晴らしいところだと思います。でも今日の会場は本屋さんだから、ここで食べたら怒られちゃいますね(笑)」。フフっと笑い場を和ませながら、枝元さんはビッグイシュー誌での連載について「悩める人たちに、“まずは食べてごらん”と言えるのが嬉しい」とコメント。

枝元さん1

食の世界は「早い・安い・うまい」といった効率性が重視される一方で「見た目の華やかさ・健康志向・栄養バランス」を求める傾向も生まれている。

枝元さんは料理のプロフェッショナルとして様々な需要に応えてくるなかで、まずは「人(特に子どもたち)を飢えさせない」ことが自分の使命だと感じるようになっていった。「“料理はこうであるべき”といったこだわりに深く囚われず、自由な心で食の豊かさを感じてもらいたい」と枝元さんは内なる願いを語った。

「販売者を始め、多くの人に料理の楽しさを知って欲しい」という願いは、誌面のレシピにも表れている。本格的なエスニック料理もあれば、スナック菓子やインスタント食品を利用した簡単メニューもあり、そのバリエーションは実に幅広い。

幸せの人生レシピ2_第3章_ 727


また、枝元さんは食を取り巻く環境の問題にも熱心に取り組んでいる。昨年末のクリスマスパーティーで用いた有機農法で作られた食材の話から、国内外の生産者へと話題は展開。各地に足を運んでは生産現場から日々刺激を受け、農業と消費者との関係に思いを巡らせているとのことだ。この日もちょうど、北海道の牧場を訪ねて来た帰りだという。土壌が安定していないと良い作物が実らないように、普段の生活においてもコンディションを整えていく必要を実感していると枝元さんは述べた。

ベテラン回答者は悩みにどう答える? 鍵を握るのは「想像力」

連載に携わり5年以上になる坂田さんは、回答の際になるべく先入観を持たないよう心がけていると話す。また、自身が経験したことのない悩みに答える場合には、想像を膨らませて問題にアプローチしていると人生相談の秘訣を明らかにした。

坂田さん
普段は肥後橋駅前で販売をしている坂田さん

一方、「答えるのに苦労する悩みは?」という問いに対しては「夫婦関係や恋愛相談・・・」と応じて会場の笑いを誘った。ありきたりな回答に陥ってしまわないよう心を砕いているそうだ。個々の悩みに真剣に向き合おうとする坂田さんの人柄に、会場の聴衆は一様に笑顔となった。

また、坂田さんの「幼い頃、風邪を引いた時に食べたリンゴのおろし汁の味が忘れられない」という言葉に、「人を元気にする料理って、そういうこと!」と枝元さん。かつては自分に自信が持てず悩んでいたが、料理を通じて次第に自己肯定ができるようになっていったと言う。枝元さんは「食」と「生きる意欲」の深い関わりを感じており、人生相談の回答と自らのレシピの類似性について熱く語った。

来場者を交えての公開人生相談 繊細なパートナーに悩む妻へ、販売者と枝元さんからアドバイス

後半では会場から悩みを募集し、実際に人生相談が行なわれた。「夫が人の言葉をネガティブに受け取ってしまい、すぐに落ち込んでしまいます」という相談に対し、坂田さんは「周囲への過剰な期待が原因かもしれない。何を不安に感じているのか、彼に寄り添って話を聞くのが良いと思います」と回答。一方、枝元さんは「“難しく考えないで”と声をかけ、イチゴを彼の口に入れてあげて。言葉が無くても一緒にいるだけで大丈夫って分かるでしょう」と提案した。

この後も悩みや質問が次々と寄せられ、坂田さん・枝元さん両名のあたたかくユーモア溢れる回答に会場は沸き立ち、余韻を残しながらの閉会となった。


サイン会1
トークの終了後にはサイン会も行われた

最後に、枝元さんから閉会後にいただいたメッセージを紹介する。

「色々なお悩みと向き合いながらレシピを考えられるなんて、料理研究家としてこれ以上に幸せな仕事はありません。心が落ち込んだ時は、食べることに意識を切り替えてみてください。ぜひこの本を読んで、気になった料理を実際に作ってもらえたら嬉しいです」

枝元さん


ビッグイシューのバックナンバー関連フェア開催

「MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店」の4Fにて、ビッグイシューのバックナンバー関連フェアが開催されています(2019年3月末まで)

DSCN0405

『ビッグイシュー日本版』の各種バックナンバーの他、『クッキングと人生相談―悩みこそ人生のスパイス』を始めとするビッグイシュー発行の書籍や、貧困問題について書かれた書籍が並んでいます。
ふだん販売者となかなか会えない方、販売時間が合わない方など、ぜひこの機会にお越しください。
https://www.bigissue.jp/2019/02/8325/

※書店では最新号の販売は行っていませんので、販売者からお求めください。

販売場所一覧
https://www.bigissue.jp/buy/
※フェアでは梅田近辺の販売場所マップも配布中です。


取材協力:小田嶋 裕太





過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。