絶滅が危惧されるニホンウナギ。「絶滅危惧種なのに“食べて応援!”なんて理解不能」という声もあるなか、人とうなぎの持続可能な関係構築にチャレンジしている人々がいる。
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1999年に廃校となった岡山県西粟倉村の旧御影小学校。
この建物には、西粟倉が誘致に力を入れている「ローカルベンチャー」として日本酒、草木染、帽子、食堂、木工など様々なジャンルのベンチャー企業が入居している。エーゼロ株式会社もそのひとつだ。
エーゼロ株式会社は「ローカルベンチャー支援」「ICO(※)」「建築・不動産」「インキュベーション型地域商社」など、村への移住施策に深く関わる、西粟倉にとって重要な事業を行う会社。それらの事業で順調に売り上げを伸ばしつつ、生態系を大切にした持続可能なビジネスへのチャレンジとして2016年から「森のうなぎ」事業を行っている。
「うなぎの養殖」を通して、森と水と人とうなぎが繋がっていく
うなぎの養殖はもともと小学校の体育館だったスペースを活かして、巨大な4つの円型水槽を使って行われている。
そして育った作物は、旧小学校内の直売所で販売されて、近隣で働く人々のお腹に収まっていく。
写真提供:エーゼロ株式会社
西粟倉村の名物、森のうなぎ! pic.twitter.com/Cnbtv4S2mb
— イケハヤ@ブロガーズギルド (@IHayato) 2018年6月27日
絶滅危惧種と言われるようになってから、うなぎを口にすることをためらう人も多いかもしれないが、もし食べるのならエーゼロのうなぎであれば、罪悪感が少ないかもしれない。完全に持続可能と言えるまでは、まだ道のりは長いのかもしれないが、今回の取材で少なくとも全力でそれに向かってチャレンジしていることが伝わってきた。
ちなみに今回ご馳走になった際に使った割り箸も西粟倉産。この土地の林業で生まれた端材を使ったものだ。
割り箸の加工には、同じ建物に入居している「NPO法人じゅ~く」に通う、障がい者の人々が関わっている。
ここは村に住まう障がいのある人々の居場所であり、雇用を生み出す場にもなっているのだ。
また、じゅ~くの人々は、鰻の養殖に使う濾過装置のフィルタ清掃も請け負っており、循環型のうなぎ養殖に欠かせない戦力なのだそうだ。
そして使い終わった割り箸はボイラーで焼却され、水を温めるのに燃料として無駄なく利用されていく。
まとめると
1.村の林業で出た木くずや使用済みの割り箸を燃料に、
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2.うなぎの養殖に使う水を温め、
↓
3.循環する過程で野菜を育てつつ、
↓
4.フィルタ掃除は村の障がい者の方々の雇用を生み
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5.(稚魚の半分は放流され)、残ったうなぎがゆっくり育ち、食される。
(そのとき使われる割り箸が1に戻る)
という循環を、森の中で林業と水産業、福祉などがシームレスに絡み合いながら実現させているのである。これでうなぎの食べる「えさ」も自給できれば完璧なので、村の中で調達できないか試行錯誤中なのだそう。
なぜ、うなぎなのか。
自然と人、林業と水産、人と人。様々な繋がりを生むビジネスであることは分かったが、なぜうなぎなのだろうか。
尋ねると、「うなぎが好きだからです」と牧さんは真面目な顔をして答える。
冗談のようにも聞こえるが、好きだからこそ突拍子もないことにチャレンジできるのだ。
自分たちが「できること」をこなすだけでは、地方の未来は現状維持すら難しい。だから、できるかできないかわからない難易度の高いことにもチャレンジしなければならない。
そんなときには「課題解決型」ではなく、「好き」という気持ちが人々を引き寄せて行くのだろう。
“できる”という自信があるからやるんじゃないんです。
“できたらいいたらいいな”と思うことを、
“やってみせる”と言えば、
“やってほしい”という人の想いが集まって、
“やれるかもしれない”に近づいていくんです。
と、話す牧さん。
「地方の50年後をあきらめない」と断言するエーゼロの挑戦は、日に日に人々の注目を集め、期待が実現を引き寄せてきている。
「次に何かやるなら地ビールがいいですね。だって、うなぎにはビールが合うでしょう?」
と牧さんはうれしそうに言う。
廃校となった小学校の1部屋で、ビール醸造をする日は遠くないかもしれない。
(取材企画・文:マキノスミヨ)
※西粟倉村のICO構想についてのビッグイシュー・オンラインの記事
・西粟倉村が地方自治体としてICOで資金調達にチャレンジする理由とは
関連リンク
「森のうなぎ」
http://gurugurumeguru.jp/morinounagi/
中央大学法学部/ウナギ保全研究ユニット 海部健三准教授の記事
「日本初 持続的なウナギ養殖を目指す 岡山県西粟倉村エーゼロ株式会社の挑戦」
編集部オススメ書籍
ローカルベンチャー 地域にはビジネスの可能性があふれている/牧 大介
西粟倉で2社で5億8千万円の売り上げを達成した筆者が、2009年からの企業ストーリーと「地域でのベンチャービジネス」を初めて語った。(書籍帯より)
上記記事に登場する牧さんの著作。1ページごとに、チャレンジを応援されているような気持になる、ワクワクがあふれ出て来る本です。