「国会エネルギー調査会(準備会)」が被曝労働に関する会合を6月12日に開いた。同調査会はエネルギー問題を国会で議論しようと議員有志が2012年に組織した集まりだ。代表は河野太郎氏と近藤昭一氏の2名(ただし河野氏は外務大臣のため休会中)、事務局長は阿部知子氏。これまで73回の会合を重ね、時々のテーマについてさまざまな立場の人を招き、また担当部署の役人を招き、議論を重ねてきた。
被曝労働による疾病-厚労省が個別に判断、ハードル高い労災認定
今回のテーマは「原発作業員の労働と被ばく管理の実態」。具体的には労災の認定状況と外国人技能実習生被曝労働の実態だ。被曝労働は原子力施設に特有のもので、11年の福島第一原発事故後にはこれに除染作業も加わった。労働者の被曝線量の上限は、5年間で100ミリシーベルト、1年あたり50ミリシーベルトと法律で決められている。したがって、事業者はこの被曝限度を考慮して日々の作業内容と作業時間を決める。
被曝労働によって疾病が発症した場合、白血病やリンパ腫、甲状腺がんなど特定の疾病については被曝線量を考慮した上で労働災害と認定されることがある。厚生労働省が検討会を開催して個々の事例ごとに判断する仕組みだ。1975年から2017年末までに認定を受けた事例は白血病9人、悪性リンパ腫5人、多発性骨髄腫2人、甲状腺がん1人(医療関係を除く)。福島の事故後だけで言えば、申請者16人のうち、不認定が5人、白血病や甲状腺がんが4人、取り下げが2人、残り5人がなお調査中という状況で、「申請へのハードルは非常に高い」と「被ばく労働を考えるネットワーク」の渡辺美紀子さんが指摘した。
一人ひとりの労働者とその被曝線量は、電力会社から「放射線従事者中央登録センター」にデータが送られて登録される。他方、労働者は放射線管理手帳を持つことになるが、この手帳への記録は雇い主が手書きし、普段は雇い主が保持している。
福島第一原発の廃炉作業では、電力会社から送られたデータと放射線管理手帳の記録とが異なっている場合があったことが指摘された。中央登録センターはただデータを登録保管するだけであり、こうした差は解明できないという。厚生労働省はその実態を把握しておらず、法律に従って運営されているはずだと主張。東電は詳細を調査中だといい、労働現場の実態を把握できている組織がなく、誰も根本的な対策を講じようとしていないことも明らかになった。
ベトナム人実習生の賃金、月3万円。7重の下請け構造でピンハネ
もう一つの問題は、除染作業や福島第一原発の廃炉作業に外国人技能実習生が働かされていたことだ。ベトナム人の実習生が除染作業や居住禁止区域での家屋の解体作業に雇われていた(3月6日付、日経新聞)。日本に来れば月15万円は稼げると聞き100万円の借金をして来日したが、実態は月3万円ほどの収入しかない。国に戻ることもできずに会社から失踪し、全統一労働組合が支援している。この件がベトナムで大きく報道されたこともあり、法務局は同月14日に除染作業を実習対象から外す措置を取った。実習生受け入れに際しては、実習計画を提出して認定を受けることになっているが、このケースについての実態を問われた法務省役人は「個別のことには答えない」と回答を拒否している。
14日の措置にもかかわらず、福島の廃炉作業にも外国人技能実習生6人が働かされていたことを5月1日に毎日新聞が報じた。東電は2月に技能実習生を働かせないことを決め、元請け会社に伝えたが、徹底されなかった。
徹底されないのは、日本的な多重下請け構造になっていることに大きな原因があると筆者は考えている。廃炉作業では7重の下請け構造になっているとの指摘がある。1社を通すごとに手数料という名でピンハネされ、労働者にわたる額は少なくなる。元請けの方針を末端まで徹底させることも難しい。
このような指摘に対しても法務省や厚生労働省には実態を把握しようとする姿勢が見られず、法律に従って作業が行われているはずとの認識だ。今回、問題になったのは氷山の一角といえる。政府や電力会社に対して、現場に目を向け、実態をきちんと把握した対策を求めたい。
(伴 英幸)
(2018年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 338号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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