米国のフィギュアスケート選手として数々の実績を残してきたアダム・リッポン*1。2018年5月にはダンスリアリティ番組『ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ』(シーズン26)でも優勝を果たした。同年11月に現役を引退、その約1年後に自叙伝『Beautiful on the Outside(仮題:外見は美しく、未邦訳)』を発表した。これを受け、シカゴのミュージックボックス・シアターで開催されたトークライブに登場、著書やゲイを公表*2 していることについて語った。
*1 2010年の四大陸選手権優勝、2016年全米選手権優勝、2018年平壌オリンピックでは団体戦で銅メダル獲得など輝かしい成績を残した。
*2 2015年10月、雑誌『Skating』で同性愛者であることをカミングアウト。
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「本を書くことで、これまでの経験を自分なりに整理することができました」聴衆に向かってリッポンが語る。「私がこれまでの人生で学んできたことを皆さんにお伝えしたかったのです」
自叙伝『Beautiful on the Outside』には、リッポンが体験してきた数々の物語や学びが綴られている。自分という人間に向き合い、困難を乗り越えていく過程も含めて。一流選手としてトレーニングに励みながらも、食べ物を満足に買えない時期もあったというのだ。
リンク代、携帯電話、車、ジムの会費、常にギリギリの生活でした。外食など予定外の出費があると、かなりきつかった。
大会の賞金だけが唯一の収入源だった。しかし、獲得できた賞金もすぐに日々のスケート経費に消えてしまう。練習時間を確保しながら経済的にも自立するには、食費を削るしかなかった。
長い間、母親がスケート費用の面倒を見てくれていたが、22歳の頃に新たな練習環境を求めて自活を始めたリッポン。
母から独り立ちしたかったんです。思ってたほどすんなりとはいかなかったけどね。自分もちゃんとした大人なのだと示したかったし、自分のスケート生活が家族みんなの生活を犠牲にしているのがつらくて。
とにかく金欠状態だったリッポンは、食べ物を手に入れるためにあらゆることをした。
練習場があったリゾート施設のロビーには青リンゴとお茶が無料で置いてあったから、それをありがたく頂戴したりね。無料で手に入るもので凌いでた時期もあったんです。
ユーモアたっぷりのリッポンらしさがにじみ出た文章が魅力的な本書では、若い頃に経験したセクシュアリティの葛藤についても包み隠さず語られている。「僕自身のストーリーをLGBT+の若者たちにはっきりと伝えたかったんです。自分みたいな人間には何の価値もない、くらいに思えた時期もありましたから」
大人になる中でつらい目に遭ったことや独特の体験について、そして自分が同性愛者だと気づいた時のこと。特に詳しいのは、カミングアウトに至るまでについての思いだ。
ゲイにはなりたくないと思っていた。僕の家族は(ゲイを)受け入れてたし、ゲイの人はスケートの世界にも何人かいた。でも、「僕は違う。そんなはずがない」とずっと思ってた。人にからかわれるような、なかなか受け入れられないような存在にはなれないってね。
悪意というのは、はっきり自分に向けられたものでなくても感じてしまうもの。洗い落とせない錆びついた霧のように。
こんな風に斜に構えていたリッポンだが、実際にカミングアウトしても、嫌なことは特に起きなかったと言う。
トークライブの最後に、若い頃の自分が求めていたような、誰かの“ロールモデル”になれればと語った。「誰かが声を上げてくれないかなとずっと思ってました。だから大人になった僕は、常に発言する人でありたいと思ってます。若い頃、誰かに口にしてほしいと思ってたことを発信する人になろうと。日々の暮らしの中で、そうありたいと思っています」。
Adam and Jenna’s Contemporary – Dancing with the Stars
By Thomas Virgl
Courtesy of StreetWise / INSP.ngo
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