ここ数年、「フードバンク」や「フードドライブ」といった言葉をよく見かけるようになった。「家庭で余っている食材を、困窮家庭へ」という目的のもと、多くの自治体やNPOなどが活動しているため、一部の家庭では以前より意識が高まっているだろう。
2021年4月22日に行われたオンラインイベント<BIG ISSUE LIVE #2「食から考えるEARTH DAY」>には、ビッグイシュー日本版に15年以上連載を続けている料理研究家で、ビッグイシュー基金共同代表の枝元なほみが登壇。ビッグイシュー日本東京事務所の佐野未来が司会を務め、アースデイ*1に食をめぐる地球環境を考えるきっかけとして、枝元がかかわるユニークな取り組みを和やかに紹介した。
*1米国で1970年にスタートし、20年後の1990年には日本を含む世界中に拡がった。毎年4月22日とその前後の期間には“ひとりひとりが地球環境について考え行動する”というコンセプトのもと、世界各地で環境や持続可能な社会などをテーマにさまざまなイベントが行われている。
公式には2009年の国連総会で採択され、翌2010年から毎年世界中で実施されている。
この記事は、2021年4月22日にYouTubeで開催されたイベント<BIG ISSUE LIVE #2「食から考えるEARTH DAY」>のレポートです。
主催:ビッグイシュー日本
すでにあるものを大切に食べることで、人のつながりが生まれる
枝元が連載している『世界一あたたかい人生相談-幸せの人生レシピ』は、読者からの人生相談に販売者が答え、枝元がレシピで答えるという人気コーナー。
「食べ物の話には、人は関心を寄せてくれることがありますよね。食べ物っていいな、良い仕事をさせてもらっているなと常々思っています」と枝元。
はじめに、自身が代表を務める「一般社団法人チームむかご」の取り組みを紹介した。
むかごとは山芋の地上部分にできる直径1センチくらいの大きさの球芽(たまめ)のことで、秋に収穫できる。栄養価が高く美味しく食べられるのだが、収穫や虫食いの選別、袋詰めなどに非常に手間がかかる。あくまで山芋や他の作物の栽培がメインであり、副産物にそこまで手間をかけていられないため、むかごが流通にのることは少なく、多くは収穫すらされずに廃棄されてしまう。枝元は、副産物や規格外とされる農作物を生かすため、生産者と消費者を繋ぐ活動としてむかごの販売を始めた。
足りないのはそれを適切に分配する社会システム
むかごを販売してみようと試行錯誤した結果、取り巻くシステムが見えてきたと枝元は言う。
「1つの作物から複数の食べ物ができればとても良いですよね。環境負荷も抑えられる。でも世の中では、売れるものが一番大事。そのほかは捨てられてしまうんです」
むかごを販売するには、畑から収穫し、洗浄・乾燥し、袋詰めするという作業が発生する。農業の規模が小さかった頃はむかごも食べられていたそうだが、大量生産が求められる現在、農家にはそこに手間と時間をかける余裕がない。
「大量に作物を作っておいて、“余ったから”、“しくみにのせるのが大変だから”と、大量に捨てる。土も疲れるし、生産者も大変です」
佐野が「大量生産・大量廃棄の裏側で、食べるものに困っている人もいるのでは?」と問うと、「地球上の人、全員に行き渡るだけの食べ物は既にあると言われています*2。均等に流通されないだけ。その社会システムを見直すと同時に、私たちは工夫して食べるとか、違うものや既にあるものに意識を向ける必要がありますよね」と枝元。流通には乗らない「自然にできたもの」「売りにくいもの」を食べながら、環境や季節とともに生きていることを感じるのも案外悪くないと言う。
*2参考:Food and Agriculture Organization
世界の食料安全保障と栄養の現状2020年報告(P.8)
むかごを購入したい方→チームむかごストア|一般社団法人チームむかご(mukago.jp)
※秋に入荷されます。
むかごを使ったレシピ
“残らない”よう工夫するための労働力を考える
続いて佐野が、2020年10月に始まった「夜のパン屋さんプロジェクト」を紹介した。
都内の人気ベーカリーから、営業終了間近に店頭にあるパンを回収し、神楽坂にあるかもめブックスの軒先を借り“人気ベーカリーのセレクトショップ”として売り切る。点在するベーカリーからのパンの回収と販売をビッグイシューの販売者やコロナ禍でアルバイトなどが激減した若者たちが担っている。今年1月から緊急事態宣言のため休止し、3月第1週に再開した。
きっかけは、寄付をしてくださった方からの『ただお金を分配するのではなく、循環するしくみを作ることに遣って欲しい』という声。ビッグイシューは、お金ではなく仕事を提供する形で、販売者の方々が自ら稼いで生きていくための支援をしていることに賛同してのことだった。これを機にプロジェクトが動き出した。
「そもそも『食品ロス』という概念は人の都合で作り出したもの。大量生産・大量消費に加えて、閉店間際までいろんな商品が並んでいなければならないという“欲”が、大量廃棄を引き起こしています」と指摘する枝元は、次のように続けた。
「(夜のパン屋さんでは)たくさん儲けるのは難しいですが、働いている人にきちんと対価を支払うという目的は果たせています。大量生産・消費され、要らなくなったら捨てられるというのは食べ物に限った話ではなく、非正規雇用の問題などと根底にある考え方は同じかもしれません。食べ切る・売り切る、残らないよう工夫する。そこに労働力を遣っていくことが大切だと思います」
2店舗目の展開も検討される中、名古屋や大阪、LIVE配信中には横浜、京都などにも展開して欲しいという声が挙がった。
顔が見える繋がりが、コロナ禍における苦難の支えに
「夜のパン屋さん」のシステムが評価される一方で、パン屋さん、売る人、買う人といったひとりひとりの事情をどう捉え、どう繋がっていくかが大切なのだと佐野は言う。
「緊急事態宣言下でお店を閉めることになった際でも、パン屋さんたちは「パンの寄付」を快諾してくださいました。それらのパンは、ビッグイシューに相談に来られる方に振るまったり、子ども食堂などに寄付したんです。その結果、おいしいパンをあちこちで食べて喜んでもらうことができ、パン屋さんにも喜んでいただきました。個人でも組織でも、そういう顔が見える関係性が、何かあったときに心強いですね」
さらに佐野は、昨年コロナ禍で東京がゴーストタウン化し、販売者が路上に立ち続けることやビッグイシューの事業継続に不安を感じる中、販売者を通して繋がった方々が通販で応援してくださったと、改めて謝意を伝えた。
ビッグイシューはホームレス状態の人や生活に困窮している人がすぐにできる仕事をと、雑誌を路上で販売する仕事を提供している。1冊220円で仕入れ450円で販売する、その差額230円が販売者の利益になる。
コロナ禍では路上販売がままならなくなり、どうやったら収入を確保し生き延びられるかと考え、2020年4月に「コロナ緊急3ヵ月通信販売」を立ち上げた。当初コロナ禍収束を見越して3ヵ月間と設定したが、現在5次の募集中だ。参加者に4月~6月分の計6冊の雑誌を購入いただき、ビッグイシューは販売者が本来路上販売により得られる利益分としてプールしておき、販売者に毎月支援金として現金を渡すしくみだ。
「国は住民票のない人に10万円の給付をしませんでした。『しくみだから仕方ない』で済ませるのではなく、一番困っている人に届かないのであればしくみを変えるべきです。しくみを言い訳にしてはいけない」と枝元は強く言う。
このLIVEが配信された翌日の23日には、再び一部の都府県において緊急事態宣言が発出された。ワクチン接種が始まったものの、変異株の拡大も不安視されており、未だコロナ禍収束の兆しは見えない。誰もが大変な状況であるが、路上から買うのが難しい方は「コロナ緊急3ヵ月通信販売」に参加いただきたい。
第5次「コロナ緊急3ヵ月通信販売」について→第5次「コロナ緊急3ヵ月通信販売」概要/外出自粛できない“家なき人”とともに。コロナ禍と緊急事態宣言を生きのびる|ビッグイシュー日本版(bigissue.jp)
アースデイに考えるひとりひとりのアクション
LIVEが配信された4月22日は、“地球環境のためにひとりひとりができることを考える”アースデイ。
枝元は「大量消費・大量廃棄というのは、未来の子どもたちが食べる分を食い散らかしているのと一緒。土が疲れて作物を作れなくなってしまいます。自分たちの分だけを大事に食べていくことが大切です」と訴えた。私たちが日々の消費、生活をする中で何を選ぶのか、どのような行動をとるのか、そのひとつひとつが子どもたちに何を残すのかということに繋がっていく。
このLIVEはYouTubeのビッグイシューチャンネルにアーカイブされている。視聴した人の何かしらのアクションやその積み重ねを期待したい。
LIVEの最後に紹介があった「大人食堂」は、生活困窮者を対象とする炊き出しとは異なり、大人も子どもも誰もが気軽に立ち寄って食事ができ、希望する人は生活相談もできるという場所。5月の大型連休でも開催された。
ビッグイシュー基金
https://bigissue.or.jp/
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取材協力 甲斐彩子
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