近年、日本の消費者文化にも根づき始めた「ブラック・フライデー」。こうしたセールは、毎年新製品が登場するスマホやパソコンの購入意欲を高める契機となっているものの、捨てられた製品はどこへ行くのだろうか? その行方を追うと、そこには目を背けたくなる現実と、立ち向かう起業家たちの姿があった。
電子機器のごみの山から環境汚染
原因は“買い替え依存症”と修理が難しい複雑な設計
米国や英国ではおなじみとなった「ブラック・フライデー」。これはクリスマス商戦の始まりとして、11月の第4金曜日に行われる年に一度の大セールだ。この時期、大規模小売店は誰もがほしがるタブレットやスマートフォンなどを安く大量に売りさばく。すると、消費者にはこの週末セールが使わなくなった電化製品や電子機器を買い替える最適な時期だと思えてくる。
しかし、アップグレードや新型が次々と発表され続ける市場で、ブラック・フライデーはある種の“買い替え依存症”を生み出し、環境へ与える影響もはかり知れない。電子機器は使い捨てるものだという風潮が強まり、その廃棄物の量は年々増加し続けている。2016年には世界中で4470万トンの電気・電子機器廃棄物(e-waste ※)が発生し、21年までにはさらに17%増えて5220万トンに達するという予測もある。
※ バッテリーまたはプラグを搭載した廃棄物。使用済み冷蔵庫やテレビ、携帯電話、パソコンなど。日本の電気・電子機器廃棄物の総量は210万トン(16年)で、そのうち約54万トン(約4分の1)が法律に基づき回収・リサイクルされた。数値は「Global E-waste Monitor 2017」(国連大学)より
中でも、近年急速に増えているのがパソコンやスマートフォン、携帯電話の廃棄だ。中国やインドなどに代表されるごみの埋立地には、数百万トンの電化製品が積み上げられ、山のようにそびえ立っている。リサイクルされずに捨てられた部品からは有害物質が流出し、水や土壌、大気を汚染する。国際環境NGOグリーンピースは「現行の回収システムが、新たに製造される量に追いついていないことは明白だ」と言う。
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安売りセールを通じて、毎年のように新しい製品を消費者に売り続けたいというエレクトロニクス業界の意図に加え、機器を複雑な構造にして消費者自身が修理できないようにする方針がこの問題を生みだしている。既に飽和状態の市場での販売量を増やすために、各メーカーは製品に更新を加え続け、デザインを少しだけ変化させることで、消費者が毎年のように新しい機器を買いたくなるように購買意欲をそそっている。また、これまでのノートパソコンはユーザーが部品を交換できるように設計されてきたが、現在のタブレットやスマホなどではそんな特徴もなくなってきている。
「修理の権利」奪う大手メーカー
一方、修理キット提供する企業も
さらに、アップルをはじめとする企業は「修理の権利」をめぐる熾烈な争いを繰り広げている。たとえば、同社は昨年11月初旬にアマゾンと手を組み、アマゾン上で中古のアップル製品を非正規に販売する業者を追放できるようにした。また、新しいMacBookには専用の修理ソフトウェアが組み込まれており、アップルの正規店以外で製品を修理することが不可能になっている。マイクロソフトも同様に、他店で修理できないように取り締まることを検討している。メーカーがこうした手を打つことで、独立系の修理店は閉店に追い込まれ、消費者は不具合が起きた時に修理するのではなく、より最新の製品を新規購入することが当たり前だと思わせられるようになっていくのだ。
一方、消費者の「修理の権利」を支持すべく積極的な手段を講じているメーカーもある。最近になり、米国のモトローラ社はエレクトロニクスの修理で知られる独立大手の企業「iFixit」と提携して、「修理キット」を消費者や修理店に提供するようになった。これによって製品の寿命を延ばすことができる。「修理に対してオープンな姿勢を取っているモトローラは、今後、大手メーカーの見本になると考えています。大規模ビジネスと社会的責任、そしてイノベーションと持続可能性、これらは相互排他的である必要はないのです」とiFixitは説明する。
エシカルなスマホ「Fairphone」
紛争に加担しない金属原料使用
寿命長く、修理しやすい設計
地球環境へのダメージを極力減らしながら、電子機器を愛用すること。こうした持続可能なエレクトロニクス文化を実現しようと努力している社会的企業もある。たとえば、オランダの「Fairphone」はユーザーが簡単に修理できる仕組みかつ製品寿命が長い設計を採用したフェアトレードのスマートフォンを開発した。製品に使用する金属鉱物は、紛争や児童が労働にかかわっていないか、労働者の健康や安全は配慮されているか、公正な取引価格か、採掘過程における環境汚染などをチェックし、倫理的な原料調達に力を注いでいる。現在は、製造する中国の工場の労働環境改善にも取り組む。
Fairphone2は全4色で発売(通販の配送はヨーロッパのみ)
創業者のバス・ヴァン・アベルが「Fairphone」を始めたきっかけは、コンゴ東部で起きていた内戦に、その地域の鉱山で得られた収益が注ぎ込まれていると気づいたことだった。そこで採掘された鉱物はパソコンやトースター、電球、電話機など、身近な電化製品に使われていると知り、自分がいつも頼っている製品への意識が欠けていたことを懸念し始めた。そして、こうした問題に人々の関心を寄せるためには、製品を作ることが一番だと考えた。
コンゴ共和国の銅
「電子機器の生産は、まずどこかの鉱山から始まるのだと気づきました。この鉱山ビジネスがどうなっているのかを見ることができるスマートフォンを作ってみようと思い至ったのです。誰かの責任を追及する事業はやりたくなかった。(罪悪感を持たなくてよい電子機器をほしがる消費者がいる)市場が存在することを証明したかったのです」とアベルは言う。13年に創業した同社は、これまでに13万台以上を売り上げ、あわせて修理部品も販売。電子機器に対する消費者の態度に変化をもたらし、使い捨て産業に一石を投じている。
ルワンダ、採掘したタングステンを砕く作業
修理技術を学べるワークショップ
世界にフランチャイズ展開するリペアショップ「Remakery」
消費者が単に製品を消費するだけにとどまらないよう、世界的なネットワークを構築した社会起業家もいる。11年にスコットランド・エディンバラでリペアショップ「Remakery」を開業したソフィー・アンウィンだ。ここでは消費者が自分でエレクトロニクス製品を修理できるようになる有料ワークショップを開き、技術を学んだ人は店舗で働くことができる仕組みをつくった。顧客が持ち込んだ製品の修理サービスは一般的な修理店より手頃な価格に設定し、「目の前でどうやって修理されるのかを見てもらい、修理する人が顧客と話し合いながら直していくプロセスを大事にしています」とアンウィン。もう使わない製品を寄付してもらい、修理して販売するビジネスも行っている。
Photo: Fairphone Remakeryの修理ワークショップ ©Remakery
アンウィンはこのショップをモデルに、他の国・地域でも似たような仕組みを展開させてほしいと「Remade Network」を立ち上げた。彼女はこれを「社会的フランチャイズ」と呼ぶ。今ではニューヨークやニュージーランド、モーリシャス、カナダ、オーストラリアなどで開業の計画が進んでおり、世界65以上の地域から相談が来ているという。市民・地域レベルから電気・電子製品廃棄物を減らすことができるだけでなく、新たな雇用を生み出すことができるのが人気の理由だろう。
「Remade Network」によって立ち上がったリペアショップでは難民や移民が働いているケースもあり、「(エディンバラでは)年配の移民たちが、仕事をなくした元・銀行家たちに修理技術を教えていました」とアンウィンは言う。
Remakeryの店舗の前で、アンウィン ©Remakery
「自分たちの生活を変えられるスキルを与えること。私のアイディアは、人々を啓発し、(使うものに対して)異なる方法で行動できるようにすることなのです。Remakeryがすべての町にできたらいいですね。ものを直すだけではなくて、生計を立てる手段として、修理できる人が増えていく。そこには社会を変え、経済のあり方を変える力があると思います」
(Ben Sullivan & Hannah Westwater, The Big Issue Scotland / 編集部)