真面目な働き者でも“ホームレス”になる社会について考える/神戸学院大学でビッグイシューが出張講義

 ビッグイシュー基金・ビッグイシュー日本では、教育機関や各種団体などに出張して講義をさせていただくことがあります。

今回は神戸学院大学現代社会学部の「社会貢献実習」での授業。
講義室に集まった36名の学生の皆さんには、グループワークを通してホームレス問題やビッグイシューの活動への取り組みに対する理解を深めていただきました。


 (緊急事態宣言発令中のため、ビッグイシュー大阪事務所と大学をリモートでつなぎ、講義を行いました。)

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ビッグイシューの事務所とオンラインで結んでの講義

世界中の“ホームレス”、共通点はあるのか?

ビッグイシュー基金スタッフの川上翔が「ビッグイシューという雑誌やビッグイシューの販売者をまったく知らない人いますか?」と聞くと、かなりの数の手があがりました。

そこで、川上が雑誌『ビッグイシュー』について話を進めながら、学生たちは4人1組に分かれてグループワークをおこなっていきます。

最初のグループワークではそれぞれ、雑誌『ビッグイシュー』の人気連載記事「販売者に会いに行く」を読んで感想をシェア。

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記事を読んで率直な意見や感想を出し合います

初めて『ビッグイシュー』を手にとった学生たち。世界各国のホームレス状態になった人たちの話を読んで、ホームレスになる理由は個人の人格、性格の問題ではなく、本当に様々だと知ります。

講義後のアンケートから

ホームレスの方は街の中で見ることがないので、どんな人たちなのか想像できませんでした。ホームレスというのは住居がない状態を指すのであって、同じ一人の人間であるという言葉が印象に残りました。

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講義後の学生アンケート

『ホームレス』という人たちはいなくて、『ホームレス状態』にある人たちだと認識を改めることができました

ホームレス問題は、ホームレス状態になった人だけの問題ではないということがよく分かりました

このような声を複数の学生からいただきました。

路上生活者の数は増えたのか?
「ホームレス」の定義とは?

続いて川上が説明を加えながら、再び学生たちにグループワークで考えてもらいます。
「日本のホームレスの数はどれくらいなのか?」、これは厚生労働省が毎年調査結果を出しています。
年々ホームレス状態の人が増えているのか減っているのか、変わらないのか、学生たちに調査結果を予想していただきました。

9組あるグループのうち、7組がホームレス状態の人は「年々増えている」という結果を予想しました。

増えているとした理由として、あるグループは「高齢者が増えたため」ということを挙げました。さらに「大きな災害があると増えるのでは」、また「施策や政策で支援が進んでいるから、数は減っているのでは」と予想したグループも。

では実際の調査結果を見てみます。

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当日の講義スライドから


実は2007年から2021年までの調査によると、大災害があった年も含めて毎年国内の路上生活者数は減少しているとされています。

しかし、この調査結果には2つの問題点があります。

1つはホームレス状態の人を日中、調査者が目視で確認、または判断している点です。これは日中と夜で過ごす場所が違うホームレス状態の人を確認できない可能性があります。

2つめは、路上生活者、「ホームレス(状態)」の定義の問題です。例えば、簡易宿泊所やネットカフェで寝泊まりしている、長期入院をしているが自分の住む家がないという人などを調査対象に含まない可能性があるということです。

参考リンク:
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写真右:販売者の西岡さん 左:スタッフ川上

西岡さんは大阪出身。大好きな馬と関わる仕事をするため、高校を中退し北海道の牧場に就職。その後脳梗塞で倒れた親の介護のため大阪に戻ったあと、仕事に就くも、阪神大震災に伴う勤務先の倒産、その後ついた派遣の仕事もリーマンショックの影響で解雇、家も仕事も失ってしまいました。
西岡さんがときに明るく自分自身の体験談を語ってくださる様子に、学生の皆さんは興味深そうに耳を傾けます。

西岡さんがビッグイシュー販売を始めたのは、2019年。野宿しながら炊き出しを利用し、日雇い労働、所持金はゼロの状態。そんな時に大阪府立中央図書館で見つけた『路上脱出ガイド』(※)を読み、ビッグイシューの事務所に電話をかけたのがきっかけです。

(※)路上生活する人が生きのび、ホームレス状態から脱出するために必要な情報を冊子にまとめたもの。ビッグイシュー基金が制作・発行。大阪、東京にはじまり、札幌、名古屋、京都、福岡、熊本の各地でも作られ配布されており、ウェブからのダウンロードも可能。
https://bigissue.or.jp/action/guide/

販売者としてデビューしてしばらくすると、西岡さんは、ある購入者の女性とのやり取りがきっかけで、『ビッグイシュー』販売時に手紙を添えてお渡しをするようになりました。

「そのお客様が初めて雑誌を買って行かれた次の日、同じお客様が販売場所の前を通られたので、『おはようございます!』と声を掛けました。次の号が発売されたときには『次もまた買うわ!』と言って帰られました。この時に感謝の手紙、メッセージを書いて添えたんです。その後また来ていただいとき、初めて笑顔で『手紙読んだよ!』って言っていただけたのはとても嬉しかったです。」

西岡さんは現在、ビッグイシュー基金の「おうちプロジェクト」による支援を受けて地元である大阪市内のアパートで生活しています。

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西岡さんが「おうちプロジェクト」で借りている現在のアパート


「洗濯機やこたつ、冷蔵庫という必要な家具・家電の購入を支援していただきました。住み心地はよいです。月2万5千円で借りられて、自分のペースで生活できます。」

「おうちプロジェクト」とは、コロナ困窮者の住宅確保応援プロジェクト。コカ・コーラ財団より助成を受け実施。
https://bigissue.or.jp/2020/08/20080701/

「以前は西成区の釜ヶ崎にあるシェルターで寝泊まりしながら販売をしていました。その後ステップハウス(*)に空きが出て、そこに移りました。(住まいができたので)お金を貯め、心理カウンセラーの資格取得のための勉強に1年間取り組みました」

*ホームレス状態の方が、初期費用や保証人不要で利用でき、利用料の一部が本人の積立金となり、次へのステップを応援するビッグイシュー基金の住宅支援事業。

心理カウンセラーの資格を取得した西岡さんからのメッセージ

1年間の勉強が実り、2020年に無事心理カウンセラーの資格を取得した西岡さん。
「自殺者が増加しているというニュースも目にします。将来は自分の経験を生かして、苦しい立場の人を助ける仕事をしたい」と語ります。

コロナの影響で人通りが激減、1日の売上冊数が2桁行かないこともあり事態はますます苦しい状況ですが、西岡さんは驚くほど前向き。

「毎日を過ごす中で大切にしていることは、時間の使い方です、1日の時間配分は大切に考えています。人通りの少ない時は、販売場所の付近を掃除しています。販売者として気をつけていることは、前を通っている人に、嫌な思いをさせないことです。話すときは敬語を使うことに気をつけています。」

最後に西岡さんは、こんなメッセージを学生の皆さんに送りました。

「自分自身もコロナで気づいたことがあって、『ビッグイシュー』407号を読んで思ったのですが、90年代から選挙の投票率が下がっているんですよね。
過去から今、未来をつくるには投票に行って誰を選ぶかが大切だと思います。私自身もそうですが、政治にもっと関心を持たないといけないなと思います。」

参考リンク:
2019年の出張講義から、西岡さんのお話―
 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」

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