原子力規制委員会は9月15日に、中国電力・島根原発2号機(松江市)を「規制基準に適合している」と判断した。中国電力が原発の直近を通る大断層の連動を考えずに短く見積もったことを容認し、また、周辺の火山噴火による降灰の過小評価も受け入れたといえる。今後は原発に求められる追加的な安全対策の許認可と対策工事の実施へと進み、実際の再稼働は1年以上後のことになると想定される。しかし、島根原発の再稼働には多くの問題が横たわっている。
火山噴火時、56㎝の降灰
交通遮断、原子炉冷却は困難
中国電力は、宍道断層の長さを最終的に39kmと評価した。すぐ東にある鳥取県沖西部断層との連動の可能性が産業総合研究所のデータなどで示されていたにもかかわらず、それを無視したのだ。また、地震の揺れを相対的に小さく評価するために、断層の大きさを調整している。これらをまともに考慮すれば、原発を廃止せざるをえないからだろう。
火山噴火による降下火山灰について、島根県の西部に位置する三瓶山(大田市)の噴火時を56cmと評価。気象庁によれば、三瓶山は頻繁に爆発的噴火を繰り返してきた火山で、中央部には直径4.5kmのカルデラがある。送電線網はまったく機能せず、交通は完全にストップ、1ヵ月ではとうてい回復しないだろう。
火山灰が降りしきる中、原子炉を冷却するためにディーゼル発電機で対応することになるが、空気を送るフィルターが目詰まりを起こせば発電機が止まるため、頻繁な取り替えが長期にわたって続く。また、電源車による代替もあてにされているが、電源車もフィルターの交換が必要で、交換もさらに頻繁になるだろう。
56㎝も積もる火山灰の中で、繰り返しのフィルター交換が可能とは到底考えられない。
なお、降下火山灰の層厚には異論もあり、56㎝でも大変な厚さだが、さらに厚い可能性が在野の火山学者から指摘されている。
30㎞圏内46万人、避難できず
重大事故で崩壊する対策本部
規制委員会は、マニュアル内に諸々の対策が書かれていればよく、事故状況の中で現実的に機能するかについてはチェックしていないのだ。さまざまな対策を重ねることで、重大事故の規模を福島原発事故の場合の100分の1程度の放射能放出量に抑えるというが、実態からは難しいだろう。
こうした甘い判断の問題もあるが、いっそう深刻な問題は避難だ。30km圏内の避難対象者はおよそ46万人。その上、現地対策本部が置かれる原子力防災センターや島根県庁は原発から直線距離で10km圏内にある。避難対象地域(UPZ)にこれらの重要な施設があるため、重大事故が起きれば共倒れになる。30km圏外の近傍に同じ機能をもつ設備がなく、現地対策本部が崩壊することになるのだ。
現地対策本部の機能崩壊は、福島原発事故の事例からも想像できる。電源喪失後に現地対策本部が防災センターに設置されたが、10km程度しか離れておらず、その夜には放棄され、福島県庁内に移された。この体験からすれば、島根原発が重大事故を起こした場合にも、現地対策本部がまったく機能しなくなることは明白だ。
政府は無責任にも、中国電力による避難計画を妥当と判断したが、そもそも計画自体が現地対策本部の機能喪失の可能性を想定しておらず、机上の計画というほかない。承認はされても、とても計画通りに避難できるとは考えられない。(伴 英幸)
(2021年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 418号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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