2021年9月、英国の14の学校で採取された水のサンプルから、最大基準値の5倍の鉛が検出された*1。鉛は少量でも脳や知能の発達に影響を与えうる有害物質だ。こんなニュースを聞くと、自分の地域の水道は大丈夫なのかと不安になってしまう。
*1 Science project reveals high lead levels in schools’ water
英国では1969年に、飲料水への鉛管の使用が禁止されているが、いまだに古い建物を中心に約800万棟では鉛管が使われていると見られている*2。鉛管が使われているのは多くの場合、水道の本管から建物に水を引き込む接続部分だが、まれに建物内部の配管に使われているケースもある。
photo1 古い建物で使われている鉛管が飲み水の汚染をもたらしうる。AnnaER/Pixabay
*2 そのため、1970年以前に建てられた家屋では、鉛管が使われていないかチェックすることを推奨している。
参照:Lead replacement scheme
日本では平成 30 年度末の鉛製給水管の残存延長が 4,399 ㎞、使用戸数が約 245 万件。減少は図られているものの、近年は鈍化傾向にあるという。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/000751719.pdf
また、噴水式の水飲み器に使われている真鍮の配管部材に少量の鉛が含まれていることもあり、水が長期間溜まっていると、塩化物などによって管が腐食し、一部が水に溶け出すことがある。そのため、飲料水にオルトリン酸塩などの腐食防止剤を添加している水道会社もある。
水道会社では、英国内で使われている鉛管の特定と撤去を進めているが、作業の進みは遅く、費用もかさんでいる。鉛管が使用されている限り、汚染のリスクは残り続ける。建物の所有者は鉛管が使用されているかどうかを確認し、水質検査を行うべきだ。検査は民間の検査機関、または水道会社でも対応している。
米国では今後5年間で397億ポンド(約6兆1900億円)の資金を投じ、すべての鉛管の撤去を含む大規模な水道システムの改修計画を発表した。英国政府もこれに続くべきだ。鉛の汚染は建物内だけの問題ではない。汚染物質が川や湖に流れ込むと、最終的に飲料水に入り込み、環境全体に汚染が広がりうる。
新たな汚染物質PFAS
新たな汚染物質も現れている。飲料水に含まれるパーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)と総称される化学物質群の影響が懸念されているのだ。PFASはフライパンの焦げ付き防止コーティングや泡消火剤などに使用されてきた歴史があり、生活のあらゆる場面に存在している。
昨今は僻地にあるビーチやエベレスト山からもPFASが見つかっている。Quangpraha/Pixabay
PFASは環境中で自然に分解されにくく、魚など生物の体内に蓄積されることから、「永遠の化学物質」とも呼ばれる。飲料水や食品中にどれくらいの量のPFASが含まれると人間の健康に危険を及ぼすかについては、世界中の科学者によって議論がなされているところだ。
イングランドの飲料水検査局では、2つのPFAS化合物(ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とペルフルオロオクタン酸(PFOA))の含有量のガイドラインを策定している。どちらか一方の化合物が水1リットルあたり0.01マイクログラム以上検出された場合、水道会社はリスク評価を行い、すべての飲料水の給水設備を検査し、保健当局に結果報告する義務があるとしている。
最新の知見をもとにした対応へ
水道業界は、下痢を引き起こすクリプトスポリジウム原虫などの微生物や、増え続けるマイクロプラスチックなど、人間の健康に影響を与えうる汚染物質の最新状況を把握し、その原因と除去方法、人体への作用などの解明に努めている。
しかし、最適な検出方法の見極めから、食品等との含有量の比較、公衆衛生への影響を数値化し、規制の費用対効果を判断するところまで、飲料水に含まれる新たな汚染物質の調査・研究には何年もの時間がかかるだろう。
飲料水の処理技術も進歩し続けているが、PFASのような新たな汚染物質の除去に必要な技術の多くは、従来の方法よりも多くのエネルギーや化学物質を要する。そのため、汚染物質がそもそも飲料水に混入しないようにすることが、持続可能性の観点からは最善の策となる。
英国では、合法にせよ非合法にせよ、基準値よりもはるかに高い濃度の汚染物質が水路に廃棄されているケースが多くある。安全とは言えないレベルの汚染物質を水道設備に近づけないよう規制する必要がある。
これまでの汚染対策は、河川や湖沼での希釈により危険性物質の濃度を下げることを前提としてきたが、私たちの身のまわりに存在する有害物質が環境や人体に及ぼす影響について研究が進んできた今、より厳格な規制を導入すべき時が来ている。
著者
Vanessa Speight
Professor of Integrated Water Systems, University of Sheffield
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年9月14日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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