英国では、何百万もの家庭が子どもに十分な食事を与えられないでいる。食料不安を経験することは子どもの心を大きく傷つけ、学業にも悪影響を及ぼす。学校が運営するフードバンクの最新事情について調査を進めているブリストル大学教育学部上級講師のウィル・ベイカーが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。
15年の間にフードバンクが40倍に急増
学校が独自のフードバンクを運営し、貧困家庭に寄付で集まった食料を提供していることが、筆者の研究*1 などから分かっている。教育機関――初等学校から中等学校までーーが、子どもの貧困、食料不安、困窮といった問題の前線に立たざるを得なくなっているのだ。
*1 Schools and food charity in England
2008年に金融危機が広がった頃、英国内にはごく少数のフードバンクしかなかったが、現在では国内のいたるところに存在する。慈善団体トラッセル・トラスト(Trussell Trust)が運営するフードバンクは、2010〜2011年は35拠点だったが、今やその数は1400を超える。
The Food Foundation の最近の調査では、子どもがいる家族の5組に1組が食料確保に何らかの問題があると見積もられている。約15年に及ぶ保守党による政権運営を経て、かなりの数の学校がフードバンクを運営し、家族や子どもの支援にあたっている状況がある。
なぜこのような状況になっているのかを調査すべく、筆者はブリストル、リヴァプール、ロンドンなどの25の学校職員に取材した。答えは明確だった。学校がフードバンクを運営するようになったのは、深刻化する貧困、経済的に苦しい家族の問題に直面しているから。生活費や食料を買う余裕のない親たちが、学校に助けを求めているのだ。
ある学校スタッフは言った。
十分な食料がないんです。余裕がないから、きちんとした食生活を送れていない。まったくもって彼らの落ち度ではないのですが。
教師たちは、物価上昇の危機的状況や、英国の福祉システムの見直し――特にユニバーサルクレジット*2 への移行ーーを理由に挙げた。ユニバーサルクレジットへの移行によって、以前より生活が苦しくなっている家族が増えていることは、研究からも示唆されている。「以前よりも給付金が減っているんです。それに、システム切り替えにより給付が途絶えた時期もありましたし」とある教師は語った。
*2 複雑になり過ぎた社会保障制度の簡素化、合理化を目指し、2013年に導入された低所得層向けの給付制度。従来の所得補助、求職者手当、雇用・生活補助手当、児童税控除、住宅給付などの代替。
学校内フードバンクの支援を受けている家族の中には、これまで無償学校給食(Free School Meal)の対象ではなかった人もいる。どんな人がフードバンクを活用しているのかについて、ある教師は言った。
これまでも無償学校給食の対象となっていた(低所得)家庭もありますが、(貧困状態にあることを役所が把握できておらず)その対象から取りこぼされていた人たちもいます。
学校内フードバンクの増加が示すのは、今や学校が緊急支援の拠点の役割を果たしているということだ。「この10年で政府は数々の公共サービスをストップさせたので、学校がその受け皿となっているのです」と、元子どもコミッショナー(子どもに関する政策や決定に関する公的機関)のアン・ロングフィールドは述べている。
小・中学校の2割以上にフードバンク機能
現在、筆者は同僚とともに、困窮家族や学校が置かれている状況を明らかにする最新調査に取り組んでいる*3。英国内の学校内フードバンクの数と、学校の種類について調査を進めているのだ。論文審査のある専門誌ではまだ発表していない段階だが、小学校と中学校の21%が何かしらのフードバンクを運営しているようだ。この割合でいくと、英国内で4,000以上の学校内フードバンクが存在することになる。
*3 Feeding Hungry Families: Food Banks in Schools in England
となると、英国最大のフードバンク運営団体であるトラッセル・トラストやインディペンデント・フードエイド・ネットワークが運営するものの合計よりも多くのフードバンクが学校内で運営されていることになる。
いまや学校が食料支援というかたちで組織的に貧困家庭を支援しているのなら、運営に関するガイダンス、支援、資金が必要である。貧困家庭には十分な賃金が支払われる安定した仕事と、生活必需品(食料や衣服を買い、暖を取るなど)を購入できる経済力と、人としての尊厳を守る社会保障制度が必要である。
しっかりと機能する福祉国家が目指すべきは、貧困や困窮に陥った人の事後対応にあたることよりも、そもそも貧困や困窮に陥らないようにすることだ。すべての政党の選挙公約の中心には、子どもの貧困、食糧不安、格差問題を劇的に解決させる計画が含まれていなければならない。
著者
Will Baker
Senior Lecturer, School of Education, University of Bristol
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2024年4月17日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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