(2011年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 170号より)
このほど行われた国民投票で原発ノーを再確認したイタリア。94パーセントが原発に反対という。脱原発を決めていたドイツでは、この10年の間に原発延命の流れができつつあったが、フクシマ事故を他山の石として、原発の早期停止を決めた。スイスも脱原発を決めたという。何ともうらやましい。
イタリアのニュースを伝えたNHKは、同国の電力不足を取り上げ、フランスから高い電気を買っていると伝えていた。原発大国のフランス頼りと言いたげだ。そういえばかつて、脱原発を決めたドイツに対しても原発の電気を輸入せざるを得ないなどと伝えていた。報道だけではない。原子力委員会も04年に平気で輸入データだけ出していた。情報操作だ。早速ドイツからデータを入手して同じくらいの量を輸出していると指摘すると、あっさり認めた。
フランスから電気を輸入しようが、そんなことは問題ではない。大事なことは、イタリアの人々が自分たちの国には原発はいらないと決めたことだ。
日本では、定期検査後の原発の運転再開ができないでいる。福島原発事故を受けた新たな安全基準で検査しなければ安心できないと、立地自治体の知事が言っているからだ。しごく当然のことだ。知事たちは爆発している原発を映像で見て背筋が寒くなったに違いない。世論が大きく影響している。
順次、定期検査に入っていくので、このままいくと来年の5月に全部の原発が止まる。やっと安心できると思っていたら、電気代が標準世帯で毎月1000円以上高くなると、ある経済研究所の試算結果が、上のニュースと併せて報道された。
フクシマ事故の被害総額は20兆円といわれる。これを国民にそのまま回せば、一人当たり17万円の負担になる。こっちの方がよほど問題だ。
それはともかく、電気の使い過ぎが問題となっているのに、電気をじゃぶじゃぶ使っていた昔のデータで試算して、私たちの脱原発の思いが本気なのかを試しているわけだ。何とも小賢しいことをするものだ。イタリア人のように陽気に脱原発でいきたいものだ。
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)