前編を読む





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エコや環境の話は後からついてくる



では世界の自転車事情はどうなっているのだろう? 疋田さんは自転車先進国と呼ばれるオランダ・ドイツに行ってきて、実際、自転車にまたがってみたことがある。そこで目にしたのは、豊かな自転車の可能性、そして環境に優しい未来の交通モデルだった。

「安全なんですよ。自転車レーンってどうしても細いイメージがあるでしょう? それがクルマ1車線ぐらいあるんです。そうすると早い自転車と遅い自転車が共存してすーっと行けるんで、すごく速く行けるんです。クルマもシャットアウトされてるし、オランダでは違法駐車してると17万円の罰金なんですよ。走ってて快適ですよね」




ドイツやオランダでは徹底していて、クルマの通る道を容赦なく自転車レーンに変えてしまう。上下2車線の道路があった場合、そのうちの1車線ずつを、上下1車線ならば片方を一方通行にして自転車レーンを敷く。

「自転車自体は空気清浄機でもなんでもないし、車から乗り換えて初めてエコなわけです。クルマのある部分を自転車で代用しないとエコな自転車の意味ってないわけですよ」




そうやって環境に負担の大きいクルマを規制し、そのぶん自転車レーンをつくっていけば、クルマから自転車に乗り換える人も増えていくし、街は二酸化炭素の排出を削減。きれいな空気を取り戻すことができる。ヨーロッパではそうした新しい交通モデルが次々と生まれていた。

「それは決してつらいことでもなんでもないですよ。都内でいったらクルマの平均時速って昼間で大体14キロ。それでノロノロ移動してるよりも自転車でさーっと行ったほうが楽だし健康的だし、時間の無駄にもならない。良いことばっかりなんですよ。日本ではママチャリこそが自転車だと思ってるからなかなかそういう意識を持ちにくいんだけど、自転車は本来速いものだっていうふうに意識が変わりさえすれば、多くの人がクルマから自転車に転向できる気がするんです」

もちろん、クルマの存在がなければこの社会はもう成り立たないわけだし、クルマを必要とする交通弱者の人、自転車には乗りたくないという人だっているだろう。けれど、不必要なクルマの存在は依然として多く、この社会がクルマに依存しすぎているというのも事実だ。






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疋田さんはクルマと自転車の共存共栄のために、私たちがドイツやオランダの取り組みから多くのことを学べるはずだと考える。そして、こうした新しい交通モデルをいきなり東京に持ってくるのではなくて、まずは例えば、盛岡市、宮崎市など比較的人口の少ない地方都市から実現していくのが現実的で、そこから新しい輪が広がっていくのではないかと話した。

「でもまあ、そうやってなんだかんだと言いますけど、エコとか環境の話っていうのは結局、後からついてくればいいんですよ。自転車に乗るのは気持ちいいし、自分の身体で移動するのは愉しい。そこから話はスタートすると思うんです。私だって自転車通勤何年もやってますけど、毎日環境のこと考えて乗ってるわけじゃなくてね。満員電車よりこっちのほうが断然いいから乗ってるだけの話なんです」

朝の通勤を、たまの寄り道を、そして人生そのものも愉しくしてくれる乗り物、自転車。健康的で、環境にも優しいとくれば、その先に21世紀が拓けると疋田さんはにっこり笑った。

「まずは自転車生活の愉しみを感じていただければ、そこからどんどん広がっていきますよ!」

(土田朋水)
Photos:高松英昭
イラスト:Chise Park

ひきた・さとし
1966年生まれ。TBSテレビ制作局プロデューサー。毎日片道12キロの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」。都市交通における自転車の活用を提言するオピニオンリーダーとしても活躍。『自転車生活の愉しみ』(朝日文庫)、『自転車ツーキニスト』光文社知恵の森文庫など、著書多数。