(2014年7月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 243号より)
集団的自衛権で標的に? 航空機の衝突に耐えられない原発
先日、柏崎刈羽原発の見学に出かけた。施設は厳重な有刺鉄線で守られ、至るところに監視カメラが据えつけてあった。また、防潮堤は津波対策のためではあるが、同時に、外部からの侵入を阻止する役目ももっていると言える。また青森県下北半島に出かけた時も、原子力施設は同様に有刺鉄線で守られていた。
かつて電力会社は原発の施設見学に積極的だった。原発を実際に見ることで理解が深まると考えられていたからだ。旅費はもちろん食事やお土産つきという時代もあった。だが、2001年9月11日以降は、厳しい身元調査が行われるようになり、今は基本的には施設内部の見学はできない。理由はテロ対策だ。
原子力規制委員会の新基準では、「故意による大型航空機の衝突」などのテロへの対応策も求めている。電源車やポンプ車など可搬型の資機材、人材、そして手順書などを整備して、燃料損傷の緩和や使用済み燃料プールの水位の確保、放射能の環境放出の低減などを可能にしなければならない。
しかし、原発は航空機衝突などを想定して造られていない。ただし、六ヶ所村の再処理工場は航空機落下を想定して建屋のコンクリートを厚くしている。それでも想定されているのは意図的な衝突ではなく、燃料がなくエンジンもオフで慣性による落下だ。燃料がたっぷり入った大型航空機が突っ込んでくれば、どの施設も耐えられるはずがない。
原子炉建屋は破壊され、しかも燃料を積んだ航空機は爆発炎上する。使用済み燃料プールも破壊されメルトダウンは避けられない。原子炉の破壊が免れたとしても、電源の確保はできず、人が対応できるような状況ではなく、大量の放射能放出は避けられないだろう。
集団的自衛権が話題となっている。米国の戦争に日本が巻き込まれることになれば、多くの人々の憎しみを買うことになり、原発への攻撃の恐れが高まる。とても賛成できるものではない。
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)