日本社会、日本チームが抱える課題
長谷川:ぜひ将来的に「ホームレス・ワールドカップ」を日本で開催したいと思っているのですが、一方で、ぶつかっている壁というのがいくつかあると思うんです。蛭間さんも本の中で、いくつかホームレスがサッカーをすることに対しての偏見というのが社会にはまだあるんじゃないかという話を書かれていたので、今ぶつかっている壁やこれまで出会ってきた壁について紹介いただきたいと思います。
蛭間:偏見があるのは、ある意味当然なんだと思うんですね。私自身もはじめ知らず知らずのうちにホームレスの人に対して偏見を持っていたので。そういう社会的な通念ですとか教育で形成された価値観ですから、そういう反応をするのは当たり前なのかなとは思うんです。今うちのチームが抱えている課題はいくつかあります。
まず始めは選手ですね。人数なんですけども、もう少し増えたらなと思ってます。一つの解決策として、様々なコミュニティーの方々と一緒にやるというのが、今取り組んでいる我々の具体的な活動ですね。
あとは、やはり何事を行うにもお金がかかるんです。我々の通常の活動に関しては、様々なバックアップされている方のバジェットでやらせてもらっているんですが、大きなプロジェクトとなるとその分のプロジェクトのお金がいるんですが、それに対して、例えば、日本のサッカー関係の組織ですとか、企業さんもそうなんですけども、簡単にはご協力いただけないんですよね。
正確に言うと、その組織の中のご担当者は、非常に共感をしてくれて頑張ってくれるんですけれども、組織としての決裁は難しいよね、というのが現状です。一方で、練習の場所を提供してくれるですとか、何かの物資を提供してくれる、そういったアプローチは日本企業の方々も取り組んでくださっています。
結果として差がついてしまうのは、外資系企業との差ですね。これはちょっと注意して説明しなければいけないんですが、外資系金融の方がメインにはなるんですけど、練習試合やチャリティ大会を組んでくれたり、その練習試合が彼らの、実は、業務やボランティア休暇の一環のプログラムの中に入っていたりするんですよね。そういう仕組みがそもそも組織の中にあったり、スポーツいいじゃない応援しようよという気風があったりと。
「自立」とはどういう意味なのか
長谷川:ありがとうございます。ではお1人ずつ、「今サッカーが社会にできることということ」として思うところ、米倉先生はあまりサッカーの経験があまりないとおっしゃっていますけれども、イノベーションの観点からサッカーはどういうことができるか、ということを含めて、星野さん、米倉先生、蛭間さんの順番でコメントをいただいきたいと思います。
星野:先ほど申し上げたことに加えて、いつも気になるのは、こうした取り組みの目的は「自立」だということなんですけど、その自立の意味と内容ですよね。
この社会や今までの会社に復帰する、完全に復帰するということが自立であり、目的なのだとしたら、それは多分また戻ってくるってことの繰り返しになるような気がするわけです。
僕は、自立っていうのは「既存の社会に戻る」っていうだけではなくて「社会の方を変える」、そもそも、はみ出させないような社会にしてしまうことが大切だと思うんです。そういう社会が広がっていくために、「ホームレスサッカー」が一つの小さなモデルケースになるんじゃないか、そのことに関しての可能性、期待を強く持っています。
日本企業よ、体を張っていけ
米倉:僕も思うんですけど、何か頭の中は変える必要がありますよね。これね、野武士ジャパンのユニフォーム、アディダスじゃいかんでしょ。これ絶対ミズノかアシックスでしょ、たぶん、彼らの意識がこれを本気で応援する事が、実はすごい事だという事が分かっていない。なぜこのアディダス、ナイキやプーマとが世界を席巻して、ミズノやアシックスができないのかと。技術で負けてるわけないんだから、多様性の許容度の問題だと思う。
頭の中がやっぱり日本企業はまだできてないんです。こういう一見馬鹿げたでも可能性のあるものを応援しようとか、しっちゃかめっちゃかの日本が面白いとか、そういうことが頭にない。
一人一人が元気じゃないのに、会社とか社会が元気になるわけがないじゃないかと。その可能性にみんながかけてみようと。たとえば外国の企業に野武士のスポンサーをさせるなとミズノが体を張っていくっていうのが形になってきたら、僕は日本は本当にまた強くなると思う。今はそれがね、なくなっちゃってるんですよ。
前の方で小さくなって、ホームレスを応援すると企業イメージが落ちる可能性があるとかないとか言っている。こういうものを応援しないからや企業力やブランド力が落ちているってことがわかってないんですよね。みんなで本当に頭の中を変えていく起爆剤になるから、「ダイバーシティ・カップ」「ホームレス・ワールドカップ」やりましょうよ。それから、やっぱり企業をおどかしに行かないといけないですね。
蛭間:そうですね。サッカーの力や可能性は、すごくあると思います。サッカーというスポーツは、世界でいちばん競技人口が多くて、途上国であればその開発のツールに使われたり、紛争解決にも貢献した事例があります。いろんな国や地域の歴史や社会の課題に対して、サッカーが実はいろんな関与をしてきたわけです。
こういったホームレスですとか様々な社会の課題、アジェンダに対してそれ解決しようとしている意思が、日本にはあるのか。その意思が我々にはありますから一生懸命頑張りたいと思いますね。
ただ、意思だけ強くて突っ走るのは、これはバカです。ですから、そこはチームアップをして、いい組み合わせ、パートナーを見つけながら共に歩むっていうことしかないんですよね。
でないと、何も変わらないまま、混乱の日本というのは少し難しい方向に行ってしまうと思うんです。で今、様々な社会の問題で変えるタイミングの最後のチャンスかもしれません。
それを変えるのは今を生きている我々日本人であって、それぞれの現場で課題解決型のアクションを起こしていくということだと思います。たまたまこのチームはサッカーという技術を使って、チームとなって社会変革を起こそうとしているんだと思います。私の結論としては、ホームレス・ワールドカップ、ダイバーシティーリーグも含めて、日本で大会を開き、それを日本社会に応援してもらえるよう働きかけていくということになるんでしょう。
長谷川:みなさんありがとうございます。それでは時間になりましたので、こちらで3人のお話は一旦終わりにしたいと思います。
会場:(拍手)
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