こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部のイケダです。現在路上で発売中のビッグイシュー日本版250号から、読みどころをピックアップしてお届けします。
ウジ虫は「世界最小の外科医」:糖尿病患者を救う「マゴットセラピー」
本日ご紹介するのは、特集「生きのびるための野生術」より、ウジ虫を使った「マゴットセラピー」について。
マミ皮フ科クリニック院長の岡田匡さんにお話を伺いました。
「マゴット」とは「無菌性ウジ虫」。岡田さんは下肢切断を余儀なくされる糖尿病に対して、マゴットを活用した治療法の普及に取り組んでいます。
マゴットたちを皮膚潰瘍の上に置くと、壊死した部分に分泌液を吐きかけ、スープ状に溶かして食べてくれるのです。この時、分泌液に大量に含まれるタンパク質分解酵素、その中でも特に”セリンプロテアーゼ”は、正常組織にほとんどダメージを与えず、皮膚の再生を妨げている壊死部分だけを溶かします。
メスなどを使って壊死部分を取り除く治療を「デブリードマン」といいますが、彼らのきめ細かく徹底したデブリードマンの仕事ぶりは、とても人間の及ぶところではありません。
また、壊死部分を食べることは、細菌の増殖を防いでくれますし、さらに分泌液には抗菌ペプチドが含まれていて強力な抗菌作用を備えています。その力は抗生物質が効かない耐性菌にも及びます。
マゴットを使った治療の歴史は古く、数千年前にアボリジニや古代マヤの人々も活用していたとか。米国では第一次世界大戦中、ウィリアム・ベア医師がこの治療法の可能性に着目し、急速な普及を見せました。
米国の整形外科医のウィリアム・ベアは、第一次大戦時、軍医として赴いたフランスで、大腿部の骨が飛び出すほどの重症のまま、7日間戦場に放置されていた二人の兵士を見たという。彼らが命を長らえているどころか、感染も起こさずむしろぴんぴんとしていることに首をかしげつつ、服をめくってみたベア医師の目に、傷口に群がる数千匹ものウジ虫が飛び込んできた。全身総毛立つ思いで、夢中で洗い流すと、その下から見たこともないほどきれいなピンク色の傷口が現れたのだという。
マゴットセラピーは抗生物質・ペニシリンの発見によって歴史の表舞台からは姿を消します。時を隔てること約半世紀、抗生物質が効かない重度の皮膚潰瘍の治療手段として、再びマゴットたちに光が当たり始めているのです。
日本では、04年に岡山大学の三井医師らにより初めてこの治療が行われて成功し、複数の病院において将来の保険適用を目指し症例研究が重ねられている。
250号では他にも、アーシュラ・K・ル=グウィンさんのスペシャルインタビュー、特集「生きのびるための野生術」、東田直樹さんの「自閉症の僕が生きていく風景」、ホームレス人生相談などなどのコンテンツが掲載されております。ぜひ路上にてお買い求めください!