福島原発事故の除染廃棄物、計16㎢の中間貯蔵施設へ運び込み。国有地化が進み、最終処分地になる恐れ

東京電力福島第一原発事故後、放射能による土地の汚染で農作業や居住が制限され、同時に、除染廃棄物の仮置き場として公共用地や個人所有地が占有されるという事態になっている。そして、この問題に抗う人々が現れている。

除染廃棄物の総容量は東京ドーム13~18個分

原発事故後、避難区域をはじめ、福島市や郡山市、白河市、いわき市など、福島県内各地で除染が行われ、そこから出された廃棄物が現在、仮置き場などに保管されているが、この夏以降、この廃棄物を国・環境省が建設する「中間貯蔵施設」へ運び込む作業が本格化する。
抗う人たち―それは「中間貯蔵施設」を「最終(永久)処分場にしない」ため、国に30年後に原状回復した土地の返還を求め、さまざまな交渉を続ける地権者たちだ。

そもそも「中間貯蔵施設」とは何か。東京電力福島第一、第二原発を囲む地域に環境省が造る除染廃棄物の貯蔵施設で、大熊町の11㎢、双葉町の5㎢の合計16㎢という広大な面積を占める。

放射性セシウムが1キロあたり10万ベクレル以上という高い濃度の灰も貯蔵され、廃棄物の総容量は約1600~2200万㎥(東京ドーム13~18個相当)と推計される。名称に「中間」とあるのは、「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了する」ためで、「政府を上げて全力で取り組みます」(環境省HPより)としているからだ。

土地を30年間貸す契約、売買契約より下回る金額に。
土地を売る人を増やすため?

 施設建設が打ち出された2011年8月、国が県に設置を要請、所有地が対象地となった地権者は葛藤を抱いたまま大きな選択を迫られることになった。30年で終了する事業ながら、当初「全面国有化」が示され、「土地売買契約」を迫られたからだ。この方針への批判から土地売買契約が難航、14年6月には当時の石原伸晃環境相が「最後は金目でしょ」と発言。さらに批判が増したことで、国・環境省は方針を転換。売買契約の他に、「地上権を設定して、30年間国に土地を貸す」という新たな選択肢を設けた。

 同施設対象地の地権者らは14年12月、「30年中間貯蔵施設地権者会」(現在、門馬好春会長・事務局長/会員90人)を結成し、契約内容と用地補償問題について国・環境省へ土地の確実な返還と用地補償の見直しを求めて団体交渉。国は、「長期の年払いにすると支払い総額で土地価格を超えてしまう」と、不動産鑑定士の評価額から土地価格の70%を一括補償する方針。これに対して、地権者側は「昭和37年からある国の統一基準を適用し、適正に算定した地代を年払いにする」よう求めている。これまでの国との交渉で問題点を指摘し、地上権設定契約書は30項目の修正が行われたが、平行線で、門馬さん個人が裁判所に調停を申し立てたが、今年6月に不調に終わった。現在は団体交渉中だ。

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「3 0年中間貯蔵施設地権者会」の門馬好春会長・事務局長

 門馬さんは言う。「損失補償基準という国が自分で作ったルールを勝手に変更し、曲げて運用することは、今後の公共事業の補償をゆがめてしまう。土地を貸す契約をした場合、国の損失補償基準24条の仮置き場補償と格差が生じる。その結果、土地を売る人が増え、『中間貯蔵施設』の国有地化が進み、最終処分地になる恐れがある。県内各地の仮置き場にある廃棄物を中間貯蔵施設に搬出・保管する事業自体に私は反対はしていない。一時的な置き場は必要だ。ただ、30年経ったら自分の土地を返してくれという話だけで、その約束を国に果たしてもらいたい」。そして、「原発には廃棄物処分場や処理が必要。未だに最終処分場が決まらない中で、中間貯蔵施設を福島県や地元自治体、地権者だけの問題で押しつけるのはおかしいし、被害者が二重の苦しみを負わされている。原発を、トイレのないマンションやブレーキのない暴走列車にしてはいけない。今後も国・環境省とルールに基づいた補償交渉を続けていく」と話す。
(文と写真 藍原寛子)

参考資料:  環境省のホームページより 
あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。
ブログhttp://ameblo.jp/mydearsupermoon/

*2018年8月15日発売の341号より「被災地から」を転載しました。

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