中国の大学生が「ビッグイシュー」のビジネスモデルを学ぶ/関西学院大学梅田キャンパスに出張講義

ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や団体などで講義をさせていただくことがあります。

今回は大阪の関西学院大学梅田キャンパスにおいて、関西学院大学が提携している中国の吉林大学からの学生14名を対象に、ビッグイシュー日本のスタッフと販売者が「ビッグイシュー」についての講演を実施しました。


引率の鄭先生によると、今回の目的は、日本の関西地域のソーシャルビジネスを見学・体験してもらい、ソーシャルビジネスへの理解を深めたいとのこと。日本人の大学院生も交えて「ビッグイシュー」について話をすることとなりました。

01

通訳をされた関西学院大学大学院社会学研究科教授の陳立行(ちん・りっこう)先生(右)と今回の企画者である吉林大学の鄭先生(左)

「ビッグイシュー」の販売者を見たことがない学生たちに、「釣り竿」の話で説明

まずビッグイシューについての概要がわかるDVDで「ビッグイシュー」の取り組み、販売者たちの活動などを紹介。学生たちは理解しようと食い入るように画像を見ていました。スタッフからは「ビッグイシュー」は1993年にロンドンで始まったストリートペーパーであること、そして日本は2003年から日本版がスタートしたことを補足。

ストリートペーパーは現在100か国以上に存在しているものの、アジアでは、日本・台湾・韓国のみで、中国にはありません。「中国にないビジネス」を学生たちに理解してもらおうと「貧しい人に魚を与えたら、その日は生きられる。魚釣りを教えたらずっと生きられる」という中国の諺を引き合いに出しながら「ビッグイシュー」の理念を説明しました。

スタッフは講義中、何度も「誰もが排除されない、包摂的な社会を作る」ということを強調。
ホームレス状態になってしまうと将来の希望を失い、自己肯定感が低下してしまう。だからこそ、自分で決めることが、自己肯定感の向上につながり、自立への原動力になることを語ります。

厚生労働省の調査によると、リーマンショックの直後は3万人いた路上生活者は、現在5,000人以下になり、状況は改善しているように見えます。しかし、実際には、正規雇用ではない若者が増加、ニートや引きこもりも推計200万人という社会。ホームレス予備軍がたくさんいるということに注意を払う必要がある社会なのです。

両親の離婚で児童養護施設へ。高校に行かず就職。仕事を転々とし、ホームレスに

続いて、神戸市のJR六甲道で販売をしている小川さんの体験談。 

KIMG0673

小川さんは東京生まれの39歳。小学校1年の時に両親が離婚。お父さんに引き取られたものの「育てられない」と言われ、中学卒業まで児童養護施設に入所したのだそう。
高校に進学すれば児童養護施設にいることができたが、小川さんは高校に進学できなかったため、中学を卒業後、母親が再婚相手と一緒に暮らしている実家に戻ることになります。義理の父親にあたる人との生活はぎくしゃくし、自分の居場所はありませんでした。

しばらくして大工の見習いとして働きはじめるも、あまりの厳しさに1年たたないうちに辞め、次は本を作っている印刷工場で働き始めて流れ作業の一端を担います。本の取次ぎなどでコンビニや書店などにも出向くなかで、「自分は本が好きだ」と実感するようになっていったと言います。

その後数年間、携帯にカメラをつけるという工場で派遣社員として働くことになり、長野県に移住。会社の寮に入り、仕事は楽しく、やりがいもあったのですが、3年たったある時、急に派遣会社が工場から撤退することとなり、仕事と住まいを一度に失います。

東京に戻ったものの、手持ちのお金もなくなり、仕事も見つからず、やむなく野宿生活へ。
スタッフが「自分が野宿なると思っていましたか?」と尋ねると、「想像したこともありませんでした」とのこと。
そうしてしばらく路上生活で日雇いの仕事をするうち、ビッグイシューに出会います。

お客さんと接する時には笑顔も心掛けているという小川さん。現在は、「ビッグイシュー」が借り上げているステップハウスに滞在しながら、「本に関わる仕事に従事して、普通のアパートに住むこと」を目標にして、販売者としてがんばっています。

ビッグイシューの仕事は、店長として販売時間を自分の裁量次第ですが、小川さんは毎日朝の9時から夕方の6時まで、と時間を決めて、販売しています。
 

本気で講義を聞いたからこそ飛び出る、鋭い質問の数々

通訳の陳先生は、一連の説明を受けた後「社会主義は社会的包摂を社会全体でやろうとしたのだが、うまくいかなかった。」と補足。

KIMG0675

そのうえで格差や貧困を乗り越えるための方法として学生たちは「ビッグイシュー」の事業に大きく関心を持ったようで、様々な質問が飛び交いました。真剣な質問内容から、どれだけ関心が深かったかが伺えます。

Q:「包摂的な社会」を目指すことと、「今の社会に社会復帰してもらうこと」は矛盾しませんか

A:もちろん「包摂的な社会」を目指すために雑誌などを通して情報を発信しています。同時に、今生きている社会を受け止めることも大事です。小川さんのように、本に関わる仕事をしたい、という人にはその願いが叶う方向で対応したいと思っています。このように販売者さん一人ひとりが一番いい状態になるよう、スタッフで相談しながらサポートしています。

Q:警察に何か言われることはありませんか?

A:「ビッグイシュー」は「移動販売」とみなされているため、特に許可証がなくても違法ではありません。

Q:「ビッグイシュー」が政策に影響を及ぼしたことはありますか?

A:以前の内閣による「新しい公共」を考える会議に「ビッグイシュー日本」の代表が加わったことがあります。また、「住宅政策」「ギャンブル依存症」「若者のホームレス化」など、ホームレス化の予防や対策につながる事項について、各種問題の専門家と一緒に政策提言をしています。具体的に政策に影響を及ぼしたかどうかはわかりませんが、国会の質問の論拠として使われたこともあり、問題を広く知ってもらうことはできたと思います。

Q:政府から何等かのサポートを受けていますか?

A: 韓国では社会企業に援助があるみたいですが、日本では一般の営利企業と同じで政府からの支援は特にないです。

KIMG0676

Q:ホームレス状態の人に、「販売者にならないか?」と勧誘しても1%くらいしか、販売者にならないとのこと。99%の人はなぜ、販売者にならないのでしょうか?

A:よく言われるのが、接客業が苦手という人にはハードルが高いこと。もうひとつは、「ビッグイシュー」の販売者をやると、人に「自分がホームレス状態であることを知られてしまう」というので、敬遠する人もいます。ただ、ビッグイシューはホームレス状態の人たちにとっての一つの「選択肢」だと思っています。その選択肢が豊かなほど、豊かな社会だと言えると思っています。

中国の大学生向けの授業に、ビッグイシューの講義を選んだわけ

引率の吉林大学の鄭先生が今回、ビッグイシューを講演者として選んでくださった理由は、「ソーシャルインパクトが大きいことと、経営スタイルが成熟していること」。

講義後の学生さんたちのことを「今回の調査で学生たちがソーシャルビジネスの可能性について興味を持つようになりました。予想以上に熱くなった。」「ネットにアップロードした今回の講義報告に、台湾と香港の研究者たちが反応した」という嬉しい言葉もいただきました。

20181114120739

格差・貧困、社会的企業について出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/

人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

図書館年間購読制度

※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/